組織を停滞させる「心のゲーム」の正体
組織を停滞させる「心のゲーム」の正体:ドラッカーが警告するコミュニケーションの非効率性
こんにちは、坂本です。皆さんのキャリアと組織の成長を応援しています。
皆さんの職場で、「また同じ話の繰り返しだ」「なんでこの問題はいつも解決しないんだろう」と感じることはありませんか?議論を重ねても、誰もが疲弊するだけで、生産的な結論に辿り着かない。
今日のテーマは、この職場の非生産的なやり取りの構造を解き明かす、TA(交流分析)の核心的な理論の一つ、「ゲーム分析」です。
ゲーム分析とは、一見普通の会話に見えて、裏側に隠された意図があり、最終的に「バッドエンド(心理的な報酬)」を目的とする、不毛なコミュニケーションのパターンを指します。
このゲームは、ドラッカーが組織の癌として警鐘を鳴らした「コミュニケーションの非効率性」の最も深刻な形です。リーダーは、このゲームの存在とその構造を理解し、アダルト(Adult)な自我状態による生産的な対話へと組織を導く責任があります。
心のゲームの構造:なぜ組織は「不毛な繰り返し」に陥るのか
心のゲームは、特定のストローク(心の栄養)を得るために、無意識のうちに「役割」を演じ合い、会話を操作する行為です。ゲームの参加者は、最終的な「心理的報酬(感情の回収)」を得ることで、自分の人生脚本を再確認します。
ゲームの三要素と目的:「バッドエンド」の回収
ゲームは、以下の三つの要素と目的で構成されます。
箇条書き:心のゲームの三要素と目的
- フック(誘い水): 一見無邪気に見える、相手を特定の役割に引き込むための最初のメッセージ。
- スイッチ(役割の転換): 参加者が演じている役割(例:救済者)が、突然別の役割(例:加害者)に変わる瞬間。これがゲームの核心です。
- ご褒美(心理的報酬): ゲームが終わり、参加者が回収する不快な感情(例:怒り、絶望、無力感)。この感情こそが、ゲームの目的です。
参加者は、この不快な感情の回収を通じて、「やはり自分はダメだ」「誰もわかってくれない」といった自分の人生脚本を強化し、その状態を「心の栄養」として利用します。
ドラッカーが指摘した「内向きの議論」のゲーム化
ドラッカーは、組織が陥る非生産的な状況として**「内向きの議論」を指摘しています。これは、「顧客の創造」という外向きの目的から目を背け、内部の人間関係や手続きに終始する議論です。
「内向きの議論」がゲーム化する事例:「見捨てられた被害者」
- ゲーム: 「なぜ私ばかりがこの面倒なシステム管理をしなければならないのか」
- フック: 「手伝ってくれないか?」という「無力な被害者」のフック。
- リーダーの反応(NGな救済者): 「分かった。君は大変だね。私が代わりにやっておこう。」
- 結果: リーダーは「救済者」として一時的に自己満足を得ますが、部下は「無能な被害者」としての役割を強化し、自律的な解決能力を失います。
このゲームが繰り返されると、組織のエネルギーは「解決」ではなく「役割の再確認」に費やされ、生産性はゼロになります。
組織の非効率を生む「ドラマの三角形」の役割
TAのゲーム分析では、「ドラマの三角形(Karpman’s Drama Triangle)」というモデルが使われます。これは、非生産的なゲームで登場する三つの役割です。
ドラマの三角形の三つの役割
- 加害者(Persecutor – P): 批判的で、他の人を攻撃・支配する役割。「お前のせいで失敗した」
- 被害者(Victim – V): 無力で、助けを求め、責任を回避する役割。「私には無理だ、助けて」
- 救済者(Rescuer – R): 助けを求められていないのに助けに入り、問題を解決させない役割。「私が代わりにやってあげる」
