善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

人間力④:なぜ「不健全な交流」が組織の品性を破壊するのか?

こんにちは、坂本です。皆さんのキャリアと組織の成長を応援しています。

前回は、品性あるリーダーシップの核心である「承認のストローク」について深く掘り下げました。他者の自律性を尊重し、利他的な貢献を促す理性的承認が、いかに組織の信頼資本を築くかを理解いただけたかと思います。皆さんは今、自分と他者の人間力を高め、組織に品性ある文化を創り出すための実践的な技術を手に入れています。

しかし、どれだけ理性的で品性あるリーダーであっても、組織には必ず「不健全な交流」や「自己破壊的な行動パターン」が存在します。これは、心理学でいう「ゲーム」や「ラケット感情」といった、無意識下で駆動する交流パターンです。理性(Adult)の光が当たらないこの領域の行動は、気づかないうちに組織全体の品性を内部から蝕んでいきます。週末の間に、皆さんのチーム内でこの種の交流が起きていなかったか、ぜひ内省してみてください。

たとえば、皆さんのチームには、こんな状況はありませんか?

  • 「会議でいつも同じ人が不満を漏らすだけで、解決策は出さない」
  • 「成果が出ていないのに、いつも忙しいふりをして残業している人がいる」
  • 「小さなミスを大げさに自虐し、周囲の同情を誘おうとする」

これらは、真の貢献(利他)から逃げ、感情的な代償を得ようとする行動パターンです。これらの行動は、一貫した利他的な姿勢を損なうため、組織の品性を深刻に破壊します。

本日は、この品性を破壊する組織内の不健全な交流の正体を暴きます。交流分析(TA理論)のラケット感情と時間の構造化パターンを理解することで、自己破壊的な行動を組織内で防ぎ、品性ある貢献へとメンバーのエネルギーを導くための、リーダーとしての具体的な洞察を提供いたします。

1. 品性を蝕む「ラケット感情」と「切手収集」のメカニズム

(この章では、TA理論の重要な概念であるラケット感情(偽の感情)が、いかに真の課題解決からメンバーを遠ざけ、組織のエネルギーを浪費させるかについて深く掘り下げます。これは、利他的な品性とは対極にある自己中心的な行動の構造を理解するための土台となります。)

TA理論の核心的な概念の一つに「ラケット感情(Racket Feeling)」があります。これは、幼少期の禁止令によって「表現してはいけない」とされた真の感情(怒り、悲しみ、喜びなど)の代償として、大人になっても習慣的に表現してしまう感情のことです。例えば、怒ってはいけない環境で育った人は、代わりに「疲労感」や「無力感」といったラケット感情を表現しがちです。

1.1. ラケット感情が「真の貢献」を妨げる理由

ラケット感情は、問題解決や生産的な行動(Adultの貢献)ではなく、感情的な代償を得ることを目的としています。この行動の根本には、「私はOKではない」という人生の構え、つまり自己否定感があります。

  • 真の感情の代償として: 本当は「このプロジェクトのやり方に怒りを感じている」のに、「疲労や無力感(ラケット感情)」を習慣的に表現し、周囲の養育的な親(NP)からの同情や慰め(歪んだストローク)を得ようとします。このストロークは一時的な慰め(自己満足)にしかなりません。
  • 品性への影響: ラケット感情を表現する個人は、問題の真の原因に目を向けず、感情的な満足を優先するため、一貫した利他的な貢献から遠ざかります。組織全体がこのラケット感情の交換に巻き込まれると、非生産的な交流に時間が奪われ、本来の使命から逸脱してしまいます。

品性あるリーダーは、この「偽の感情」の交換による組織のエネルギー浪費を、Adult(成人)の冷静な目で認識し、停止させなければなりません。真の貢献は、真の理性によってのみ達成されるからです。

1.2. 組織を疲弊させる「切手収集(Stamp Collecting)」

ラケット感情は、「切手収集(Stamp Collecting)」という形で蓄積されます。これは、ラケット感情を小さな不満や被害者意識として日々溜め込むことです。ちょうど、ポイントカードのように感情的な代償を溜め込んでいる状態です。

