善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

人間関係を育てる力|TAで学ぶ対人理解と関係構築スキル入門:第5回

はじめに|なぜ「言いにくいこと」は難しいのか?

職場や日常生活の中で、「本当は伝えたほうがいいけれど、言いにくい」という場面は多々あります。

たとえば、同僚の行動への違和感、ミスへの指摘、上司への改善提案…。

伝えるべきことをうまく言えずに飲み込んでしまうことは、誰にでもある経験です。

でも、その「言わなかった一言」が、小さなすれ違いやストレスとなり、関係性にひびを入れてしまうこともあります。

今回は、TA(交流分析)心理学の視点から、「言いにくいことを、壊さずに伝える」技術をお届けします。

ちょっとした意識や工夫で、あなたの伝える力は確実に変わります。

第1章|「言いにくさ」は感情の摩擦から生まれる

言いにくさの背景には、感情の動きがあります。

不安、緊張、怒り、怖れ…。そういった心の反応が「言葉」を曇らせてしまうのです。

TA心理学では、私たちの心には3つの「自我状態(エゴステート)」があると考えます。

• P(Parent):批判・命令・正しさを求める心のはたらき

• A(Adult):事実と論理で判断する冷静な心のはたらき

• C(Child):感情や欲求に素直な心のはたらき

モード特徴主な反応
P(Parent)親の心道徳・しつけ・ルール重視批判・命令・叱責の言葉が出やすい
A(Adult)大人の心冷静・論理・現実的判断事実確認・中立的な説明ができる
C(Child)子どもの心感情・自由・甘え・創造性喜怒哀楽が激しく、感情的になりやすい

言いにくいことを伝えるとき、「P」が強く出ると相手を批判しがちになり、

「C」に偏ると感情的なぶつけ方になってしまいます。

もっとも効果的なのは、「A」=大人の自我状態を意識して話すこと。

落ち着いたトーンと視点で伝えることで、相手の防衛反応を和らげ、冷静な対話が可能になります。

第2章|伝える前に整えるべき3つのポイント

① 自分の感情を正しく言語化する

本当は悲しいのに怒ってしまう、本当は寂しいのに無関心を装ってしまう――。

これをTAでは「ラケット感情」と呼びます。

幼少期に身につけた“間違った感情の表現パターン”で、

本来の気持ちが見えなくなってしまう状態です。

まずは、「今、自分は本当はどう感じているのか?」を静かに見つめましょう。

その感情を“自分のものとして言葉にする”ことが、適切な伝え方の第一歩です。

② 目的を“関係を良くする”に置く

「自分の意見を通したい」「間違いを正したい」という動機だけで伝えると、

どうしても相手を責める形になってしまいます。

でも、本当に目指したいのは、お互いがより働きやすくなること、信頼関係が深まることではないでしょうか?

「伝えることで、より良い関係を築く」という視点を持てるかどうかが、言葉の選び方を大きく変えます。

③ タイミングと環境を見極める

緊張感がある場面や、相手が忙しく余裕のないときに伝えても、効果は薄れてしまいます。

• 感情が落ち着いているとき

• 1対1で話せる空間

• 相手に「聞く準備」があるとき

「正しいことを言う」だけでなく、「正しいタイミングで言う」ことのほうが、伝える力として重要なのです。

第3章|伝える技術を磨く|実践ステップ5選

ステップ①|Iメッセージで伝える

「あなたが悪い」ではなく、「私はこう感じた」と言うことで、

相手を非難することなく、自分の感情や考えを伝えられます。

• ❌「また遅れてるよ」

• ✅「私は、もう少し早く準備できると安心だと感じてます」

ステップ②|PREP法で話を構成する

PREPとは、

1. Point(要点)

2. Reason(理由)

3. Example(具体例)

4. Point(再主張)

例:

「今の進め方には改善の余地があると思います。(Point)

その理由は、納期に間に合わない可能性が出ているからです。(Reason)

たとえば先週の案件でも、資料がぎりぎりでしたよね。(Example)

なので一度、段取りを見直したいと思います。(Point)」

冷静かつ論理的に伝えるフレームとして有効です。

ステップ③|“前置き”を使って心の扉を開く

いきなり本題に入ると、相手は身構えてしまいます。

• 「少しだけ真面目な話をしてもいい?」

• 「ちょっと気になったことがあるんだけど、今話してもいい?」

この“ワンクッション”の一言が、相手に聞く姿勢を生み出します。

ステップ④|共感→事実→提案の順に伝える

• 「いつも丁寧に対応してくれてるの、助かってます(共感)」

• 「最近ちょっと報告のタイミングがズレることが増えていて(事実)」

• 「今後、事前に確認できる仕組みを一緒に作れたらと思ってます(提案)」

相手を否定せずに改善を促すための、定番パターンです。

ステップ⑤|伝えたあとの関係構築も意識する

言いにくいことを伝えたあとは、「フォロー」や「共通の目標の再確認」も大切です。

• 「伝え方がきつくなってしまってたらごめんね」

• 「一緒に良くしていけたらと思ってる」

こうした一言が、相手との信頼関係を守り、その後の関係を前向きに進める礎になります。

第4章|失敗と成功の分かれ道は「感情と事実の分離」

失敗例:「感情が先に出た」ケース

「また同じミス? もういい加減にしてよ!」

→ 相手は委縮し、必要以上に防衛的になる

成功例:「事実を冷静に伝えた」ケース

「今回も同じ箇所で修正が出てるようです。ここは一度、一緒に見直してみませんか?」

→ 相手が責められていないと感じ、前向きに対話に応じやすくなる

おわりに|“伝える力”は“育てる力”でもある

言いにくいことを飲み込むのではなく、丁寧に・冷静に・誠実に伝える技術を持つこと。

それは、職場や人間関係の信頼を深め、あなた自身の影響力を高める力にもなります。

TA心理学が教えてくれるのは、感情を整え、相手と関係性を育てるための視点です。

「言葉」を通して、「人とのつながり」を豊かにしていく技術を、ぜひあなたのものにしてください。

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