善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

「貢献」を深める哲学:ドラッカーの問いでキャリアを再構築する6日間

こんにちは、坂本です。皆さんのキャリアと組織の成長を応援しています。

いよいよ師走、12月が始まりましたね。年末というと、なんだか慌ただしく、「早く来年の目標を立てなくちゃ!」と焦りながらも、「結局、去年の目標も達成できなかったな…」と、ちょっとネガティブな気分になりがちではないでしょうか?

この時期の振り返り(リフレクション)は、とても大切ですが、多くの方が「反省会」で終わってしまい、来年の行動変容につながっていません。その原因は、振り返りの「レンズ」が間違っているからです。

この連載では、単なる「目標達成率」を見るのではなく、「貢献」という最も本質的なレンズを使い、ピーター・ドラッカーの「根源的な問い」と心理学の知見を組み合わせて、あなたのこの一年を「成長の資産」に変える方法をお伝えします。

6日間の旅のゴールは、読者であるあなたが「自分は組織に、社会に、そして自己に、何を貢献できるのか?」という問いに明確にコミットできる状態になることです。今日から、曖昧な目標設定とはサヨナラしましょう!

単なる「反省会」で終わらせない:リフレクションの哲学

「今年も頑張ったけど、何が成果だったんだろう?」「あの失敗、本当に痛かったな…」と、感情的に一年を振り返るだけでは、来年につながる学びは得られません。私たちが目指すのは、感情論を排した「科学的なリフレクション」です。

多くのビジネスパーソンが陥る失敗は、過去の行動を「良かった」「悪かった」の二元論で評価してしまうことです。しかし、本当に大切なのは、「なぜその結果が生まれたのか?」「その行動は、誰のどんな成果に繋がったのか?」という問いです。ここにドラッカーの哲学が強力な武器となります。振り返りとは、過去の行動を責めることではなく、未来の成功のための「原因」と「資源」を探し出す作業だと捉えましょう。

ドラッカーが問うた「貢献の問い(What should I contribute?)」

ドラッカーは、知識労働者にとって最も重要な問いは「あなたは何を貢献すべきか?」だと強調しました。これは、単に「与えられた仕事をこなすこと」を意味しません。

「私が持っている知識、スキル、時間といったリソースを使って、組織全体の成果(アウトプット)に、どんなインパクトを与えるか?」という、極めて他者視点に立った問いかけなのです。

自己満足目標と貢献目標の「二重帳簿」

私たちの目標には、大きく分けて二種類あります。一つは「自己満足目標(例:資格を取る、残業を減らす)」、もう一つが「貢献目標(例:顧客満足度を○%向上させる、チームの業務効率を○%改善する)」。

自己満足目標はモチベーションを保つために必要ですが、組織や他者視点から見て価値があるのは貢献目標です。この二つを混同すると、頑張っているのに評価されない、という悲劇が生まれます。まず、この二つを明確に区別する「二重帳簿」を持つことが、科学的なリフレクションのスタートです。

成果は「インプット」ではなく「アウトプット」で測る

リフレクションの際、「私は毎日遅くまで頑張った」「新しいツールを導入した」といったインプット(努力や行動)を評価しがちですが、ドラッカーの哲学では意味がありません。評価すべきは、「その努力の結果、顧客や組織がどう変わったか」というアウトプット(成果)です。

比喩:頑張り屋の料理人

例えば、素晴らしい食材を仕入れ(インプット)、長時間かけて手の込んだ料理を作った(インプット)としても、お客さんが「味が合わない」「提供が遅い」と感じたら、そのアウトプットはゼロです。ビジネスも全く同じなのです。「努力は成果を生む手段であって、評価の対象ではない」と割り切りましょう。

「貢献の問い」は「自己認識」を高めるSM機能の土台

ドラッカーの問いは、実はあなたのセルフマネジメント(SM)機能を高める土台でもあります。なぜなら、「何を貢献すべきか」を考えるとき、人は必然的に「自分に何ができるか(強み)」と「組織に何が不足しているか(ニーズ)」を冷静に分析せざるを得ないからです。この問いを一年を通して継続することが、真の自律的なプロフェッショナルを育てます。

