善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

【連載第4日】バトンを繋ぐコミュニケーション:流動的な役割を支える「対話」の技術

皆さま、開けましたおめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

穏やかな新春の光の中で、皆様はどのような未来を思い描いていらっしゃるでしょうか。連載も後半に入り、いよいよ具体的な「実践の技術」へと歩みを進めます。昨日は、リーダーシップの根源としての「自分を律する力」についてお話ししました。しかし、シェアド・リーダーシップは、個々が自律しているだけでは完成しません。

状況の変化に合わせて、ある時は自分が前に出て旗を振り、ある時は仲間の後ろに回って献身的に支える。この「役割の流動的な交代」をスムーズに行うための潤滑油こそが、本日のテーマである「対話(ダイアログ)」の技術です。元旦の静かな時間の中で、人との繋がりをより豊かに、そして強固にするためのコミュニケーションのあり方を見つめ直してみましょう。

「議論」から「対話」へ:共鳴を生むコミュニケーションの転換

私たちは普段、無意識のうちに自分の意見を通そうとする「議論(ディスカッション)」に終始してしまいがちです。しかし、リーダーシップを分かち合うチームにおいて必要なのは、お互いの背景を理解し、新しい意味を共に創り出す「対話(ダイアログ)」です。

デヴィッド・ボームが提唱した「ダイアログ」の本質的な意味

物理学者デヴィッド・ボームは、対話(ダイアログ)を「意味が人々の間を流れるプロセス」と定義しました。これは、どちらの意見が正しいかを決める勝ち負けの場ではありません。自分の仮説を一旦「保留」にし、相手の言葉の中に流れる真意を感じ取ろうとする試みです。シェアド・リーダーシップにおいては、状況判断を瞬時に共有する必要があります。お互いの思考の前提をさらけ出し、「私たちは今、何に直面しているのか」をゼロベースで語り合う対話の習慣が、役割交代の精度を劇的に高めます。

ドラッカーが喝破した「コミュニケーションは情報の授受ではない」という真実

ピーター・ドラッカーは、「コミュニケーションとは知覚であり、期待であり、要求である」と説きました。単にデータを送ることは情報伝達に過ぎず、相手がそれをどう受け止め、どう意味づけるかが本質なのです。シェアド・リーダーシップにおいてリーダーシップのバトンを渡す際、「これをやっておいて」という指示だけでは不十分です。「なぜ今、あなたにこの役割を担ってほしいのか」「この判断にはどのような背景があるのか」という文脈を共有し、相手がそれを自分のものとして「知覚」して初めて、バトンは確実に繋がるのです。

心理学的安全性に基づく「本音」を引き出す場づくりの技術

対話が深まるためには、何を言っても受け入れられるという安心感が前提となります。心理学における「自己開示の返報性」を活かし、まずは自分から「今の迷い」や「懸念点」を素直に共有してみましょう。完璧なリーダーを演じる必要はありません。むしろ、不完全さを認める誠実な対話が、周囲の心理的ハードルを下げ、建設的なフィードバックを引き出します。新年の最初のミーティングでは、業務目標だけでなく、お互いの「大切にしたい価値観」を語り合う時間を持つことが、最強のチーム作りの第一歩となります。

判断を保留し、相手の「メンタルモデル」に好奇心を持つ

私たちには、自分の価値観や経験というフィルターを通して世界を見る「メンタルモデル」があります。対話の際、「なぜこの人はこんなことを言うのだろう?」という違和感が生じたら、それは相手のメンタルモデルを知る絶好のチャンスです。批判する前に、「あなたの視点からは、この状況はどう見えていますか?」と問いかけてみてください。自分とは異なる視界を取り入れることで、チームの意思決定はより多角的で強固なものになります。好奇心を持って相手の世界に飛び込む姿勢こそが、共有型リーダーシップの真髄です。

