善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

皆さん、こんにちは。坂本です。

キャリアの迷子を卒業する:2026年の自分を動かす「3つの視点」と自己経営の指針

2026年、私たちの働く環境は大きな転換点を迎えています。AI技術の浸透は単なる効率化を超え、人間の「働く意味」そのものを問い直しています。終身雇用の崩壊が叫ばれて久しいですが、今や「会社がキャリアを作ってくれる」という幻想は完全に消え去りました。こうした中で、多くのビジネスパーソンが、まるで霧の中を歩いているような「キャリアの迷子」状態に陥っています。

本連載では、人材育成の専門家として私が長年培ってきた経験と、ピーター・ドラッカーの経営哲学、そして行動変容を促す心理学の知見を融合させ、皆さんが自らの足で立ち、望む未来を切り拓くための「羅針盤」を提示します。初日である今日は、キャリア自律の基盤となる「3つの視点」を深く掘り下げます。

キャリア自律を阻む現代の正体:なぜ「霧」は晴れないのか

現代のビジネスパーソンが抱える不安は、単なるスキル不足ではありません。それは、社会の変化のスピードに対して、個人の「内なる指針」が追いついていないことから生じる構造的な問題です。まずは、私たちが直面している「霧」の正体を、心理学と社会学の視点から解き明かしていきましょう。

外部環境の激変と「心理的安全性」の揺らぎ

2026年現在、ジョブ型雇用の定着により、個人の専門性がかつてないほど問われています。心理学においては、環境の不確実性が高まると、人間は「生存本能」から保守的になりやすく、新しい挑戦を回避する傾向があります。これを「現状維持バイアス」と呼びます。会社という後ろ盾が揺らぐ中で、私たちは無意識のうちに防衛的になり、それが「自分には何もない」という無力感を生み出しているのです。この心理的な揺らぎを理解し、まずは自分の内側に安全基地(セキュアベース)を築くことが、キャリア形成の第一歩となります。

SNSによる「比較の罠」と自己同一性の喪失

他者の成功が可視化され続ける現代、私たちは絶えず「自分と誰か」を比較しています。心理学者フェスティンガーが提唱した「社会的比較理論」によれば、人は客観的な基準がない場合、他者と比較して自己評価を決定します。SNS上のキラキラしたキャリア像は、多くの人に「自分は出遅れている」という焦燥感を与え、本来の自分(アイデンティティ)を見失わせる原因となっています。他人の物差しで自分の幸せを測っている限り、キャリアの霧が晴れることはありません。

情報過多による「選択のパラドックス」の弊害

選択肢が多すぎることは、必ずしも幸福には繋がりません。膨大なリスキリングの選択肢、多様な働き方の提示は、かえって「どれを選べば正解なのか」という決断麻痺を引き起こします。これを「選択のパラドックス」と呼びます。正解を外に求めるのではなく、自分なりの「選択の基準」を持つことが求められています。情報の波に飲まれるのではなく、自分に必要な情報を取捨選択する「編集力」こそが、現代のキャリア戦略における不可欠な要素となっています。

「会社依存」から「自己依存」へのパラダイムシフト

これまでの日本型雇用では、会社が研修を用意し、異動を決め、昇進のルートを示してくれました。しかし、今の時代に求められているのは、自分自身のキャリアを一つの「事業」として捉えるマインドセットです。ピーター・ドラッカーは「組織に頼るのではなく、自らをマネジメントせよ」と説きました。この言葉は、2026年の今、より切実な重みを持って響きます。会社は「活用するプラットフォーム」であり、主役はあくまであなた自身であることを再認識する必要があります。

「キャリアの空白」に対する過度な恐怖心

転職回数やキャリアの断絶を恐れるあまり、不本意な環境に留まり続ける人は少なくありません。しかし、現代のキャリア論では「プランド・ハプンスタンス(計画的偶発性)」が重視されます。一見無関係に見える経験も、自らの意志で繋ぎ合わせれば独自の強みになります。空白を「停滞」と捉えるのではなく、次の跳躍のための「タメ」の期間と捉え直すリフレーミングが、心理的な余裕を生み、より大胆な意思決定を可能にします。

Will(ありたい姿)の再定義:内なる情熱を呼び覚ます

キャリアの三要素の1つ目「Will」は、あなたの行動を支えるエンジンです。しかし、多くの人が「やりたいことが見つからない」と嘆きます。それはWillを「職種」や「役職」といった名詞で考えているからです。ここでは心理学のアプローチで、あなたの深層にあるWillを掘り起こします。

