善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

皆さん、こんにちは。坂本です。

連載3日目の今日は、キャリアの3要素の2つ目である「Can(できること)」にフォーカスします。昨日のワークで「Will(ありたい姿)」という目的地を確認しましたが、そこへ辿り着くためには、荒波を乗り越えるための「船」と、困難を切り拓く「武器」が必要です。それが、あなたの持っているスキル、経験、そして強みである「Can」です。

2026年、テクノロジーの進化により、昨日までの「専門性」が今日には汎用化される厳しい現実があります。そんな時代に、どのようにして自分だけの「替えのきかない価値」を構築していくのか。ピーター・ドラッカーが説いた強みの哲学と、最新の心理学が明かす能力開発のメカニズムを、具体的に紐解いていきましょう。

「強み」の誤解を解く:ドラッカーが説いた卓越性の本質

「あなたの強みは何ですか?」と聞かれて、即座に答えられる人は多くありません。それは、強みというものを「特別な才能」や「人より優れていること」と狭く捉えすぎているからです。まずは、プロフェッショナルとして生涯を支える「強み」の真実を、心理学とドラッカーの視点から再定義しましょう。

「強みの上に築く」ことが唯一の成功法則である

ピーター・ドラッカーは、著書の中で「何事かを成し遂げるのは、強みによってである。弱みによってではない」と断言しました。私たちの多くは、教育の過程で「欠点を克服すること」に多大なエネルギーを割くよう訓練されています。しかし、弱みを人並みにするために注ぐエネルギーは、強みを「一流」から「卓越」したレベルに引き上げるエネルギーに比べ、驚くほどリターンが低いのです。キャリア自律の要諦は、自分の弱点を克服することに汲々とするのではなく、その弱みを補って余りあるほどに、自らの強みを際立たせることにあります。自分が何者であるかを知り、その持ち札を最大限に活かす勇気を持つことが、プロフェッショナルへの第一歩です。

強みとは「自然に、かつ容易に」成果が出るパターン

心理学における強み(シグネチャー・ストレングス)の定義は、「それを使っているときに活力を感じ、かつ一貫して高いパフォーマンスを発揮できる思考や行動の特性」です。自分にとっては「当たり前すぎて、なぜ他人ができないのか不思議に思うこと」の中にこそ、真の強みが隠れています。努力して身につけた知識も大切ですが、資質に基づいた強みは、他者が模倣することが極めて困難であり、あなた独自の市場価値(USP)の源泉となります。自分が無意識に繰り返している「成果が出るパターン」をメタ認知(客観視)し、それを意識的に再現可能なスキルへと昇華させることが、強みを武器に変えるプロセスです。

フィードバック分析:強みを特定する唯一の客観的手法

自分の強みを主観だけで知ることには限界があります。ドラッカーは「フィードバック分析」を推奨しました。重要な決断を下すときや行動を起こすとき、何を期待するかを書き留め、9ヶ月から1年後にその期待と実際の結果を照らし合わせる手法です。これを繰り返すと、自分が何を得意とし、逆に何ができないのかが残酷なまでに明確になります。主観的な「自己分析」だけでは、自分を過大評価したり過小評価したりする認知の歪みを避けられません。事実に基づいたフィードバックこそが、あなたのCanを正確に測定し、次に磨くべき領域を指し示す羅針盤となります。

知識を「卓越した成果」へ変換する実践の技術

現代は情報が溢れていますが、知識を持っているだけではCanとは呼べません。ドラッカーは「知識は成果を生んで初めて価値を持つ」と説きました。得た知識を自らの仕事の現場に適用し、試行錯誤を経て「知恵」へと昇華させるプロセスが必要です。これを心理学では「経験学習」と呼びます。単なるインプット(学習)で満足する「お勉強」から脱却し、それをアウトプット(実践)に結びつけ、そこから得られた教訓を次の行動に反映させる。このサイクルを高速で回す習慣こそが、2026年という変化の激しい時代において、プロフェッショナルの実力を決定づけることになります。