「意味の共有」がチームの自走を加速させるメカニズム

優れた対話が繰り返されると、チーム内に「共通言語」が生まれます。一つひとつの判断の背景にある哲学や目的が浸透していれば、リーダーがいちいち細かな指示を出さなくても、メンバーは自律的に動けるようになります。これはドラッカーが理想とした「自己管理によるマネジメント」そのものです。対話によって磨き上げられた「共有された意味」は、目に見えない指揮者のようにチームを導き、変化に対する圧倒的なレスポンス速度を実現させます。

「積極的傾聴(アクティブ・リスニング)」:相手のリーダーシップを呼び覚ます魔法

誰かがリーダーシップを発揮しようとするとき、その萌芽を摘むのも育てるのも、周囲の「聴き方」次第です。心理学者カール・ロジャーズが提唱したカウンセリングの技術を、ビジネスの文脈で再構築してみましょう。

「聴く」ことは、相手に「存在の承認」を与える最大のギフト

私たちが誰かの話を聴くとき、つい「アドバイスをしよう」「反論を準備しよう」と考えてしまいます。しかし、積極的傾聴において最も大切なのは、相手の言葉の裏にある「感情」や「意図」を丸ごと受け止めることです。相手が「自分の考えが正しく理解されている」と感じたとき、脳内では快感物質が分泌され、自己効力感が高まります。この安心感があってこそ、人は責任あるリーダーシップを自ら引き受ける勇気を持てるのです。聴くことは、相手をコントロールする手段ではなく、相手の可能性を信じる「祈り」に近い行為です。

「共感的理解」によって、メンバーの「内発的動機」の源泉に触れる

共感とは、相手の靴を履いて歩いてみることです。メンバーが「この課題は自分がリードしたい」と言ったとき、その情熱の源泉は何なのか。どのような価値観が彼を突き動かしているのか。表面的な言葉のやり取りを超えて、深いレベルで価値観が共鳴したとき、リーダーシップのバトンは魂を伴って手渡されます。心理学的な共感は、単なる同情ではなく、相手の強みを引き出すための高度な知的能力です。共感的に聴くことで、あなたは仲間の内に眠っているリーダーとしての自覚を呼び覚ますことができます。

「沈黙」を恐れず、相手の思考が深まる「間」をデザインする

対話において、沈黙は決して「停滞」ではありません。それは、相手が自分の内側を探り、言葉にならない想いを結晶化させている「創造的な時間」です。急かさず、遮らず、ただ静かに待つ。この「待てる」かどうかが、リーダーとしての器を決定づけます。問いを投げかけた後、相手が答えを見つけるまでのプロセスに寄り添うこと。その静かな時間が、浅い思いつきではない、覚悟の伴ったリーダーシップの発露を支えます。沈黙を味方につけることで、対話の質は一気に深まります。

「リフレーミング」を用いた、前向きな行動へのパラダイムシフト

相手の言葉を聴きながら、その事実が持つ「別の側面」を提示する。これが心理学でいうリフレーミングです。メンバーが「私には荷が重いです」と不安を口にしたとき、「それは、あなたがこの仕事の重要性を誰よりも理解しているという誠実さの証ですね」と捉え直す。弱みを強みに、不安を期待に変える言葉を添えることで、相手の視界は開けます。積極的傾聴の最後には、相手が自分自身を「可能性に満ちたリーダー」として再定義できるような、温かなフィードバックを贈りましょう。

非言語メッセージ(メラビアンの法則)が伝える、深い信頼のシグナル

言葉以上に雄弁なのが、あなたの表情や姿勢、視線、声のトーンです。シェアド・リーダーシップの現場では、「いつでもあなたの味方だ」というシグナルを送り続けることが重要です。スマホを置き、相手に体を向け、柔らかな眼差しで聴く。こうした「全身全霊の関心」は、言葉を尽くす以上の信頼を築きます。あなたの非言語のメッセージが、メンバーにとっての「安全基地」となり、彼らが未知の課題に挑戦する際の最大の精神的支柱となるのです。