「Want」と「Should」を峻別する誠実さ

私たちが「やりたい」と思っていることの多くは、実は「そうすべきだ(Should)」という社会的な要請であることが多いです。親や上司、世間体から求められる姿を自分のWillだと誤認すると、達成しても心は満たされません。心理学的な自己一致(内面と外面の統合)を果たすためには、自分に対して徹底的に誠実である必要があります。「もし、誰からも評価されず、お金の心配もなかったら、それでもやりたいことは何か?」という問いに答えることで、不純物のない純粋なWillが見えてきます。

「動詞」でキャリアを語る重要性

「経営者になりたい」という名詞の目標は、達成した瞬間に終わってしまいます。しかし「仕組みを作って人を楽にしたい」という動詞の目標は、一生涯続くテーマとなります。Willを動詞化することで、今の仕事の延長線上にもその価値を見出せるようになります。動詞はあなたの「価値観」そのものであり、環境が変わっても失われないポータブルな動機です。自分がどんな瞬間に「生きている実感」を得るのか、その行動様式を特定することが、揺るぎないキャリアの軸となります。

価値観の序列化と優先順位の明確化

Willを明確にするとは、同時に「何を諦めるか」を決めることでもあります。自由、安定、成長、貢献、調和……。私たちが大切にしたい価値観は多岐にわたりますが、それらが衝突したとき、あなたは何を最優先しますか? 心理学的な価値観分析ワークを通じて、自分だけの「価値観ランキング」を作成しましょう。この優先順位が明確であれば、キャリアの岐路に立ったときの意思決定が驚くほどスムーズになり、迷いが軽減されます。

内発的動機付けがもたらす「フロー状態」

報酬や評価といった外発的な動機付けは長続きしません。一方、活動そのものに喜びを感じる「内発的動機付け」は、集中力が極限まで高まる「フロー状態」を生み出します。ドラッカーも、自らの強みに集中し、仕事を通じて自己実現することの重要性を繰り返し述べました。あなたが時間を忘れて没頭できることは何か。その小さな芽を大切に育て、仕事の一部に組み込んでいく工夫が、持続可能なキャリアを築く鍵となります。

「貢献」の視点がWillを使命に変える

Willを自分のためだけの「欲求」に留めておくと、壁にぶつかったときに折れやすくなります。しかし、そのWillが「誰かの役に立っている」という貢献感(アドラー心理学でいう他者貢献)に結びついたとき、それは強固な「使命(ミッション)」へと昇華されます。自分の得意なことで、誰の、どんな課題を解決したいのか。自分を主語にするのではなく、他者を主語にしてWillを語り直したとき、あなたのキャリアは社会的な重みを持ち始めます。

Can(できること)の棚卸し:市場価値を可視化する

2つ目の要素「Can」は、あなたのWillを実現するための武器です。多くの人は自分の強みを「当たり前」だと思い込み、過小評価しています。2026年の市場で求められるCanの正体を、専門家の視点から分析します。

経験を「スキル」に抽象化する言語化能力

「5年間、法人営業をやってきました」というのは単なる経験の記述です。Canを磨くとは、その経験から「初対面の相手の潜在的ニーズを引き出すヒアリング力」や「複雑な利害関係を調整する合意形成力」といった、転用可能なスキルを抽出(言語化)することです。この抽象化のプロセスを経て初めて、あなたの経験は他社や他職種でも通用する「資産」となります。自分の棚卸しを定期的に行い、スキルをタグ付けする習慣を持ちましょう。

強みの上に築く:弱点克服の罠を避ける

ドラッカーの最も有名な教えの一つに、「強みの上に築け」というものがあります。多くの人が弱点の克服に時間を費やしますが、弱みを並のレベルにする努力は、強みを圧倒的なレベルにする努力よりもリターンがはるかに少ないのです。心理学の「強みの活用」に関する研究でも、強みを使うことで幸福感と生産性が高まることが示されています。あなたの欠点は、裏を返せば別の強みの現れかもしれません。弱みをマネジメントしつつ、強みを尖らせる戦略を立ててください。

「希少性」を生み出すスキルの掛け合わせ

現代において、一つの分野で100万人に1人の存在になるのは至難の業です。しかし、「100人に1人のスキル」を3つ掛け合わせれば、100万人に1人の存在になれます。例えば「営業能力 × ITの専門知識 × 特定業界の深いネットワーク」。この掛け合わせによって、あなただけの独自性(ユニーク・セリング・プロポジション)が生まれます。自分の持っているCanをバラバラに捉えるのではなく、どう繋げれば市場にない価値を生めるかを構想しましょう。

再現性を担保する「成功の型」の意識

一度きりの成功は運かもしれませんが、二度三度と繰り返せるなら、それは本物のCanです。成功したときに「なぜうまくいったのか」を分析し、プロセスをモデル化することを意識してください。これを「再現性の構築」と呼びます。心理学的には「自己効力感」を高めることにも繋がります。「この手順でやれば、次も成果が出せる」という確信こそが、プロフェッショナルとしての自信の根拠となり、周囲からの信頼を勝ち取る源泉となります。