強みを発揮することを妨げる「慢心」と「悪癖」の排除

強みを持っている人ほど陥りやすい罠が、知的な傲慢さや「自分流」への固執です。ドラッカーは、強みを発揮するためには自らの「悪癖」を正さなければならないと警告しました。例えば、優れた分析力(強み)を持ちながら、対人関係での礼儀や配慮を欠く(悪癖)ことで、その強みが組織内で活かされないケースは多々あります。自分の強みを最大限に活かすためには、その強みを支える周囲の協力が必要です。他者の強みと協調するための「作法」を身につけることは、強みを磨くことと同じくらい重要です。真のプロフェッショナルは、自分の強みに謙虚であり、常に他者貢献の視点を忘れません。

市場価値の源泉:ポータブルスキルを「型」にする戦略

特定の会社の中だけで通用する「社内政治の作法」や「独自のシステム操作」は、環境が変われば無価値になります。2026年を生き抜くために必要なのは、どこへ行っても通用する「持ち運び可能なスキル(ポータブルスキル)」を、自分だけの「型」として体系化することです。

専門性を抽象化し「汎用的な知恵」へと昇華する翻訳力

「5年間、法人営業をやってきました」という具体的経験を、そのまま語るのは不十分です。プロフェッショナルは、その経験を「不確実な状況下での意思決定プロセス」や「異なる利害関係者の合意形成技術」といったレベルまで抽象化します。抽象化することで、営業の経験をマネジメントや企画、さらには異業種での課題解決に転用することが可能になります。自分の成功体験を、特定の文脈に依存しない「原理原則(型)」として言語化できているか。この翻訳能力こそが、あなたのCanを市場価値へと変換する鍵となります。20代から培った経験を30代以降でどう抽象化し直すかが、キャリアの伸び代を決めます。

課題設定能力:答えを出す力より「問いを立てる力」の養成

AIが「答え」を瞬時に出してくれる時代、人間に求められるCanは「何を解くべきか」という問いを立てる力(イシュー特定力)へとシフトしています。ドラッカーも「間違った問いに対する正しい答えほど、危険なものはない」と述べています。現場の違和感から本質的な問題を抽出する観察眼、そしてそれを解決可能なサイズに分解する論理的思考力。これらの「メタ・スキル」を磨くことは、どんな技術革新が起きても決して陳腐化しない、一生もののキャリア資本となります。問題を与えられるのを待つのではなく、自ら社会や組織の課題を発見し、定義する。この能動的な姿勢が、あなたを単なる「作業者」から「創造者」へと引き上げます。

コミュニケーションの深層:伝える力と「聴く力」の再定義

2026年、リモートとリアルが混在するハイブリッドな環境では、コミュニケーションのCanがより重要になります。単に言葉を流暢に操るのではなく、相手の言葉の裏にある「意図」や「感情」を汲み取る共感的理解(心理学のカウンセリング技法)が求められます。ドラッカーは「コミュニケーションにおいて最も重要なことは、語られていないことを聞くことである」と洞察しました。相手の文脈を理解し、その上で自分のメッセージを相手の心に届く形で「翻訳」して伝える力。この双方向の高度なやり取りこそが、多様なプロフェッショナルが集まる組織を動かす唯一のエンジンとなります。

デジタル・リテラシーを「武器」として使いこなす拡張性

AIやDXは、もはやIT専門家の領域ではありません。すべてのビジネスパーソンにとって、これらは自らのCanを拡張するための「知的な義手や義足」のようなものです。テクノロジーを恐れるのではなく、それを活用して自分の生産性を10倍、100倍に高めるにはどうすればいいか、という視点を持ちましょう。重要なのはツールの操作方法を覚えることではなく、テクノロジーによって「ビジネスの何が、どう変わるか」という本質的な構造を捉えることです。自分自身の強みにテクノロジーを掛け合わせることで、個人のパフォーマンスは指数関数的に向上し、組織において圧倒的な優位性を築くことができます。

自己管理能力:時間のマネジメントは人生のマネジメント

ドラッカーが「成果をあげる者の共通点は、時間を管理していることである」と述べたように、自らの資源である「時間」と「エネルギー」をどこに集中させるかを決める能力は、すべてのCanの土台となります。心理学における「ウィルパワー(意志の力)」には限りがあります。重要な意思決定をエネルギーが高い午前中に行う、マルチタスクを避けてシングルタスクに集中する環境を作るなど、自分自身を最適に機能させるための「運用ルール」を確立してください。自分を律する力は、自由なキャリアを築くための唯一の条件です。自己管理ができる人だけが、真の意味での「自律」を手に入れることができます。

