善くはたらくための考察

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ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

事実は一つ、捉え方は多様~思考と行動パターンをデザインする6日間

思考の「フィルター」を外す!~ネガティブループを断ち切る認知の歪み解消法~

皆さん、こんにちは。坂本です。

昨日、私たちは「事実は一つ、解釈は無限」というテーマを通じて、同じ出来事でも人によって捉え方が異なり、その解釈を選ぶ自由が私たちの心の自由へと繋がることを学びました。自分の「思考のフレーム」が現実をどう構築しているか、少しはご理解いただけたのではないでしょうか。

しかし、頭では理解できても、なぜかネガティブな解釈に囚われてしまう…そんな経験はありませんか?例えば、たった一度の失敗で「自分は何をやってもダメだ」と感じてしまったり、相手の一言を過剰に悪意的に捉えてしまったり。これらは、私たちが無意識のうちに陥っている「認知の歪み」が引き起こしている現象かもしれません。

今日は、この「認知の歪み」に焦点を当てます。認知の歪みとは、情報や出来事を客観的ではなく、非論理的・非現実的な方向に捉えてしまう思考の癖のことです。この歪みが、私たちをネガティブな感情のループに引き込み、行動を制限する原因となることがあります。

私たちがどんな年齢、どんなキャリアステージにいても、この「思考のフィルター」は存在し、知らず知らずのうちに私たちの判断や行動に影響を与えています。このフィルターに気づき、それを外し、より健全な思考へと変容させる具体的な方法を、皆さんと一緒に探っていきましょう。

1. あなたをネガティブループに引き込む「認知の歪み」とは?

「認知の歪み」とは、心理学、特に認知行動療法の分野で広く研究されている概念です。ペンシルベニア大学名誉教授の精神科医、アーロン・T・ベック博士によって体系化されました。ベック博士は、うつ病患者の治療において、彼らのネガティブな思考パターンに共通する特定の「歪み」があることを発見し、この歪みを修正することが症状改善に繋がることを示しました。

私たちは日々、膨大な情報を処理していますが、その全てを論理的に、客観的に分析しているわけではありません。脳は効率を求めるため、過去の経験や信念に基づいた「ショートカット」を使って情報を解釈します。このショートカットが、時に「歪み」を生み出すのです。

この「歪み」が、私たちの感情、ひいては行動に悪影響を及ぼし、ネガティブな感情のループに陥らせてしまうことがあります。特に職業人においては、仕事のパフォーマンスや人間関係に大きな影響を与える可能性があります。