  • 行動の連鎖: メンバーは日々、「自分は不当に扱われている」「自分ばかりが損をしている」という感情の切手(被害者切手)を集めます。これは、本来理性的(Adult)に対処すべき場面で、感情を押し殺したり、否定的ストロークを拒否できなかったりした際の残骸です。
  • 切手の交換と品性の破壊: 切手が一定量たまると、それを爆発的に放出して「切手の交換」を行います。これは、小さなミスをきっかけに突然、不当に大きな怒りを爆発させたり、一方的に関係を断絶したりする形で現れます。
  • 組織への影響: 切手の交換は、信頼関係を一瞬で破壊し、組織の品性を長期的に損ないます。なぜなら、その爆発はAdultの理性に基づくものではなく、過去の蓄積されたChild(子ども)の感情によるものであり、一貫性や予測可能性がないためです。

2. 組織内の時間を浪費する「時間の構造化」のパターン

(ここでは、ラケット感情と表裏一体の関係にある「時間の構造化」について解説します。人間はストロークを得るために時間をどのように使っているかを分類し、非生産的で品性を損なう時間の使い方を認識することで、メンバーを真の貢献へと導くための具体的な行動変容を促します。)

人間は、ストローク(承認)を得るために時間を何らかの形で使います。これをTA理論では「時間の構造化」と呼びます。時間の構造化には「引きこもり」「儀式」「雑談」「活動」「ゲーム」「親密性」の6つのパターンがあります。品性ある組織は、「活動」や「親密性」といった生産的で貢献的な構造化を増やさなければなりません。しかし、不健全な組織は、「引きこもり」や「儀式」「雑談」「ゲーム」といった非生産的な構造化に多くの時間を費やします。

2.1. 真の貢献から逃げる時間の使い方

以下の時間の構造化は、品性ある貢献(利他性)から逃げるための無意識の防衛手段として使われることがあります。これは、利他性よりも自己の感情的代償を優先する、品性を損なう行動です。

構造化のパターン組織内での具体例品性への影響(貢献からの逃避)
引きこもり会議中の沈黙、メールの返信遅延、自分の殻に閉じこもり他者との交流を断つ。協働を拒否し、必要な情報やアイデアを組織に提供しない(利他性の欠如)。
儀式(儀礼)意味のない形式的な会議、定型的な挨拶以上の深い交流を避ける。Adultによる真剣な議論や「親密性」のある交流を避け、表面的な関係にとどめる(信頼の停滞)。
活動目的のない残業、意味のない資料作成、「忙しいふり」を演じる。「努力せよ」という禁止令に支配され、真の成果ではなく労働時間を目的とする(自己満足)。

「活動」は一見生産的に見えますが、もしそれが「成果」ではなく「忙しいというストローク(同情)」を得るための手段であるならば、それは自己破壊的な時間の使い方であり、品性を偽る行為となります。品性あるリーダーは、成果に繋がらない活動にAdultのメスを入れ、真の貢献にメンバーのエネルギーを振り向けなければなりません。

2.2. 品性ある交流:「活動」と「親密性」の場を意図的に創る

品性あるリーダーは、メンバーのエネルギーを非生産的な構造化から、真の貢献につながる「活動(Activity)」と、究極の人間力である「親密性(Intimacy)」へと導かなければなりません。

  • 活動(Activity): Adultの理性に基づいて、明確な目的と成果目標を設定し、その達成に向けて協働すること。
  • 親密性(Intimacy): 無意識のゲームやラケット感情なしに、真の感情自己開示を伴って交流できる状態。これは、「私はOK、あなたはOK」という健全な人生の構えが完全に機能している証拠であり、最高の信頼資本が築かれている状態です。

リーダーは、心理的安全性が確保された「親密性」の場を意図的に創造し、メンバーがラケット感情真の感情として表現し、Adultの理性で解決できるような訓練の機会を提供しなければなりません。

3. 不健全な交流を断ち切るリーダーの「理性」の介入

(この章では、ラケット感情やゲームといった不健全な交流に対し、リーダーがどのように理性(Adult)を使い介入すべきか、具体的なアプローチを解説します。感情に流されず、事実に焦点を当てることが、品性を守る鍵となります。)

不健全な交流の現場に遭遇したとき、多くのリーダーは、そのメンバーの感情(Child)や人格(Parent)に引きずり込まれがちです。しかし、品性あるリーダーは、ここで理性(Adult)を強制的に稼働させ、交流のパターンそのものを修正します。

3.1. 交流の「パターン」に焦点を当てる

個人を責めたり、感情に同調したりするのではなく、「今、どのようなパターンで交流が起きているか」というAdultの事実に焦点を当てます。

  • NGな介入(Parent): 「いつまで文句ばかり言っているんだ、しっかりしろ!」
  • OKな介入(Adult): 「Aさんの発言は、具体的な解決策に繋がるものではなく、過去の不満の表明というパターンに終始していますね。これは建設的な活動から逸脱しています。」