スキル開発の心理学:限界を超えて「Can」を拡張する戦略

現在のCanに満足していては、変化の波に飲み込まれます。心理学のエビデンスに基づき、効率的に、かつ確実に自分の能力の限界を押し広げていくための戦略的な学習法を学びます。

「コンフォートゾーン」を抜け出し、適度な負荷をかける勇気

人間は、慣れ親しんだ快適な環境(コンフォートゾーン)に留まろうとする心理的慣性を持っています。しかし、成長はコンフォートゾーンの外側、少し背伸びをしなければ届かない「ラーニングゾーン」でしか起こりません。心理学で言う「フロー状態」は、課題の難易度が自分のスキルをわずかに上回るときに発生します。日々の仕事の中で、あえて自分の未経験の領域を5~10%ほど混ぜ込むような工夫をしましょう。この絶え間ない「微量な挑戦」が、脳を活性化させ、あなたのCanを確実に拡張していきます。安住は衰退の始まりであることを肝に銘じ、常に未知の領域に触れ続ける姿勢を大切にしてください。

限界的練習(Deliberate Practice)の質を高める集中力

単に長く働くことがスキルアップに繋がるわけではありません。心理学者アンダース・エリクソンが提唱した「限界的練習」とは、自分の弱点を明確にし、それを克服するために100%の集中力を持って行う反復練習のことです。漫然とルーチンワークをこなすのではなく、「今回のプレゼンでは、この一節の伝え方に徹底的にこだわる」といった、具体的な目標設定と即座のフィードバックが不可欠です。量より質。この徹底した細部へのこだわりの積み重ねが、平凡なスキルを非凡なCanへと変貌させます。プロフェッショナルとは、誰もが見過ごすような細部に魂を込められる人のことを指します。

「マインドセット」が成長の天井と可能性を決定する

スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱した「成長マインドセット(グロース・マインドセット)」は、Canを伸ばす上で決定的な役割を果たします。能力は生まれつきのもので変えられないと信じる「硬直マインドセット」の人は、失敗を恐れて挑戦を避けます。一方、努力によって能力は拡張できると信じる人は、失敗を「学習の貴重なデータ」として歓迎します。あなたが「自分はここまでだ」と限界を決めた瞬間に、Canの成長は止まります。「今の自分にはまだできないが、学習すれば必ずできる」という未来への肯定感が、才能を凌駕する結果を生み出すのです。

ソーシャル・ラーニング:他者との相互作用で知恵を構築する

独学には限界があります。心理学の「社会的構成主義」が説くように、知識やスキルは他者との対話や共同作業の中でより深く構築されます。尊敬する先輩の仕事ぶりに触れる、勉強会でアウトプットする、他部署のプロジェクトに参加する。異なる視点からのフィードバックや、他者のCanとの化学反応は、自分一人では気づけなかった「自分の強みの新しい活かし方」を教えてくれます。20代から50代まで、多様な世代との交流を「学習の場」として活用する力は、個人の能力開発において極めて強力なレバレッジとなります。

レジリエンス:停滞期(プラトー)を乗り越える心理的粘り強さ

スキルの習得は、一直線の右肩上がりではありません。必ず「プラトー(停滞期)」と呼ばれる、努力の割に成果が見えない時期がやってきます。ここで多くの人が挫折しますが、この時期こそが脳内で知識が整理・再編されている重要なプロセスです。心理的資本の要素である「レジリエンス(回復力)」を持ち、停滞期を「次の跳躍のための準備期間」とポジティブに意味づけできるか。この粘り強さがある人だけが、停滞期の先にあるブレイクスルー(飛躍的向上)を体験し、真に卓越したCanを手にすることができるのです。成長は、あきらめなかった者にのみ訪れるご褒美です。

強みを組織の成果に繋げる:ドラッカー流「貢献」の作法

どれほど優れたCanを持っていても、それが組織や顧客の成果に繋がらなければ、ビジネスの世界では価値を持ちません。自らの強みを他者の強みと組み合わせるための「貢献」の作法を学びます。

「私の強みは何に貢献できるか」を常に問い続ける

ドラッカーは、成果をあげるための第一歩は「何に貢献すべきか」を自問することだと述べました。自分の持っているCanの中から、今の組織が直面している課題に対して最も効果を発揮するものは何か。この視点を持つことで、あなたの強みは「個人的な自慢」から「組織の共通資産」へと昇華されます。自分のやりたいこと(Will)と、自分の得意なこと(Can)を、組織が求める成果(Must)の接点に戦略的に配置する。この調整能力こそが、プロフェッショナルとしての真の知性であり、組織において不可欠な存在(キーマン)になるための唯一の道です。

