善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

【4つの役割を越境せよ】「貢献の戦略」でチームを自走させる6日間
 Day 5:セルフマネジメント:成果を「自動化」する非合理な自分との対話

こんにちは、坂本です。皆さんのキャリアと組織の成長を応援しています。

Day 2からDay 4にかけて、私たちはリーダーシップ(L機能)フォロワーシップ(F機能)マネジメント(M機能)という、チームへの「貢献の機能」を越境視点で学んできました。いよいよ今日は、これらすべての貢献の土台となる、最も重要な機能、セルフマネジメント機能(SM機能)に迫ります。

L・F・Mの機能を発揮しようとしても、「ついサボってしまう」「計画通りに進まない」「大事な局面で感情的になってしまう」—そんな経験はありませんか?

真のSM機能とは、「非合理な自分」という最大の敵を乗りこなし、貢献行動を「自動化」する技術です。今日の記事では、あなたの意志力に頼るのではなく、行動経済学の知見を借りて、成果を生むSM機能を確立しましょう!

なぜSM機能は最も難しいのか?非合理な自分との対話

私たちは皆、目標達成に向けて努力したいと思っています。しかし、なぜか目標を前にして、つい目の前の誘惑に負けてしまいます。この「頭でわかっているのにできない」状態こそが、SM機能の最大の課題です。

ドラッカーの問い「何をなすべきか」の自己管理

ドラッカーは、知識労働者に対し、常に「私は何をなすべきか?」という問いを突きつけました。これはL機能(目標設定)の問いであると同時に、SM機能(自己規律)の問いでもあります。L・F・Mの機能を「越境」して発揮するためには、「何をなすべきか」を自ら決定し、それを感情や誘惑に左右されずに「実行」し続ける自己規律が不可欠です。

目標達成を阻む「非合理な自分」(双曲割引)

私たちがSMを失敗する主な原因は、行動経済学でいう「双曲割引(Hyperbolic Discounting)」という傾向にあります。これは、「遠い未来の大きな報酬」よりも、「目先の小さな報酬」の方を過大評価してしまう非合理な行動様式です。SM機能が弱い人は、いつも「目先の即時満足」に負けてしまいます。

SM機能の本質は「意志力」ではなく「設計力」

SM機能の誤解は、「意志力さえあればできる」という考え方にあります。しかし、意志力は有限な資源であり、使えばすぐに枯渇します。真のSM機能は、自分の意志力に頼るのではなく、自分の環境と行動を意図的に設計し、望ましい行動を「自動的に」選ばせることにあります。自分を動かす環境をデザインする。これこそが、SM機能の極意です。

P・Cモードの暴走を止める「冷静な観察者」

交流分析のA(成人)モードは、SM機能の核となります。SM機能の役割は、感情的・依存的なC(子ども)モードや、支配的・批判的なP(親)モードの暴走を止める「冷静な観察者」として機能することです。この観察力こそが、非合理な自分と対話する第一歩となります。

「何をなすべきか」のSMは「何をやめるか」から始まる

L・F・Mへの貢献のためのSM機能を確立するには、ドラッカーの教えに従い、「何をなすべきか」よりも先に、「何をやめるべきか」を決定する必要があります。非効率なタスクや、貢献につながらない旧態依然とした習慣を「潔くやめる」ことが、新しい貢献行動のための燃料となります。

SM機能を「自動化」する行動経済学のテクニック

非合理な自分を乗りこなし、貢献行動を自動化するための具体的なテクニックを5つご紹介します。これらはすべて、あなたのA(成人)モードを常に優位に保つための仕掛けです。

プロンプティング(きっかけの設計)による行動の自動化

望ましい行動の「きっかけ」を意図的に設計することを「プロンプティング」と呼びます。私たちが行動できないのは、「いつ、どこで、何をやるか」という具体的なきっかけがないからです。既存の習慣と新しい行動を紐づけ、物理的なトリガーを設計するだけで、行動への抵抗は劇的に下がります。

「コミットメントデバイス」で未来の自分を縛る

双曲割引に打ち勝つ最強のツールが、「コミットメントデバイス」です。これは、「未来の自分がサボろうとしても、それができなくなるように、今の自分が物理的・心理的な制約を設ける」ことです。非合理な自分(Cモード)の行動の自由を、論理的な自分(Aモード)が意図的に奪うことで、未来の貢献行動を確実にします。

「小さな成功体験」で自己効力感を高める

SM機能の維持に不可欠なのが、心理学でいう「自己効力感」です。これを高めるには、大きな目標を前にするのではなく、小さく、すぐに達成できる「スモールウィン」を意図的に設計し、確実に達成することです。成功体験が一つ積み重なるたびに、SM機能はより強固になります。

