心の栄養素「ストローク」で自己肯定感UP
なぜあなたの「心のコップ」は満たされないのか?承認欲求とストロークの科学
こんにちは、坂本です。皆さんのキャリアと組織の成長を応援しています。
「いくら頑張っても満たされない」「常に誰かの評価を気にしている」「心からリラックスできる瞬間がない」――現代のビジネスパーソンは、常に目に見えない疲労感と戦っています。この心の奥底にある「渇き」の正体こそが、私たちが今回深く掘り下げる「承認欲求の飢餓」です。
この連載では、人間関係の基本原理である「交流分析(TA:Transactional Analysis)」の最も重要な概念、「ストローク(Stroke)」、すなわち「承認」の理論を応用します。ストロークは、私たちの心と脳にとって、食物や水と同じくらい不可欠な「心の栄養素」です。
初回となる今回は、この心の栄養素「ストローク」とは何か、そして、私たちの心の状態を象徴する「心のコップ」がなぜ満たされないのかという根本的なメカニズムを解き明かします。この理論を理解することが、健全な自己肯定感を育み、「I’m OK, You’re OK」という最高の人間関係の土台を築くための、最初の一歩となります。
1. ストローク:心のエネルギーを生む「栄養素」の正体
ストロークとは、交流分析(TA)の創始者エリック・バーン博士によって提唱された概念で、「人が他者の存在や行動を認知するために行う全ての働きかけ」を指します。これは、挨拶からアイコンタクト、褒め言葉、さらには叱責や無視に至るまで、あらゆるコミュニケーションの根源です。
TAの基本概念とエリック・バーンの洞察
バーン博士は、赤ちゃんの生存に物理的な接触(撫でる、抱きしめる)が不可欠であることから着想を得て、大人になってもこの「接触=認知」の必要性は形を変えて残り続けると結論付けました。これが「ストローク」です。つまり、ストロークは人間が社会的な存在として生きるための、最低限必要なエネルギー交換なのです。この交換がなければ、私たちは精神的に枯渇してしまうという、深い洞察に基づいています。
「ストローク飢餓」が示す承認の絶対的必要性
人間は、ストロークが完全に断たれることを極度に恐れます。この状態をTAでは「ストローク飢餓(Stroke Hunger)」と呼びます。例えば、物理的な接触が許されない環境では、人は言葉や視線によるストローク(挨拶や認知)を求めます。もし肯定的ストローク(褒め言葉、感謝)が得られない場合、人間は心の飢餓を満たすために、否定的ストローク(叱責、嫌味)でさえも無意識に求めてしまいます。「無視されるより、怒鳴られた方がマシ」という心理状態は、このストローク飢餓が引き起こす、極めて本能的な反応なのです。
感情とストローク交換の生物学的基盤
最近の神経科学の研究では、ストローク(特に肯定的ストローク)を受け取った際、脳内でオキシトシン(愛情ホルモン)やドーパミン(快楽物質)が分泌されることが分かっています。これは、ストロークが単なる心理的な現象ではなく、私たちの感情とウェルビーイングを直接的に規定する生物学的なメカニズムであることを示唆しています。職場で肯定的ストロークが活発に交換されていると、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌が抑えられ、チーム全体の心の健康が保たれます。
2. 心のコップ理論:なぜ承認は「漏れてしまう」のか
私たちの心の状態を分かりやすくモデル化したのが「心のコップ理論」です。コップの容量や、コップの口の状態(フタの有無)が、私たちがどれだけストロークを受け入れ、蓄積できるかを決定します。
コップのサイズとフタ(人生脚本)のメカニズム
私たちの「心のコップ」は、主に幼少期の親とのストローク交換を通じて形成されます。コップが小さく設定されたり、フタが固く閉ざされたりしている人は、受け取るストロークの量が制限されます。このフタの正体こそが、TAでいう「人生脚本」、つまり「自分は愛される価値がない」「褒められる資格がない」といった、幼少期に無意識に受け入れたネガティブな心のルールです。この脚本があるため、せっかくの肯定的ストロークが心のコップの外にこぼれてしまうのです。
「心のコップ」を満たすことの最終目的
心のコップを満タンにすることの最終的な目的は、「他者からのストロークに依存しない、自律した自己肯定感」を築くことです。コップが満たされている状態とは、私たちが「I’m OK(私はOKだ)」という絶対的な土台を持つことです。この土台があれば、他者からの否定的ストロークや批判(心の毒)を受けても、コップの水が減ることはあっても、ひっくり返って全てが失われることはありません。
コップの水を守る「ストロークの6つのルール」
TAでは、ストロークの交換を不健全にし、コップの水を漏らしてしまう「ストロークの6つのルール(禁止令)」があると言われています。
- 求めるな: 必要なストロークを求めることを自分に許さない(我慢)。
- 与えるな: 他者に肯定的ストロークを与えることをためらう(出し惜しみ)。
- 受け取るな: 褒め言葉や感謝を素直に受け取れない(拒否)。
- 拒否するな: 否定的ストロークを拒否できず、受け入れてしまう(自己否定)。
