越境コミットメントを設計!役割を超えた目標設定
Day 4:「越境コミットメント」の作法:役割の壁を越える目標設定
こんにちは、坂本です。皆さんのキャリアと組織の成長を応援しています。
いよいよ連載も折り返し、目標設定の総仕上げです。Day 1からDay 3で、あなたは「貢献の哲学」に基づき、過去を徹底的に分析しました。
- Day 1: 「貢献の二重帳簿」で真の強みとなる成果を特定。
- Day 2: PACモデルで失敗を「学びの資産」に変換。
- Day 3: フィードバック分析で、来年越境して担うべき貢献の穴を特定。
すべて、来年の目標設定というゴールに繋がっています。しかし、目標を立てる際、多くの人が「自分の職務記述書(Job Description)」の範囲内に留まりがちです。これが、組織が「自走できない」「誰も当事者意識を持たない」という病の根源です。
今日のテーマは、あなたの役割の壁を破り、「組織の最も痛い穴」にピンポイントで貢献する「越境コミットメント」の設定方法です。あなたの目標が、チーム全体の成果を最大化する「レバレッジ(てこ)」となるように設計しましょう。越境こそが、現代の知識労働者に求められるドラッカー哲学の真髄です。
なぜ「越境」が不可欠なのか?:現代組織における貢献の定義
現代の複雑な組織においては、誰もが自分の役割を完璧にこなしても、部門間の連携や、新しい市場の課題といった「隙間」に問題が残りがちです。この「隙間」を埋める行動こそが、真に組織の成長に貢献します。
ドラッカーが最も嫌った「専門職のサイロ化」と貢献の限界
ドラッカーは、知識労働者が自分の専門分野に閉じこもり、組織全体の成果に関心を持たない状態(サイロ化)を強く批判しました。専門知識は武器ですが、それが組織の目標に結びついていなければ、それは自己満足に過ぎません。
越境とは、単に他人の仕事を手伝うことではありません。それは、「私の強みが、組織のL・F・Mのどの機能の欠損を補えるか」を戦略的に考えることです。自分の専門性を手放すのではなく、自分の強みを組織の「最も必要な穴」に持ち込み、活用することなのです。
役割の分担と「貢献の穴」の特定
Day 3で分類したL・F・M・SMの4つの貢献機能は、組織運営の基盤です。
- L(リーダーシップ):方向性を定める機能。
- M(マネジメント): 仕組みとプロセスを管理する機能。
- F(フォロワーシップ): 建設的な異論やサポートを通じて質を高める機能。
- SM(セルフマネジメント): 個人の能力と成長を保証する機能。
あなたの組織で、「議論がいつも結論に至らない(Lの欠損)」「ルーティンミスが多い(Mの欠損)」「誰もリスクを指摘しない(Fの欠損)」といった問題があれば、それがあなたの越境すべき「貢献の穴」です。
「越境コミットメント」はチームへの「レバレッジ」である
越境コミットメントとは、あなたの個人目標を、「組織の成果に最も大きなレバレッジをかける越境行動」にすることです。
レバレッジの比喩:小さな力で大きな岩を動かす
チームの生産性を阻害しているのが「情報共有の仕組みの欠如」(M機能の穴)だと特定したとしましょう。もしあなたの強みが「論理的な文書作成」であれば、来年の目標に「自分の提案書作成」だけでなく、「チームの情報共有プロセスの設計と文書化」(M機能への越境)を組み込むことが、最も小さな労力で組織全体に大きな成果を生み出す最高のレバレッジとなります。
目標を「My Goal」と「越境 Goal」の二段構えにする
来年の目標は、「My Goal(職務達成)」と「Team Contribution Goal(越境)」の二段構えで設定しましょう。
- My Goal: 自分の職務記述書に書かれた必須目標(例:売上目標達成、開発タスク完了)。
- 越境 Goal: Day 3で特定した組織の穴(L, F, Mのいずれか)を埋めるための、あなたの強みを活かした具体的な貢献行動。
この越境 Goalこそが、あなたの当事者意識と市場価値を飛躍的に高める「成長の伸びしろ」となります。
「越境 Goal」を設計する具体的ワーク:SMARTを超えるSMILE
目標設定のフレームワークとして有名な「SMART(具体的、測定可能、達成可能…)」は有効ですが、「越境」の視点が弱く、ともすると自己満足に陥りがちです。そこで、私は「SMILE」という視点を加えることを推奨します。SMILEは、心理的な側面と貢献のインパクトを重視した、越境コミットメントに特化したフレームワークです。
ワーク:越境目標のSMILEチェックリストと深掘り
あなたが設定しようとしている「越境 Goal」について、以下の5つの観点でチェックしてください。
| 項目 | 意味 | 越境の視点と質問 |
| Significant(重要性) | その目標は組織の最も痛い穴を埋めるか? | 「この越境が達成できなかった場合、組織にどんな深刻な不利益があるか?」を具体的に想像してみてください。 |