能動的フォロワーシップ:リーダーを「勝たせる」勇気ある支援

シェアド・リーダーシップにおいて、リーダーと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「フォロワー」の質です。誰かが前に出たとき、残りのメンバーがどのように振る舞うべきか。その心理学的・組織論的要諦を探ります。

ロバート・ケリーが説いた「模範的フォロワー」という新しい英雄像

組織心理学者のロバート・ケリーは、組織の成果の8割はフォロワーの質で決まると提唱しました。単に指示に従うだけの「羊のようなフォロワー」ではなく、「批判的思考」を持ちながら「能動的に関与」する模範的フォロワーが、シェアド・リーダーシップを成立させます。リーダーの間違いに気づいたら、敬意を持ってそれを指摘する。リーダーが孤立していたら、真っ先に駆け寄って支える。リーダーが誰であっても、その成功のために全力を尽くす。この「主役を勝たせる」という覚悟を持ったフォロワーこそが、チームの真のエンジンです。

「リーダーの意図を先回りする」というメタ認知のリーダーシップ

優れたフォロワーは、今のリーダーが何に悩み、何を求めているかを察知します。これは昨日のセルフ・リーダーシップでも触れた「高い視座」の現れです。例えば、リーダーが分析に追われているとき、そっとスケジュール管理やメンバーへの声かけを引き受ける。役職を持たなくても、チーム全体を俯瞰して「今、欠けているパズルのピース」を埋めにいく行動は、それ自体が高度なリーダーシップの一形態です。リーダーを孤独にさせないフォロワーの存在が、役割交代を不安のないものに変えていきます。

「健全な異論」を唱えることが、リーダーをリスクから救う

シェアド・リーダーシップの落とし穴は、全員が同じ方向を向きすぎて「集団思考(グループシンク)」に陥ることです。模範的フォロワーは、あえて「悪魔の代弁者(デビルズ・アドボケイト)」となり、異なる視点を提供します。それはリーダーへの攻撃ではなく、「チームの意思決定をより良くするための貢献」です。リーダー役を務めるメンバーも、こうした異論を「自分へのサポート」として歓迎する度量が必要です。お互いに間違いを修正し合える関係性が、組織としての健全性と強靭さを育みます。

フォロワーシップとは「リーダーシップの交代」への準備期間

今フォロワーとして振る舞っている時間は、次に自分がバトンを受け取るための最高の学習期間です。今のリーダーの良い点を学び、苦労を共感的に理解しておくことで、いざ自分が前に出る際に、周囲のサポートをより得やすくなります。フォロワーとしてメンバーを全力で支援した実績がある人には、周囲も「今度は自分が支えよう」と返報性の原理が働きます。「良いフォロワーであれる人こそが、最高のリーダーになれる」。この循環が、シェアド・リーダーシップの質を螺旋状に高めていきます。

ドラッカーが強調した「組織への忠誠」は「上司への服従」ではない

ドラッカーにとって、真の忠誠とは組織の目的(ミッション)に対するものです。特定のリーダーに盲目的に従うのではなく、「共通の目的を達成するために、今のリーダーをどう助けるのが最善か」を考えるのがプロフェッショナルの矜持です。もしリーダーが目的を見失いそうになったら、勇気を持って引き戻す。それがドラッカー流のフォロワーシップです。役職の上下に関わらず、目的達成への責任を共有しているからこそ、対等で建設的なパートナーシップが成立するのです。

フィードバックを「フィードフォワード」へ:未来を創る対話の習慣

役割を共有するチームでは、お互いのパフォーマンスについて語り合うことが不可欠です。しかし、過去のダメ出しはモチベーションを削ぎます。心理学的な視点を取り入れ、未来の成長を加速させる言葉がけに変換しましょう。