- 自己ストロークするな: 自分で自分を褒めたり承認したりしない(自己不信)。
- 肯定的ストロークの交換を避けるな: 健全な交流から逃げてしまう。
これらの禁止令を一つでも破る「再決定」をすることが、心のコップを満たすための実践的なステップとなります。

3. ストロークの分類:量ではなく「質」が重要
ストロークは、単に「褒める」「叱る」という二元論ではなく、「質」によって細かく分類されます。この分類を理解することで、私たちは人間関係で交わすストロークの質を意識的に高めることができます。
存在を認める「無条件」ストロークの力
「無条件の肯定的ストローク(Unconditional Positive Stroke)」は、その人の存在そのもの、人間性、人格に対して与えられる承認です。「あなたがいるだけで嬉しい」「いつもチームにいてくれて助かる」といったメッセージです。これは、「行動や成果」に一切条件をつけないため、最も深く、相手の自己肯定感の土台を築きます。特に、成果が出ていない時、落ち込んでいる時にこのストロークを与えることが、相手の心の安全保障となります。
行動を認める「条件付き」ストロークの役割
「条件付きの肯定的ストローク(Conditional Positive Stroke)」は、特定の行動、成果、努力に対して与えられる承認です。「この企画書、データ分析が素晴らしかったよ」「諦めずに最後まで粘った君の姿勢を評価する」といったメッセージです。これは、望ましい行動を強化し、再現性を高めるために不可欠です。職場のマネジメントにおいては、この条件付きストロークを具体的に、タイミング良く与える技術が、部下のモチベーションと成長を左右します。
活力を奪う「否定的」ストロークの危険性
否定的ストローク(Negative Stroke)は、相手に不快感を与える全ての働きかけです。これにも、「条件付き」(特定のミスを叱責する)と「無条件」(人格を否定する、無視する)があります。無条件の否定的ストローク、特に「無視(あなたは存在しない)」は、人間の心にとって最も大きなダメージを与え、自律的な思考を奪い、「I’m Not OK」という自己否定の脚本を強固にしてしまいます。
言葉を超えた「非言語ストローク」の重み
ストロークは、言葉だけでなく、非言語的な要素(ノンバーバル・コミュニケーション)によっても交換されます。笑顔、うなずき、アイコンタクト、話を聞く姿勢は、全て肯定的ストローク(無条件)として機能します。逆に、ため息、腕組み、目を合わせない、話の途中でさえぎるといった行為は、否定的ストローク(ディスカウント)として相手に伝わり、言葉で褒めていても「裏で否定されている」という二重のメッセージを与えてしまいます。
4. 承認欲求の心理学:私たちはなぜ「認められたい」のか
ストロークを求める私たちの行動は、人間の最も根源的な欲求の一つである「承認欲求」に深く結びついています。この欲求の健全な満たし方を理解することが重要です。
マズローの欲求段階説における承認の位置づけ
心理学者アブラハム・マズローの欲求段階説において、承認欲求は、生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求に次ぐ第4段階に位置づけられています。これは、人間がコミュニティに所属し、物理的に安全が確保された後で、「集団の中で能力を認められたい」「価値ある存在として尊重されたい」という高次の欲求として現れることを示しています。この欲求が満たされないと、私たちは自己不信や劣等感に苛まれることになります。
日本社会における承認欲求の特異性
集団主義の文化が根強い日本社会では、「他者からの評価」に大きく依存する形で承認欲求が発達しやすい傾向があります。海外のTA研究では「自分で自分の価値を決める」という自律性が強調されますが、日本では「空気を読む」「和を乱さない」といった行動を通じて、「周りの人から否定されない」という消極的な承認を求めがちです。これにより、肯定的ストロークを素直に受け取るよりも、否定的ストロークを回避することにエネルギーを使い、心が慢性的に疲弊しやすくなります。
依存的な承認欲求と自律的な自己肯定感の違い
承認欲求には二つの方向性があります。一つは「依存的な承認欲求」で、他者からのストロークがないと自分の価値を維持できない状態です。もう一つは、「自律的な自己肯定感」で、これは自分で自分の価値を認め(自己ストローク)、他者からのストロークは心の栄養として「感謝して受け取る」ことができる状態です。私たちが目指すべきは、他者に依存することなく、自ら心のコップを満たし、健全な関係を築ける「自律的な自己肯定感」です。
5. ワーク:あなたの「心のコップ」の状態をセルフチェック
まず自分の心のコップの状態と、日々のストローク交換の傾向を客観的に把握することが、改善への第一歩です。以下のワークに取り組んでみましょう。
ワーク1:「無条件ストローク」欠乏度の診断
過去一週間で、以下の問いに「はい」と答えられる回数を記録してください。
- 誰かから、あなたの仕事の成果や行動に関係なく、「あなたがいるだけで助かる」といった存在そのものを認める言葉を受け取りましたか?
