善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

成長を加速!指導を「期待」に変えるフィードバック技術とTAの条件付きストローク

こんにちは、坂本です。皆さんのキャリアと組織の成長を応援しています。

連載第1回、第2回では、組織の土台となる「無条件の肯定的ストローク(存在の承認)」の重要性について解説しました。しかし、組織の成長のためには、単に存在を認めるだけでなく、「行動」を適切な方向に導く必要があります。そこで今日焦点を当てるのが、「条件付きストローク」です。

条件付きストロークとは、「〇〇という行動をしたから(条件)、△△という承認を与える」という形式を取ります。これは、ドラッカーが提唱した「目標による管理(MBO)」の根幹であり、リーダーにとって最も利用頻度の高いストロークです。

しかし、このストロークは非常にデリケートです。使い方を間違えると、建設的な「指導」が、部下の主体性を奪う「批判」に一変してしまいます。本日は、条件付きストロークを最大限に活用し、部下の主体的な成長を加速させるための、実践的なフィードバック設計図を学んでいきましょう。

条件付きストロークの二面性:「指導」と「批判」の境界線

条件付きストロークは、ポジティブなもの(成果への承認)とネガティブなもの(行動の修正要求)の二種類があります。どちらも行動を促すために不可欠ですが、その与え方で部下の受け取り方は大きく変わります。

行動を強化する「条件付き肯定的ストローク」

これは、望ましい行動や具体的な成果に対して与える承認です。部下は、「この行動をすれば、また承認が得られる」と学習し、その行動を強化します。

条件付き肯定的ストロークの実践例

  1. 成果への承認:先週のプレゼン資料、データが豊富で非常に説得力があった。ありがとう。」
  2. プロセスへの承認:新しい顧客管理システムを導入する際、チーム全体に丁寧な説明会を開いてくれた。その配慮がスムーズな移行につながった。」
  3. 工夫への承認:今回のレポートは、結論から書くという工夫が見られ、非常に読みやすかった。」

重要なのは、「何が良かったのか」という具体的な行動を指摘することです。これにより、部下は次に何をすべきかを明確に理解し、再現性を高めることができます。

主体性を奪う「条件付き否定」の落とし穴

条件付きの否定的ストローク(指導や修正要求)は、「行動を修正するための必要悪」です。しかし、これが無条件の否定的ストロークに極めて近づいてしまう瞬間があります。

NGな条件付き否定的ストロークの例:

  • NG: 「君のこのレポートの誤字は、いつも多いね。チェックが甘いぞ。」
  • 問題点: 「いつも」「チェックが甘い」という曖昧な一般論人格的な評価が加わることで、**「今回の行動」への指導ではなく、「君の基本的な資質」**への批判として受け取られてしまいます。

部下のアダプテッド・チャイルド(AC)の自我状態が刺激され、「私ってダメなんだ」という自己否定に陥り、防衛的になり、行動の修正ではなく「失敗の隠蔽」を選ぶようになるリスクがあります。

サンドイッチ・フィードバックの限界と代替案

多くのマネジメント研修で推奨される「サンドイッチ・フィードバック(承認→指導→承認)」は、しばしば効果を発揮しません。

サンドイッチ・フィードバックの限界:

  1. ポジティブの無効化: 部下は最初のポジティブな言葉(パンの上側)を聞いた瞬間から、次にくる指導(具)を予期し、最初の褒め言葉を「前置き」として無視してしまいます。
  2. 混乱: 最後のポジティブな言葉(パンの下側)は、指導の後に聞かされるため、「結局、自分は褒められたのか、怒られたのか」と混乱し、メッセージが曖昧になります。

代替案:SBIモデルの活用

  • S (Situation): 状況を特定する。「先週のクライアント会議で…」
  • B (Behavior): 行動を具体的に描写する。「あなたは提案を3回も遮ってしまった。」
  • I (Impact): その行動がもたらした影響を客観的に伝える。「その結果、クライアントが不信感を抱いたように見えた。」

このモデルを使うことで、リーダーのアダルト(Adult)の自我状態から、感情を交えず客観的な事実のみを伝え、部下もアダルトとしてフィードバックを受け取りやすくなります。

ドラッカーのMBO成功の鍵:フィードバックの「時間軸」設計

ドラッカーの「目標による管理(MBO)」は、上司の指示ではなく、目標自体に部下がコミットすることで主体性を引き出す手法です。このMBOを機能させるためには、目標設定時と実行中のフィードバック設計が鍵となります。

目標設定時:未来への条件付き肯定的ストローク

目標を設定する時、リーダーは「未来」に対する強い期待という形のストロークを与える必要があります。これは、単なる激励ではありません。

未来への条件付きストローク(期待)の実践

  1. 強みへの言及:あなたの論理的思考力(強み)を活かせば、この四半期の売上10%アップ(目標)は必ず達成できると信じている。」
  2. 責任の明確化: 「このプロジェクトの成功は、あなたの〇〇のスキルにかかっている。この重責を任せたい。」
  3. 自律性の付与: 「目標達成のためのプロセスは、あなたが最適に設計してほしい。私はその自律的な挑戦を最大限に支援する。」

これにより、部下は「信頼されているから、この目標を任された」と感じ、自発的なコミットメントが生まれます。

実行中:行動の方向修正としての条件付き否定

目標の実行中にズレが生じた場合、指導は不可欠です。このとき、「目標達成」という条件に基づいた否定は、部下の自己肯定感を守りながら行動を修正する唯一の方法です。

実行中の条件付き否定のポイント

  1. 「目標」を主語にする: 「君の行動は」ではなく、「この行動は、目標達成という観点から見ると、遠回りになっている可能性がある」と伝える。
  2. 代替案の提示を促す: リーダーが答えを与えるのではなく、「どうすれば目標に戻れるか、君のアイデアを聞きたい」と問いかけ、部下のアダルト(Adult)自我状態による解決策の創出を促す。
  3. 期限の明確化: 修正の期限と、それに対する次のチェックポイントを明確にすることで、曖昧な批判を避ける。

行動変容を促すための「ラケット感情」の理解

TAの「ラケット感情」とは、過去の禁止令に基づいて親から学んだ「感じても安全な代わりの感情」を指します。指導される側(部下)が、指導とは関係のないラケット感情(例:無力感、罪悪感)を表出し始めたら、リーダーはすぐに指導を中断する必要があります。

ラケット感情のサインと対処法

  1. サイン: 指摘されたことと関係のない「私はいつもこうなんですといった自己卑下を始める。
  2. 対処法: 「今、あなたが感じている無力感は、このレポートのミスとは関係ない。この問題は、レポートの構成という技術的な話だ。あなたの存在や能力全般の話ではない」と、感情の分離を明確に行う。

これにより、部下は指導を人格への攻撃ではなく、技術的なフィードバックとして受け取ることができるようになります。

まとめ:条件付きストロークを「成長へのパスポート」に変える

本日は、条件付きストロークを、単なる評価や指導ではなく、部下の主体的な成長を促す「期待」に変える技術を学びました。

リーダーの役割は、無条件の承認という土台の上で、条件付きストロークというツールを使いこなし、部下がドラッカーの言う「セルフマネジメント(自己管理)」を実践できるように導くことです。

指導の際には、必ず「行動」と「存在」を分離し、「君に期待しているからこそ、このフィードバックをする」というメッセージを伝えてください。その一貫した姿勢こそが、部下の主体的な行動と、組織の持続的な成長を可能にします。

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