1.1. 職業人が陥りやすい「認知の歪み」の典型例

ここでは、仕事の場面でよく見られる代表的な認知の歪みをいくつかご紹介します。皆さんも「ハッ!」とすることがあるかもしれません。

  1. 「全か無か思考(白黒思考)」:
    • 特徴: 物事を白か黒か、完璧か失敗か、といった両極端で捉える思考パターン。「100点以外は0点」のように考えがちです。
    • 仕事の例: プレゼンが少しでもうまくいかないと「完全に失敗だ」と思い込んだり、一つのミスで「自分は全く仕事ができない人間だ」と結論づけたりする。
    • 影響: 完璧主義に陥りやすく、行動に踏み出せない、または小さなミスで大きく落ち込む。
  1. 「一般化のしすぎ」:
    • 特徴: たった一度のネガティブな出来事を根拠に、「いつもこうだ」「全てこうなるだろう」と結論づけてしまう思考パターン。
    • 仕事の例: ある顧客に一度断られただけで「私は営業に向いていない、誰からも受け入れられない」と思い込む。会議で一度発言をスルーされただけで「私の意見はいつも聞いてもらえない」と決めつける。
    • 影響: 新しい挑戦を避けたり、チャンスを逃したりする。
  2. 「心のフィルター(選択的抽出)」:
    • 特徴: ポジティブな側面を無視し、ネガティブな側面ばかりに焦点を当ててしまう思考パターン。まるで、ネガティブな情報だけを吸い取る「フィルター」をかけているかのようです。
    • 仕事の例: 顧客から99%は褒められたのに、1%の改善点だけが頭から離れず、自分はダメだと感じ続ける。良い成果を出しても、「たまたまだ」とネガティブな点ばかりに目を向ける。
    • 影響: 自己肯定感が上がりにくく、達成感を感じにくい。
  3. 「結論の飛躍」:
    • 特徴: 根拠が乏しいのに、性急にネガティブな結論を出してしまう思考パターン。特に以下の2種類があります。
      • 「心の読みすぎ」: 他の人が自分に対してネガティブなことを考えていると決めつける。「上司は私のことを無能だと思っているに違いない」
      • 「先読みのしすぎ」: 未来のネガティブな結果を、根拠なく予測してしまう。「どうせこの企画は通らない」
    • 仕事の例: 上司から話しかけられた時、「何かミスをしたに違いない」と勝手に悪い方向へ想像したり、プレゼン前に「どうせ失敗するから」と準備を怠ったりする。
    • 影響: 不要な不安や緊張を生み出し、人間関係や行動に悪影響を与える。
  1. 「感情的決めつけ(感情的理由づけ)」:
    • 特徴: 自分の感情が、客観的な現実の証拠だと信じ込んでしまう思考パターン。「感じるから、それが真実だ」と捉えます。
    • 仕事の例: 「なんとなく不安だから、きっと失敗するだろう」と感じて、行動しない。特定の相手にイライラするから「あの人は悪い人だ」と決めつける。
    • 影響: 論理的な判断ができなくなり、感情に振り回されて衝動的な行動をとったり、チャンスを逃したりする。

これらの認知の歪みは、私たちが多かれ少なかれ持っているものです。重要なのは、その存在に気づき、それが自分の思考や行動にどのような影響を与えているかを理解することです。特に経験豊富なベテランの方々は、長年のキャリアの中で無意識にこれらのフィルターを強化してしまっているケースもあります。一度立ち止まって、自身の思考パターンを客観視する良い機会となるでしょう。

2. 思考の「フィルター」を外し、ネガティブループを断ち切る方法

認知の歪みに気づいたら、次にそのフィルターを外し、より客観的で健全な思考へと「再フレーム」していく方法を学びます。これは、「証拠を探す」「別の見方を考える」「自分に問いかける」というプロセスを通じて行われます。

2.1. 思考を客観視する「距離を取る」練習

まず、ネガティブな思考や感情が湧き上がってきたら、それにすぐに飛びつかずに、一歩引いて客観的に見つめる練習をしましょう。

  • 「思考は事実ではない」と認識する: 頭に浮かんだことは、必ずしも真実ではありません。「~と感じているな」「~と考えているな」というように、「私」と「思考」を分離して捉えてみましょう。
  • 「内なる声」に名前を付ける: 例えば、あなたを批判する思考が浮かんだら、「ああ、また『批判の声さん』が何か言ってるな」と、その声に名前を付けて客観視するのも有効です。

2.2. 歪みを修正する「3つの問いかけ」

ネガティブな思考パターンに気づいたら、以下の3つの問いを自分自身に投げかけてみましょう。これは、認知行動療法の基本的なアプローチです。

  1. 【証拠を探す】「その考えの証拠は何だろう?反対の証拠は何だろう?」
    • 例えば、「自分は仕事ができない人間だ」という思考が浮かんだら、本当にそう言える証拠を探します。一方で、これまでの成功体験や周囲からの感謝の言葉など、反対の証拠も探してみましょう。多くの場合、客観的な証拠は乏しいことに気づくはずです。
  2. 【別の見方を考える】「他の解釈はできないだろうか?(視点転換)」
    • 昨日のリフレーミングのワークと同様に、その出来事や思考について、別の角度から見たり、他の人がどう捉えるかを想像したりしてみましょう。
    • 例:「上司のフィードバックが厳しかった」という事実に対して、「自分への期待の裏返しかもしれない」「もっと成長してほしいというメッセージだ」など、複数の解釈を考えてみます。
  3. 【もし友人が同じ状況だったら?】「もし、大切な友人が同じ状況だったら、私は何と声をかけるだろう?」
    • 私たちは往々にして、他人には寛容なのに、自分自身には非常に厳しいものです。親しい友人が同じ悩みや思考パターンに陥っていたら、あなたはどんなアドバイスをするでしょうか?そのアドバイスこそが、今のあなたに必要な言葉かもしれません。自分を客観視し、自己批判のループから抜け出す助けになります。