- あなたは、鏡を見て、あるいは心の中で、「今日も一日、生きてくれてありがとう」といった無条件の承認を自分自身に与えましたか?
- あなたは、家族や親しい人に、理由なく「ありがとう」や「大好きだ」といった無条件の感謝を伝えましたか?
「はい」の数が少ないほど、あなたとあなたの周囲は「無条件ストローク」が欠乏している状態です。この欠乏こそが、心のコップの水を常に減らしている原因です。
ワーク2:否定的なストローク交換パターンを記録する
過去24時間で、あなたが不快感を感じた全てのコミュニケーション(言葉、メール、非言語全て)を記録し、それが「否定的ストローク」だったかどうかを分析してください。
- (例)上司が話を聞いている途中で、ため息をついた。
- (例)同僚の仕事のミスを、つい人前で指摘した。
- (例)誰かからの褒め言葉に対し、反射的に「いえいえ、そんなことないです」と否定した(肯定的ストロークを拒否することも一種の不健全なパターン)。
この記録を通じて、あなたが「無意識に与えている心の毒」と「無意識に拒否している心の栄養」のパターンを可視化できます。

6. まとめ:コップを満たし、I’m OKな土台を築く
初回である今回は、ストロークが私たちの心にとって、いかに不可欠な「栄養素」であるかを見てきました。
- ストロークは、人間の存在を認知するための、不可欠なエネルギー交換です。
- 心のコップを空にする原因は、幼少期の「人生脚本」によって作られた、ストロークの「受け取るな」「求めるな」という禁止令です。
- 最も大切なのは、「量」ではなく、「無条件」と「条件付き」を適切に使い分けるストロークの「質」です。
連載は、明日から「どうすれば、私たちは心のコップを満たせるのか」という具体的な実践論へと進みます。次回のテーマは、「職場で活かす!効果的な『肯定的ストローク』の与え方」です。
まずは、今日一日、意識的に「無条件の自己ストローク」を自分に与え、自分のコップにフタをしていないか確認してみてください。あなたの心が満たされる旅は、ここから始まります。
心のコップを満たし、組織のゲームを終わらせる
本連載で解説したストローク(心の栄養)、心のゲーム、そして「I’m OK, You’re OK」という自己肯定感の理論は、個人の意識変革と組織全体のコミュニケーション構造を変える力を持っています。
しかし、理論を知るだけでは、長年の「人生脚本」を変え、職場の不毛なパターンを断ち切ることはできません。
私、坂本が主宰するTA(交流分析)をベースとした研修・コンサルティングサービスは、単なる知識提供ではなく、理論の実践と現場での行動変容に焦点を当てています。
【お客様の組織に合わせたオーダーメイドの変革プログラム】
1. TA(交流分析)認定講座
- 目的: 個人の自己理解と自律性の確立を最優先します。エゴグラムによる自我状態の分析、人生脚本の解読など、TAの深い理論を体系的に学び、心のゲームを仕掛けない「I’m OK, You’re OK」な自律型人材を育成します。
- 対象: 自己変革を深く求めたい個人、認定資格取得を目指す方。
2. 人材開発・組織開発研修プログラム
- 目的: TA理論に基づき、チームの心理的安全性と生産性を同時に高めます。
- テーマ例:
- リーダーシップ研修: 破壊的な否定的ストロークを建設的なフィードバックに変える、ストローク交換の黄金比実践。
- チームビルディング: 迫害者・犠牲者・救助者という「ドラマの三角形」の役割から降り、相互信頼に基づく親密な交流が可能な組織文化を設計します。
- コミュニケーション改善: 複雑な二重交流を解消し、大人(A)の自我状態による論理的かつ共感的な対話を習慣化します。
「なぜか繰り返される人間関係の悩み」「優秀な人材が定着しない組織風土」といった根深い課題を、TA理論の力で根本から解決します。
組織の状況に合わせた最適な研修・コンサルティングをご提案いたします。詳細、または無料相談については、以下よりお気軽にお問い合わせください。
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