この「パターン」の指摘は、感情的な防御を外し、メンバーのAdultに直接語りかける効果があります。彼らは自分の行動が自己破壊的であることに、理性的に気づき始めるでしょう。

3.2. 「Adultの言語」を徹底する

ラケット感情は、「感情的な言葉」を代償として用います。「忙しい」「疲れた」「大変だ」といった言葉は、具体的な事実(Adult)を欠き、ストロークを求めるサインです。リーダーは、これらの言葉を「Adultの言語」に翻訳することを要求します。

  • NGな発言: 「忙しすぎて、納期に間に合いません。」
  • リーダーの誘導(Adult): 「『忙しい』とは、具体的に現在、Aプロジェクトに何時間を要し、Bタスクのどこで遅延が生じているという事実でしょうか?その事実が、納期にどのような影響を与えるか、データで示してください。」

この質問を徹底することで、感情的なエネルギーは具体的なタスク管理というAdultの貢献へと強制的に変換されます。

4. 品性ある貢献へと導く「親密性」の場づくり

(TA理論における最高の時間の構造化である「親密性」について解説します。リーダーが、メンバーがラケット感情を真の感情として表現できる「心理的安全性」の高い環境をどのように構築すべきか、その具体的な重要性を強調します。)

ラケット感情や切手収集は、メンバーが「真の感情を表現すると、罰せられるかもしれない」という恐怖から生まれます。この恐怖を打ち消し、真の貢献を促すためには、「親密性(Intimacy)」、つまり心理的安全性が最大限に確保された場が必要です。

4.1. 「ラケット感情の処理場」としての1on1

リーダーとメンバーの一対一の場である1on1ミーティングは、メンバーがラケット感情を真の感情として表現し、Adultの理性で解決できるような訓練の機会を提供しなければなりません。

  • リーダーの役割: メンバーが「疲れた」といったラケット感情を口にした際、Parentとして慰めるのではなく、Adultとして冷静に「何に一番苛立ち、何に一番悲しみを感じているのか」という真の感情を質問し、その感情を問題解決のエネルギーへと昇華させる手助けをします。
  • 品性の強化: このプロセスは、メンバーに「感情は、問題解決のためのシグナルである」という理性的(Adult)な認識を与え、感情的な代償を求める行動(ラケット感情)を自ら手放すことを促します。

4.2. 「私はOK、あなたはOK」という人生の構え

親密性は、交流分析でいう「私はOK、あなたはOK」という健全な人生の構えが完全に機能している証拠であり、最高の信頼資本が築かれている状態です。

リーダー自身が、部下や同僚に対し、成果に関わらず、人間として常にOKであるという態度を一貫して示すことが、組織の品性を高めます。この信頼の土台があるからこそ、メンバーは恐怖なく真の貢献を選択し、失敗や困難といった真の感情をオープンに共有できるようになるのです。

5. まとめ:不健全な交流から「真の貢献」へ導くリーダーシップ

(まとめとして、これまでの議論を整理し、読者の行動変容を促すポジティブなメッセージで締めくくります。すべての要素を満たしていることを確認します。)

本日は、品性を破壊する組織内の不健全な交流の正体を暴き、真の貢献へ導くためのリーダーシップの洞察を深めました。

  • ラケット感情は、真の感情の代償として習慣的に表現され、問題解決を避け、感情的な代償を得ることを目的とします。
  • 切手収集は、不満を蓄積し、予測不能な爆発を引き起こし、組織の信頼関係を破壊します。
  • 不健全な時間の構造化(引きこもり、儀式、偽の活動)は、品性ある貢献から逃げる無意識の防衛手段です。
  • 品性あるリーダーは、ラケット感情ゲームを認識し、メンバーのエネルギーを明確な目的を持つ活動と、真の信頼が生まれる親密性へと導かなければなりません。

真の人間力とは、自分自身のラケット感情を自覚し、Adultとして処理できる能力であり、他者の不健全な交流に巻き込まれず、品性ある貢献へと導く指導力です。

さあ、皆さんの組織から、今日から「忙しいふり」や「不満の収集」をなくし、真の貢献と深い信頼に満ちた品性ある文化を創り上げていきましょう!

お読みいただきありがとうございました。皆さんのキャリアと組織の成長にお役に立てれば幸いです。

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