過去を裁くのではなく、未来をデザインする「フィードフォワード」

コーチングの世界で注目されるフィードフォワードは、「次はどうすればもっと良くなるか」という未来の解決策に焦点を当てます。シェアド・リーダーシップにおいては、誰もが不慣れな役割に挑戦するため、小さな失敗はつきものです。それを責めるのではなく、「今のやり方も良かったけれど、次回はこんなアプローチを試してみるのはどう?」と提案します。未来志向の対話は、脳をポジティブな「探索モード」に切り替え、創造的なアイデアを引き出しやすくします。

「Iメッセージ」で感情と期待を伝え、相手の守備心を解く

「あなたは〇〇すべきだ(You)」という言い方は、相手に威圧感を与え、防御反応を引き起こします。代わりに、「私は、あなたが〇〇してくれたら助かる(I)」「私は、この部分をさらに磨けばあなたはもっと輝くと思う」と、自分の主観として伝えます。主観的なメッセージは否定しにくく、相手の心にスッと届きます。あなたの「期待」をギフトとして贈ることで、相手は「自分の成長を願ってくれている」という安心感とともに、リーダーシップへの意欲を再燃させます。

ポジティブ・ネガティブの黄金比「ロスアダ・ライン」を意識する

組織心理学の研究によれば、パフォーマンスの高いチームは、ポジティブな発言とネガティブな発言の比率が「約3:1」以上であるとされています。改善点を伝える前に、まずは相手の貢献や努力を3倍承認する。この「承認の貯金」があるからこそ、厳しいフィードバックも建設的なエネルギーに変わります。特に元旦の今、昨年のメンバーの素晴らしい働きを思い出し、感謝の言葉から今年の対話を始める準備をしましょう。ポジティブな感情は、チームの思考の柔軟性を高める最強のブースターです。

具体的(Specific)かつ即時(Immediate)なフィードバックの魔力

「いつも頑張っているね」という抽象的な褒め言葉よりも、「あの時、Aさんの発言を要約してくれたおかげで、議論の迷いが晴れました」という具体的なフィードバックの方が、行動の再生産を促します。シェアド・リーダーシップを定着させるには、誰かがリーダーシップを発揮したその瞬間に、その価値を「言葉にして留める」ことが重要です。小さな貢献を見逃さず、即座にフィードバックする習慣が、チーム全体のリーダーシップの総量を少しずつ、しかし確実に増やしていきます。

ドラッカーの「強みの上に築け」をフィードバックの鉄則にする

「人の弱みは直しようがない。しかし、強みは無限に伸ばせる」というのがドラッカーの教えです。フィードバックの目的は、欠点修正ではなく「強みの最大化」であるべきです。メンバーのリーダーシップが最も輝いた瞬間を特定し、それをどう広げていけるかを共に考える。自分の強みを認識し、それがチームに貢献していると実感できたとき、人は自らバトンを握りにいくようになります。フィードバックは、仲間の「才能の種」に光を当て、芽吹かせるための最高のコミュニケーション・アートなのです。

まとめ

連載第4日の本日は、シェアド・リーダーシップを実際に動かすための「対話」と「フォロワーシップ」の技術を深く掘り下げてまいりました。

リーダーシップとは、単なる指示の出し方ではありません。それは、お互いの声を聴き、背景を理解し、一人の成功を全員で支えるという、「人間関係の質」そのものです。元旦という新しい始まりの日に、身近な人との対話の仕方を少しだけ変えてみる。そんな小さな一歩が、休み明けの職場で驚くほど大きな変化を生むはずです。

明日は、マネジャーやリーダー層の皆様に向けた、勇気ある「権限委譲」と「余白のデザイン」についてお話しします。

新しい年、あなたの発する一言が、誰かの心に自信の火を灯し、チームに新しい風を吹き込みます。「善く聴き、善く語る」ことで、一人ひとりが誇りを持って輝ける職場を創り出せる。そんなあなたの対話の力を、私は確信しています。2026年、あなたの言葉が大切な仲間との絆をより深いものにし、共に最高の未来を創造していけるよう、私はこれからも全力で応援し続けます。

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