あなたの「努力」は本当に報われたか?:「二重帳簿ワーク」の実践

では、この貢献の哲学に基づき、過去一年の行動を洗い出し、自己認識を深めるワークに取り組みましょう。目標の達成度ではなく、「貢献の観点」から成功と失敗を仕分けする、「貢献の二重帳簿」を作成します。このワークは、特に管理職や経営幹部の方にとって、来年の戦略を立てる上で欠かせない客観的なデータとなります。

このワークを行うことで、「頑張ったけど、組織の成果に繋がっていない行動」や「実は大した努力なしに大きな成果を生んだ自分の真の強み」が浮き彫りになります。

ワーク1:貢献目標の結果を「アウトプット」で記録する

過去一年間で自分が「組織や顧客の成果に貢献するだろう」と考えて行った具体的な行動を5つピックアップし、以下の3つの観点で評価してください。

  • 行動/目標: 何をしたか、何を目標としたか。
  • 貢献アウトプット: 組織や顧客に具体的に何が起きたか(例:売上○%増、顧客からの問い合わせ件数○%減)。
  • 評価: 貢献のインパクトは高かったか、低かったか(ABC評価)。

ワーク2:自己満足目標の「消費エネルギー」を記録する

同じ一年間で、あなたが「個人的に頑張ったこと」や「自分の安心のために時間をかけたこと」を5つピックアップし、その消費エネルギーを評価します。

  • 行動/目標: 何をしたか(例:新しい技術の勉強、社内調整に費やした時間)。
  • 組織への貢献インパクト: 組織や顧客に直接的な成果はあったか(はい/いいえ)。
  • 消費エネルギー: その行動に費やした時間や精神的な負荷(大/中/小)。

この二つのリストを対比させることで、「努力と貢献が一致しているか」という最も重要な質問に答えが出ます。もし「消費エネルギー大」なのに「貢献インパクトなし」の項目が多ければ、それはあなたの努力が報われていない証拠です。

リフレクションの落とし穴:「サンクコストの錯誤」

リフレクションを阻む心理的な壁の一つが、サンクコストの錯誤(Sunk Cost Fallacy)です。これは、「これだけ頑張ったんだから、成果が出なくても意味があるはずだ」と思い込み、既に費やした時間や努力(サンクコスト)を惜しんで、間違った行動を継続してしまう心理傾向です。

この錯誤から抜け出すには、「過去の努力と未来の貢献は無関係である」と割り切ることです。私たちは過去の努力に敬意を払いつつも、未来に向けて最もリターンが大きい行動に資源を再配分する必要があります。

「貢献の成果」を再利用する:強みの棚卸し

リフレクションの最も重要な目的は、来年以降の目標達成に使える「資源」を見つけることです。それは、あなたの成功した行動の裏側にある「強み」です。ドラッカーは「強みを活かせ」と繰り返しました。あなたの強みは、努力ではなく貢献成果から逆算して見つけるものです。

多くの人が自分の強みを「得意なこと」と捉えますが、ドラッカー哲学における強みとは、「他者に貢献できる、再現性のある能力」のこと。つまり、「二重帳簿ワーク」で貢献アウトプットが高かった行動の中にこそ、あなたの真の強みが隠れているのです。

「再現性」のある強みを見つけ出す3つの視点

成功した貢献行動をピックアップし、その成功が「たまたま」ではなく「強み」によるものかを分析するために、以下の3つの視点で問いかけてください。

  1. 環境依存性: 「その成果は、特定の顧客や上司でなければ再現できないか?」→ Yesなら強みではない。
  2. 労力対効果: 「その成果を出すために、他者よりも異常に少ない労力で達成できていないか?」→ Yesなら真の強みである可能性が高い。
  3. 持続可能性: 「その貢献行動は、今後5年間、あなたがストレスなく続けられることか?」→ Yesなら長期的な強みである。

