善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

ゴールデンウィークが明けると、「何となく元気がない」「自分から話さなくなった」といった、若手社員の“静かな不調”が表れやすくなります。

一見、業務はこなしていても、内面ではモチベーションの低下や孤立感、不安がじわじわと広がっていることがあります。

その背景には、「がんばっているのに、つらさを出せない」環境があるかもしれません。

これは、職場における心理的安全性(psychological safety)の不足によるものです。

今回は、国家資格キャリアコンサルタント・組織開発コンサルタントとしての視点から、

若手の心を守るための「心理的安全性」について、理論と実践の両面から解説します。

1章:心理的安全性とは何か?

「心理的安全性」という言葉は、ビジネス界で広く使われるようになりましたが、その本質は意外と誤解されています。

ここで、心理的安全性の原点に立ち返って定義を確認しましょう。

心理的安全性の定義

「チームの中で、自分が罰を受けたり恥をかいたりせずに、率直に意見を述べたり質問したりできると感じられる状態」

(出典:Amy C. Edmondson, Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams, Administrative Science Quarterly, 1999)

心理的安全性があるチームでは、

• 「こんなこと聞いていいかな…」と迷わずに質問できる

• ミスをしても責められず、学びの機会に変えられる

• 自分の意見を言っても否定されない

といった“安心して発言・行動できる空気”が醸成されています。

特に、配属間もない若手社員にとって、

この「安心して声を出せる状態」は、心の健康に直結する要素なのです。

2章:「何も言えない」状態が生む心の孤立

若手社員が感じる“つらさ”の多くは、

• 何かうまくいかない

• でも言いづらい

• 誰にも相談できない

という3重の壁の中で深まっていきます。

私が支援したG社でも、ある若手社員がこう漏らしていました。

「同期も忙しそうだし、上司はちょっと怖くて…。質問していいのか迷ううちに、どんどん苦しくなりました。」

その社員は、実際には十分な努力をしていたにもかかわらず、「話せなかった」「頼れなかった」ことで自信を失っていきました。

心理的安全性が低い環境では、

• ミスを隠す

• 質問が減る

• 孤立が進む

という“見えない悪循環”が起こります。

3章:若手社員を守る「心理的安全な職場」の3要素

では、若手の心を守り、成長を支える職場づくりには何が必要なのでしょうか?

ここでは、心理的安全性を高めるための3つの実践要素をご紹介します。

① 「歓迎されている」感覚をつくる

心理的安全性の第一歩は、「あなたはここにいていい」というメッセージを伝えることです。

• 初期配属後の1週間は「雑談1on1」を必ず実施

• 新人が話しやすい「相談のハードルが低い先輩」を明確に示す

• 小さな成功を頻繁に称賛する

これらは、若手が「受け入れられている感覚」=基本的信頼を得るうえで欠かせません。

② 「見ているよ」というふるまいを日常に入れる

心理的安全性は、「誰も見ていない」状態では維持できません。

• 変化に気づいたらすぐ声をかける

• 表情、姿勢、反応の変化に気を配る

• 小さな働きにも「ありがとう」と言う

こうした“観察と承認”の繰り返しが、若手の不安を軽減し、自信の回復につながります。

③ 「否定されない場」を設計する

若手が発言をためらうのは、「間違ったらどうしよう」「叱られたら嫌だな」という思いがあるからです。

• 意見を出し合う際は「正解を出す場ではない」ことを明示

• 出された意見にまず「なるほど」「面白いね」と応じる

• 否定ではなく「追加提案」「問い返し」でつなぐ

これにより、若手は「間違えても大丈夫」という心理的な安心を得ることができます。

4章:マネジャーだけでなく「チームと組織」で守る

心理的安全性は、マネジャー個人の力量だけに依存すべきものではありません。

組織として、チーム全体で支える視点が不可欠です。

組織としてできる工夫

• “聞く文化”を明文化する(例:対話の心得カードを配布)

• 毎週「感じたことを話す5分」をチームMTGに入れる

• 心理的安全性を評価項目の一部にする

これらの仕組みを取り入れることで、誰かの「気づき」や「声かけ」が属人的にならず、文化として育ちます。

まとめ:「安心できる」ことは、生産性の源でもある

心理的安全性は、単に“仲良し”や“優しさ”の話ではありません。

それは、組織が若手を守り、成長を支えるための土台であり、

同時に、学習するチーム・挑戦する文化・成果を出す組織の条件でもあるのです。

五月病を防ぐ近道は、

「もっと話していい」「頼っていい」という空気を、仕組みとふるまいで日常に浸透させること。

若手社員が声を出せる組織は、必ずその声から未来をつくっていきます。

📚おすすめの一冊

『心理的安全性のつくりかた』 (著者:石井遼介/出版社:日本能率協会マネジメントセンター)

この書籍では、心理的安全性を「組織文化として育てる」ための実践知が豊富に紹介されています。

日本企業における成功・失敗事例をもとに、誰でも取り組める行動がわかりやすく整理されており、

マネジャーだけでなく、組織全体の風土改革にも役立つ一冊です。

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