コミュニケーション・スタイルを知り、摩擦を成果に変える

ドラッカーは、人には「情報の受け取り方」に固有のスタイルがあると指摘しました。文章で読んで理解する「読書家」と、人の話を聞いて理解する「聴取家」です。自分のスタイルに合わない方法で情報を伝えようとしても、強みは発揮されません。例えば、自分が読書家なら、重要な提案は口頭だけでなく必ず精緻な資料を用意して臨むべきです。また、上司や同僚のスタイルを知ることも、あなたのCanを周囲に正しく認識させ、円滑に成果を出すための重要な「人間関係の技術」となります。相手のスタイルに合わせる柔軟性が、あなたの強みを何倍にも増幅させます。

上司の強みを活かすことも「自分の重要な仕事」である

「上司と合わない」と嘆く前に、上司の強みは何か、その強みを最大限に活かすために自分ができることは何かを考えましょう。ドラッカーは「上司をマネジメントせよ」と言いました。これは媚びを売ることではなく、上司が成果をあげやすいようにサポートすることで、結果的に自分自身が仕事をしやすくなり、自分の強みを発揮する機会を得るための高度な戦略的行動です。組織全体の成果を優先する視点が、巡り巡ってあなたのCanの正当な評価へと繋がります。組織の歯車になるのではなく、組織を動かす「知恵」となってください。

多様性の統合:異なる強みを持つ他者を尊重する

一人の人間がすべてのCanを持つことは不可能です。卓越した組織とは、個人の弱みを意味のないものにし、強みを最大限に活かす仕組みのことです。自分とは異なる強み、異なる背景を持つ他者を尊重し、その強みをどう引き出すか。このリーダーシップ(あるいはフォロワーシップ)こそが、2026年の複雑な課題を解決するために必要不可欠なCanとなります。自分の優位性を誇示するのではなく、チーム全体のパズルを完成させるために自分のピースをどう置くか。この「全体最適」の視点を持つプロフェッショナルこそが、真に尊敬を集めることになります。

「真摯さ」を土台とした能力発揮の継続

どれほど卓越したCanも、一朝一夕に築かれるものではありません。そして、それを支えるのは、結局のところ日々の「誠実な仕事」の積み重ねです。ドラッカーが説いた「インテグリティ(真摯さ)」は、能力を発揮するための土台であり、周囲があなたのCanを安心して信頼するための根拠となります。誰が見ていなくても最善を尽くす。自らのミスを認め、そこから学ぶ。この当たり前のことを徹底できる人が、長期的に見て最も市場価値の高いプロフェッショナルとなります。スキルは磨けますが、真摯さは磨くものではなく「選ぶ」ものです。あなたは今日、どのような姿勢で仕事に臨むことを選びますか?

まとめ:研ぎ澄まされたCanが、あなたの未来を切り拓く

連載3日目、自分の武器である「Can」をどう磨き、どう活用すべきかについて深く考察してきました。

ドラッカーが説いたように、強みは与えられるものではなく、発見し、育てるものです。そして、心理学が教えるように、能力の限界は自分のマインドセット次第でいくらでも押し広げることができます。自分の強みを自覚し、それを社会や組織の「貢献」へと繋げる努力を惜しまないでください。

研ぎ澄まされたCanは、あなたに自信を与え、周囲からの信頼を勝ち取り、最終的にはあなたのWill(ありたい姿)を実現するための強力な推進力となります。2026年という激動の時代にあっても、自らの武器を信じ、磨き続ける者だけが、変化をチャンスに変えることができるのです。

よりよい職場づくり。そして、職業人として誇りを持って生きるための力。

あなたの持つ可能性を最大限に引き出し、卓越した成果を目指して努力する勇気を持ちましょう。あなたは、自らの強みによって世界に貢献できる、唯一無二の存在です。明日、Day 4では、これらWillとCanを社会の要請である「Must(すべきこと)」とどう適合させ、実践のサイクルを回していくかについて、さらに具体的に掘り下げていきます。あなたの武器は、もう輝き始めています。

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