組織内の不毛な議論では、この三つの役割がスイッチし合います。例:「救済者」として入ったリーダーが、解決できないと分かると「加害者」にスイッチし、「なんでこんなこともできないんだ」と部下を責め始める、といった具合です。

ゲームから脱却するためのリーダーの「アダルト」戦略
ゲームから脱却する唯一の方法は、ドラマの三角形の役割を拒否し、アダルト(Adult)の自我状態による現実的・客観的な対話に切り替えることです。
加害者・被害者・救済者のフックを断ち切る
リーダーは、部下から投げかけられるフックをアダルトで冷静に分析し、その役割を引き受けないことが重要です。
フックとアダルトな対処法
- 被害者のフック(「私には無理だ、助けて」)
- 対処法: 「あなたは、この問題解決のために、すでにどんな情報を集めたかを教えてほしい。」(救済者にならず、情報共有と自律的思考を促す)
- 加害者のフック(「なんであの部署はいつも足を引っ張るんだ」)
- 対処法: 「その発言は問題解決に役立つか?役に立つなら、具体的な事実で話してほしい。」(加害者にならず、客観的な事実を要求する)
- 救済者のフック(「この件は私が責任を持つべきだ」)
- 対処法: 「ありがとう。あなたの善意は理解した。だが、責任の範囲について客観的なルールを再確認しよう。」(救済者にならず、境界線を引く)
ドラッカーは、コミュニケーションの目的は「理解」ではなく「成果」だと強調しました。ゲーム分析を導入することで、リーダーは会話が「役割の演劇」に向かっているのか、「成果」に向かっているのかを判断できるようになります。
「構造化された対話」でアダルトな関係を築く
ゲームの多くは、曖昧な感情や一般論から始まります。これを防ぐには、対話の構造化が必要です。
ゲームを回避する構造化された対話のステップ
- ルール設定: 会話の冒頭で、「今日の目的は、解決策を2つ出すことだ」と宣言する。
- 事実の特定: 感情や解釈を排除し、「何が」「いつ」「どこで」起きたかの客観的事実のみを書き出す。
- 責任の明確化: 「誰が次に何をすべきか(WWA: Who will do what)」を合意し、必ず記録する。
- ストロークの分離: 議論の最後に、「今日の客観的な議論(Adult)は良かった」と条件付きの肯定的ストロークを与える。
この構造化は、部下を感情的なChildから引き出し、Adultの自我状態での思考を強制します。
組織の「禁止令」を解き、ゲームの根本を断つ
ゲームの根底には、組織内に存在する無意識の「禁止令」が関係しています。例:「成功するな」「考えるな」「感情を感じるな」といった禁止令が、メンバーを被害者や救済者の役割へと駆り立てます。
リーダーは、意識的に「許可(Permission)」を与えるストロークを増やすことで、このゲームの発生源を断ち切る必要があります。
ゲームを防ぐためのリーダーからの「許可」
- 「失敗しても大丈夫」: 無条件の肯定的ストロークを増やし、「成功するな」の禁止令を解除する。
- 「まず自分で考えていい」: 解決策を求められてもすぐには教えず、「考えるな」の禁止令を解除する。
- 「感情を表現していい」: 建設的な方法でなら、不満や不安をオープンに表明する機会(例:匿名アンケート)を作ることで、「感情を感じるな」の禁止令を解除する。
まとめ:「成果」に焦点を当てるリーダーの規律
TAのゲーム分析は、組織内の非生産的な人間関係が、いかに個人の人生脚本に根差しているかを教えてくれます。ドラッカーが提唱した「成果に焦点を当てる規律」は、このゲームから脱却するための最も強力な武器です。
リーダーは、感情的な役割に引き込まれず、常にアダルトの自我状態で、客観的な事実と次にとるべき行動に焦点を当ててください。この規律こそが、組織を「不毛な演劇」から解放し、知識の創造という本来の目的に立ち返らせるのです。