「タスクの細分化」で非合理な自分を騙す

面倒なタスクを前にすると、非合理な自分(Cモード)は逃げたくなります。そこで、タスクを「最初の5分で終わること」にまで細分化し、その「着手」だけを目標にしてください。これは、タスク全体の抵抗感を下げる「ナッジ」として機能し、行動を始めると継続しやすいという人間の習性を利用します。

役割越境を可能にするSM機能の活用

SM機能は、L・F・Mの各機能が「越境」を試みる際、発生する心理的な抵抗や不安を乗り越えるために不可欠な支柱となります。

F機能を発揮するための「感情のSM」

F機能(建設的な異論)を唱えるには、評価の恐怖(Cモード)を乗り越える勇気が必要です。これを支えるのが「感情のSM」です。異論を唱える前に、自分の感情を冷静に観察する「認知の距離」を取り、A(成人)モードで発言の目的を再確認することで、あなたの異論はより論理的になり、相手に届きやすくなります。

M機能(プロセス改善)のための「時間とエネルギーのSM」

M機能(プロセス改善や心理的安全性確保)は、目先の成果に直結しないため、つい後回しにされがちです。ここで必要なのが、「時間とエネルギーのSM」です。M機能を発揮するために、あなたのSM機能は「緊急ではないが重要なタスク」のために、他の緊急なタスクの一部を意図的に手放す決断を下す必要があります。

L機能(機会設計)のための「学びと知識のSM」

L機能(ビジョン設定や環境デザイナー)の質は、リーダーが持つ知識の量と質に大きく依存します。L機能の発揮を支えるのは、「学びと知識のSM」です。自分の専門外の知識を計画的に学び、自分の「認知バイアス」を認識する努力を続けることが求められます。

チームのSM機能を支える「承認」の設計

M機能は、単に「結果」を承認するだけでなく、「SMの成功(自己規律の維持)」をチームで意図的に承認しましょう。SM機能そのものを貢献と見なし、承認することで、「自己規律はチームにとって価値がある」という文化が根付き、メンバーのSMのモチベーションが維持されます。

「完璧主義」を手放し「完了主義」を導入する

SM機能を阻害する最大の要因の一つが、完璧主義です。M機能は、「まずは8割の出来栄えで構わないから、期日までに完了させること」を重視する完了主義をチーム文化として導入すべきです。完了こそが、次の改善(M機能)につながる唯一の貢献だからです。

6日間でコミットメントを生む「SM機能診断」ワーク

最後に、今日の学びをすぐに実践に変えるための内省ワークです。あなたがL・F・M機能を発揮するための、SM機能の設計を始めましょう。

あなたの双曲割引を特定する

【内省の問い】

あなたが「今すぐやろうと思っているのに、いつも先延ばしにしている貢献行動(L, F, Mのいずれか)」を一つ特定してください。そして、それを阻害している「目先の誘惑(小さな報酬)」は何ですか?

例:L機能(チーム目標の見直し)を先延ばし → 目先の誘惑(複雑なメールへの即時返信)

行動を確実にする「プロンプティング」の設計

特定した貢献行動に対し、プロンプティングを設計してください。

例:「毎週月曜日の朝一番にPCを起動したら、目標見直しに関する資料の物理的なファイルを必ず開く」。

未来の自分を縛る「コミットメントデバイス」の考案

その貢献行動を確実に行うために、最も効果的と思われるコミットメントデバイスを一つ考案してください。

例:「週次報告書のチェックを怠ったら、チーム全員に罰としてランチをおごると公言する」。

Day 6への橋渡し:最終コミットメント

SM機能は、L・F・Mすべての貢献機能の実行を担保する土台です。明日、Day 6では、この6日間の学びをすべて統合し、「貢献者」として未来の行動をコミットする最終ワークを行います。

今日のコミットメント:意志力に頼らない「仕組み」を一つ作る

あなたが今日からSM機能を発揮するために、意志力に頼らない「仕組み(ナッジ)」を一つだけ作り、実行することをコミットしましょう。

まとめ:貢献の土台は自己規律にあり

セルフマネジメント機能は、L・F・Mというすべての貢献機能の土台です。私たちが非合理な自分に打ち勝ち、一貫して成果を生み出す行動を取るためには、意志力という曖昧なものに頼るのではなく、行動経済学に基づいた「設計力」が必要です。

プロンプティングやコミットメントデバイスを駆使して、あなたの貢献行動を「自動化」しましょう。自己規律は、あなたがチームへ提供できる最も価値の高い貢献です。あなたのSM機能が盤石になれば、あなたはL・F・Mの壁を軽やかに越境し、真の貢献者となることができます。自律的な貢献の道は、まずあなた自身の規律から始まります!

お読みいただきありがとうございました。皆さんのキャリアと組織の成長にお役に立てれば幸いです。

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