キャリアの「伸びしろ」は「強み」の延長線上にある

キャリアコンサルタントとしての私の経験からお話しすると、多くの人は「自分の弱点を克服する」ことにエネルギーを使いすぎます。しかし、プロフェッショナルな成長は、弱点を平均点にすることではなく、強みを桁違いに伸ばすことで起こります。

あなたの来年の目標設定は、この「再現性のある強み」を、組織の最も重要で緊急なニーズとクロスさせることで見えてきます。

失敗からも強みを見つけ出す「逆引き辞書」

失敗した貢献目標からも、強みを見つけ出すことは可能です。失敗の裏側には、往々にして「やり過ぎた強み」が潜んでいます。

例:周りを巻き込み過ぎたリーダー

  • 失敗: 「チームメンバーの負荷が高まり、離職者が出た」
  • 裏側の強み: 「高い目標達成意欲」「チームを鼓舞する熱量」「徹底的に実行するコミットメント力」
  • 教訓: これらの強みを「発揮するタイミングと量をマネジメントする」ことが、来年の成長課題になります。

来年へのコミットメント:曖昧な目標を「貢献の言葉」に変換する

リフレクションで得た「再現性のある強み」を資源として、いよいよ来年の目標設定の土台を作ります。目標が曖昧なままだと、1年後また「反省会」で終わってしまいますよ!

ここでも大切なのは、「自己満足」の言葉ではなく、「貢献の言葉」で目標を語ることです。

目標設定の罠:「努力目標」という名の自己満足

「○○スキルを習得する」「読書を月に4冊する」「プレゼン回数を増やす」—これらはすべて努力目標です。これ自体が悪いわけではありませんが、これらを目標に掲げただけでは、他者(上司、顧客、チーム)には価値が伝わりません。

目標の真の価値は、それが他者に生み出す「変化」にあります。自分の目標が、誰にとってどんなベネフィットをもたらすのか、をセットで言語化することが不可欠です。

目標を「貢献ベネフィット」で上書きする

あなたの来年の目標を、以下のフレームワークで「貢献の言葉」に上書き変換してください。

  • (旧)努力目標: 営業スキルを向上させる。
  • (新)貢献目標: 営業スキルを向上させることで、「顧客の潜在的なニーズを引き出し、アップセル率を○%改善する」。
  • (旧)努力目標: チームのルールを見直す。
  • (新)貢献目標: チームのルールを見直すことで、「ルーティンワークの決裁スピードを○%短縮し、現場の判断負荷を軽減する」。

このように、「What(何を)」の後に、「So What(だから何)」を付け加えることが、貢献へのコミットメントを高めます。

来年への問い:あなたの「貢献の穴」はどこか?

この連載で繰り返しお話しする「越境」の視点です。来年、組織の成果を最大化するために、最も貢献が足りていない「穴」はどこでしょうか?

その穴が、フォロワーシップ(建設的な異論)なのか、マネジメント(リスク管理と仕組みづくり)なのか、リーダーシップ(目標設定と環境設計)なのか、それともセルフマネジメント(自己認識の深さ)なのか。この穴を見極めることが、来年あなたが越境して担うべき貢献のテーマとなります。

まとめ:貢献のリフレクションは最高の自己投資です

今日、私たちは、ピーター・ドラッカーの「貢献の問い」をレンズとして、感情的な「反省会」ではなく、科学的なリフレクションを行う重要性を学びました。そして、「自己満足」と「貢献」を区別する二重帳簿ワークを通じて、あなたの一年間の努力と成果を客観的に仕分ける方法を実践しました。

リフレクションは、過去の失敗を責めることではありません。それは、あなたの真の強み(貢献の再現性)を見つけ出し、それを未来の行動に再投資する、最高の「自己投資」なのです。

Day 2では、今日見つけた過去の失敗やネガティブな経験を、「学びの資産」へと変えるための心理学的な方法論を深掘りします。感情に振り回されず、失敗から冷静に教訓を引き出す技術をお伝えしますので、どうぞご期待ください。

お読みいただきありがとうございました。皆さんのキャリアと組織の成長にお役に立てれば幸いです。

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