| Measurable(測定可能) | その貢献の結果、組織にどんな具体的な変化が起こるか? | 「越境による貢献が、誰の仕事の量や質に影響を与えたか」という間接的な影響まで測定基準に含めます。 |
| Involving(巻き込み) | その目標達成には、誰か他のメンバーの協力が必要か? | 越境は必ず誰かの領域に踏み込みます。「意図的に協力者や反対者を特定し、対話の機会を作る」ことがL機能の発揮です。 |
| Learning(学習) | その目標達成を通じて、あなたの新たな強みや知識が身につくか? | 越境はあなたに新しい挑戦を強いるため、必ずSM機能の強化に繋がります。得られるスキルを明確にしましょう。 |
| Ethical(倫理的) | その貢献は、組織の価値観や社会規範に反しないか? | ドラッカー哲学の「責任」の視点です。短期的な成果のために、長期的な信頼(社会的責任)を損なわないか確認します。 |
越境目標を「L・F・Mの言葉」で言語化する
越境目標を立てたら、それを曖昧な言葉で終わらせず、それがL・F・Mのどの機能として組織に貢献するかを明確に言語化します。
言語化の例:M機能(マネジメント)への越境
- 目標: 「他部署との情報共有遅延を解消するため、月次報告のプロセスを自動化し、遅延件数をゼロにする」
- 貢献: 「M機能の安定化による、組織全体の意思決定のスピード向上」。
- あなたの強み: 「複雑なプロセスを整理する能力」(Day 1/3で特定)。
言語化の例:F機能(フォロワーシップ)への越境
- 目標: 「新しい戦略が失敗するリスクについて、データに基づいた建設的な異論を、毎四半期、経営層に報告書として提出する」
- 貢献: 「F機能の欠如による、集団思考の罠を回避し、リスクヘッジを保証する」。
コミットメントの質を高める心理学:目標への強い動機づけ
越境コミットメントを立てても、一年間それを実行し続けるのは、容易ではありません。目標達成を妨げるのは「意志力の欠如」ではなく、「動機づけの仕組み」の欠如です。ここで、目標へのコミットメントを強めるための心理学的なヒントを導入します。
目標の「内的動機」と「外発的動機」を一致させる
心理学では、目標達成の原動力を「内的動機(楽しい、興味がある)」と「外発的動機(評価、報酬)」に分類します。越境コミットメントを継続させるには、「チームの役に立つのが純粋に嬉しい」(内的動機)という要素が、報酬以上に重要です。
あなたの越境目標が、あなたの強み(Day 3で特定)を活かすものである限り、それは「自己の成長に直結する」という強い内的動機を強く含んでいるため、持続性が高くなります。単なる義務感ではなく、「自己実現の場」として越境コミットメントを捉えましょう。
「目標のアンカリング」:既に達成した自分を想像する
目標を達成した後の自分を具体的に想像する「目標のアンカリング(碇づけ)」は、モチベーションを高める心理的テクニックです。
越境コミットメントを達成した来年末、あなたは組織からどう見られているでしょうか?「単なる担当者ではなく、組織全体の仕組みを変えたキーパーソンだ」と想像し、そのイメージを毎朝数分間、意識的に追体験してください。このアンカーが、日々の行動にエネルギーを与えます。

Day 5への橋渡し:意志力に頼らない仕組みづくり
目標の質を高めるだけでなく、それを実行する「仕組み」がなければ、すべては絵空事で終わります。「来年こそ頑張るぞ!」という意志力は、残念ながらすぐに消耗してしまいます。目標へのコミットメントを維持するプロは、意志力に頼るのではなく、目標達成に自然と導かれる「環境(仕組み)」を設計しています。
Day 5では、この「仕組みづくり」に焦点を当てます。行動経済学のナッジ(Nudge)という知見を使い、どうすればあなたが最もリターンの大きい越境行動を「自動的に」実行できるか、具体的な環境デザインの方法論を解説します。
まとめ:越境こそがプロフェッショナルへの道です
Day 4では、「My Goal」と「越境 Goal」の二段構えで、あなたの役割を超えた「越境コミットメント」を設定する作法を学びました。
ドラッカー哲学における真の貢献とは、与えられた役割をこなすことではなく、組織の最も痛い「穴」を見極め、あなたの強みを持ち込んで成果を生み出すことです。越境は決して「越権行為」ではありません。それは、あなたのキャリアをプロフェッショナルとして自律させる、最も確かな成長の道筋なのです。
あなたのコミットメントは、必ず組織の未来を変えます。 その一歩を今日踏み出し、来年、組織を動かすキーパーソンになりましょう!
お読みいただきありがとうございました。皆さんのキャリアと組織の成長にお役に立てれば幸いです。