ラーナビリティ(学習能力)という最強のCan

2026年において、今日持っているスキルは明日には陳腐化しているかもしれません。だからこそ、最も重要なCanは「学び続ける力」そのものです。新しい技術や知識を素早く吸収し、実務に適応させる能力。そして、過去のやり方を捨てる「アンラーニング」の勇気。学び方を学ぶ(メタ学習)という視点を持つことが、変化の激しい時代において、あなたのCanを常に最新の状態にアップデートし続ける最強の生存戦略となります。

Must(すべきこと)の活用:目の前の業務を成長の機会へ

3つ目の要素「Must」は、周囲や市場からの要請です。多くの人が「やらされている」と感じるこの領域こそが、実はCanを磨き、Willを証明するための唯一の「現場」です。

「期待値」の管理と信頼残高の構築

プロとしての仕事は、相手の期待に応えることから始まります。Mustを遂行する際、まずは「相手が何を、どのレベルで求めているか」という期待値を正確に把握しましょう。期待を1ミリでも超える成果(101%の法則)を出し続けることで、あなたの中に「信頼残高」が積み上がります。信頼が貯まれば、周囲はあなたの「やりたいこと(Will)」に対しても、耳を傾け、協力してくれるようになります。MustはWillを通すための「入場料」なのです。

ジョブ・クラフティングによる業務の再定義

与えられた仕事をそのまま受けるのではなく、自分のWillやCanに合わせてやり方を工夫することを、心理学で「ジョブ・クラフティング」と呼びます。単なる事務作業を「いかに効率化の仕組みを作るか」というプロジェクトに変える。顧客対応を「最高のファンを作る場」と捉え直す。業務の意味を自分なりに「再定義」することで、退屈なMustは主体的な挑戦へと変貌します。仕事に自分を合わせるのではなく、仕事を自分らしく作り変えていくのです。

「誰もやりたがらない仕事」にこそ宝がある

組織の中で放置されている課題や、誰もが面倒だと避ける地味な仕事。そこにこそ、あなたのプレゼンスを高めるブルーオーシャンがあります。困難なMustを率先して引き受け、鮮やかに解決してみせることは、あなたの「希少性」を一気に高めるチャンスです。逆境や厳しい環境は、あなたのレジリエンス(精神的回復力)を鍛える最高のジムであると心得ましょう。現場での格闘なしに、本物の人間力は養われません。

フィードバックを糧にする「開かれた自己」

Mustの結果に対する批判や指摘を「人格への攻撃」と捉えてはいけません。それは、あなたのCanを調整するための貴重な「データ」です。ピーター・ドラッカーは、自らの期待と実際の結果を照らし合わせる「フィードバック分析」を推奨しました。客観的な評価を真摯に受け止め、改善のサイクルを回し続けること。この謙虚な姿勢こそが、独りよがりのキャリアから脱却し、真に社会に必要とされるプロフェッショナルへと成長するための必須条件です。

「真摯さ(インテグリティ)」という究極の資質

ドラッカーは、リーダーシップの唯一無二の資質として「インテグリティ」を挙げました。これは、誰も見ていないところでも正しくあること、そして自分の言動に一貫性を持つことです。どんなに優れたCanがあっても、インテグリティを欠く人のキャリアは長続きしません。目の前のMustに対して、いかに誠実に、いかに魂を込めて向き合えるか。その姿勢そのものが、あなたという人間のブランドを形作り、長期的なキャリアの安定を支える礎となります。

まとめ:自律的なキャリアは「いま、ここ」の決断から始まる

連載初日、Will/Can/Mustという3つの視点を通じて、キャリアの迷子から脱却するための基盤を学んできました。いかがでしたでしょうか。

キャリアとは、どこか遠くにある理想の場所を目指すことではなく、今、目の前にある仕事にどう向き合い、自分自身をどうマネジメントしていくかという「過程」そのものです。Willを掲げ、Canを研ぎ澄まし、Mustに誠実に応える。この3つの円を統合させていく努力の積み重ねが、あなたを「替えのきかない存在」へと導きます。

ピーター・ドラッカーは、「自らの成長に責任を持つのは自分自身である」と断言しました。誰かのせいにしたり、環境を嘆いたりする時間はもう終わりです。あなたが今日、自分の人生のハンドルを握ると決めた瞬間から、キャリアの霧は晴れ始めます。

よりよい職場づくり。そして何より、あなた自身の「善くはたらく」ことへの第一歩。

職業人としての誇りを胸に、人間力を高めるための努力を楽しみましょう。あなたの内側にある可能性を信じ、今日という日を精一杯生きてください。明日もまた、このPROGRESS Labで、次の一歩を共に踏み出しましょう。

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