3. 今日からできる!「思考のフィルター」を外すワーク

それでは、今日の学びを実践に移すための簡単なワークを試してみましょう。これは、あなたの思考の癖に気づき、それを書き換えるための具体的な訓練となります。

ワーク:あなたの「思考の歪み」を言い換える

このワークでは、最近あなたがネガティブに感じた出来事について、自分の思考パターンに潜む「認知の歪み」を特定し、それを健全な思考に「言い換える」練習をします。

  1. STEP 1】最近、あなたが「モヤモヤした」「ネガティブに感じた」出来事を一つ思い出す。
    • (例:プレゼンでミスをして落ち込んだ。同僚に協力を断られた。企画がボツになったなど。)
  2. STEP 2】その出来事に対して、あなたが「どんな思考(自動思考)をしたか」を具体的に書き出す。
    • (例:「また失敗した。自分は本当に使えない人間だ。」「あの人はいつも協力してくれない。自分だけが損をしている。」)
  3. STEP 3STEP 2で書き出した思考の中に、今日の記事で紹介した「認知の歪み」が隠れていないか確認する。
    • (例:「自分は本当に使えない人間だ」→「全か無か思考」「一般化のしすぎ」)
    • (例:「あの人はいつも協力してくれない。自分だけが損をしている」→「一般化のしすぎ」「心の読みすぎ」)
    • 複数当てはまることもあります。無理に特定しようとせず、「これかな?」と思うもので構いません。
  4. 【STEP 4】その歪んだ思考を、「健全な思考」に言い換えて書き出す。
    • STEP 3で特定した認知の歪みを修正するように、以下の問いかけを参考に、より客観的で、建設的な言葉に変換してみましょう。
      • 「この思考の証拠は何だろう?反対の証拠は?」
      • 「この状況について、他にどんな解釈ができるだろう?」
      • 「もし大切な友人が同じ状況だったら、私は何と声をかけるだろう?」
    • 言い換え例:
      • 「自分は本当に使えない人間だ。」→ 「今回のプレゼンはミスがあったが、その原因を分析すれば次はもっと良くなる。他の仕事では貢献できていることもたくさんある。」
      • 「あの人はいつも協力してくれない。自分だけが損をしている。」→ 「今回は協力してもらえなかったが、もしかしたら彼も忙しいのかもしれない。今後、協力してもらうために、別の頼み方やタイミングを考えてみよう。」

このワークを日常的に実践することで、あなたは無意識のうちに作っていたネガティブな思考のフィルターを自ら外し、よりクリアで、前向きな「現実」を創造できるようになるはずです。

おわりに:思考の「デザイン」は、未来を変える力

今日の記事では、私たちの思考パターンに潜む「認知の歪み」に焦点を当て、それがネガティブな感情のループや行動の制限に繋がるメカニズム、そしてそれを解消するための具体的な方法を探ってきました。

「事実は一つ、解釈は無限」という真理は、私たちに「自分の思考のフィルターを選び直す自由」があることを教えてくれます。この自由を行使し、ネガティブな思考パターンを健全なものへと「デザイン」し直すこと。これは、あなたの心の負担を減らし、仕事のパフォーマンスを高め、人間関係をより豊かにするだけでなく、どんな年齢、どんなキャリアステージにおいても、あなたの未来を自らの手で切り拓く強力な力となるでしょう。

さあ、今日から、あなたの思考に潜むフィルターに意識を向け、それを外す練習を始めてみませんか?その小さな意識の変化が、あなたの人生に大きなポジティブな変化をもたらすことを信じています。

明日6月25日(水)は、「行動の『パターン』を変える鍵~小さな習慣から生まれる大きな変容~」と題して、思考の変容を行動へと繋げ、新しい習慣を身につけるための具体的な方法を深掘りしていきます。どうぞお楽しみに!

あなたが自身の思考パターンをデザインし、より良い未来を築けるよう、全力で応援いたします。

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