善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

人間関係を育てる力|TAで学ぶ対人理解と関係構築スキル入門:第2回

はじめに|同じことを言ったのに、なぜ伝わらない?

同じことを伝えたはずなのに、

相手の反応がまるで違った――そんな経験はありませんか?

• Aさんにはスッと伝わったのに、Bさんはムッとした

• 自分は冷静に説明したつもりなのに、相手からは「感じが悪い」と言われた

• どう返したらいいか迷って、沈黙が生まれてしまった

これらはすべて、「会話の流れ(交流パターン)」がうまく噛み合っていなかったサインです。

今回のテーマは、「なぜ、人とのやり取りはすれ違うのか?」

その背景にある“見えない会話の構造”をTA心理学(交流分析)で紐解きます。

「何を話すか」だけでなく、「どう話すか」「どこが噛み合っていないのか」に気づけるようになると、

人間関係のストレスは確実に減り、信頼されるコミュニケーションができるようになります。

第1章|TA心理学が教える「やり取りの仕組み」

TA心理学(Transactional Analysis)では、

人間同士の会話を「交流(トランザクション)」という単位で分析します。

一つひとつの会話は、次のように構成されています。

Aさんが発信(刺激) → Bさんが応答(反応)

これが交わされて、はじめて「会話」が成立します。

そして、この“刺激と反応のやりとり”が、どのモードで行われているかが、人間関係の質を左右します。

ここで登場するのが、前回解説した3つの自我状態です。

• P(Parent) 親のように教える、指導する、叱るモード

• A(Adult) 論理的で冷静に対等に話すモード

• C(Child) 子どものように感情的に反応するモード

この3つのどのモードで話しかけ、どのモードで返しているか。

その組み合わせによって、会話の質が決まるのです。

第2章|すれ違いが生まれる「3つの交流パターン」

TA理論では、交流パターンは大きく分けて3種類あります。

① 補完的交流|お互いが意図通りにやりとりできる状態

これは理想的なやりとりです。

たとえば…

Aさん(A):「この件、データが足りないと思います。どう思いますか?」

Bさん(A):「そうですね。もう少し調査してから進めたほうが良さそうですね。」

両者が同じモード(A↔A)で対等にやりとりしているため、会話にストレスがなく、

信頼関係が築かれやすくなります。

✅ 特長: 落ち着いた雰囲気、情報共有がスムーズ、仕事が前に進む

■ A. 補完的交流(スムーズな会話)

あなた(A)→ 相手(A)

    ↘   ↗

    ← 応答(A)

【例】

あなた:「この件、少し確認させてもらえますか?」

相 手:「もちろん。こちらの資料を見てください。」

⇒ 会話が対等・建設的に進む

② 交差的交流|モードが噛み合わず、すれ違いが起こる

例えばこんな場面:

Aさん(A):「この進捗、少し遅れてるように見えますがどうですか?」

Bさん(C):「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか…!」

Aさんは冷静に確認しているつもりでも、

Bさんは「責められた」と受け取り、感情モード(C)で返してしまう。

これが「交差的交流」です。

この状態になると、どちらか一方、あるいは両方が感情的になり、対話の質が一気に低下します。

✅ 特長: 緊張感が走る、相手の反応に戸惑う、会話が途切れる

■ B. 交差的交流(すれ違い・衝突)

あなた(A)→ 相手(C)

    ↘   ↗

    ← 応答(C)

【例】

あなた:「進捗に遅れがありますが、大丈夫ですか?」

相 手:「責めてるんですか? ちゃんとやってますけど!」

⇒ 意図が伝わらず、感情的にすれ違う

③ 裏面交流|表と裏の意味がズレて伝わる、誤解を生む会話

このタイプは特にやっかいです。

たとえば上司がこう言います。

上司(P表/C裏):「今日も早いねぇ、やる気あるなあ~」

一見、褒めているように聞こえますが、

トーンや言い方から“皮肉”として伝わり、受け手は反発や不安を抱えやすくなります。

表と裏のメッセージがズレているため、信頼関係が崩れやすいという特徴があります。

✅ 特長: 言葉と感情が一致しない、裏読みが発生、距離感ができる

■ C. 裏面交流(言葉と本音がズレる)

あなた(P/表)→ 相手(C/裏)

    ↘   ↗

    ← (裏読みが発生)

【例】

あなた:「今日も早いね、珍しいじゃん」(笑いながら)

相 手:(内心)「皮肉?なにそれ…」

⇒ 表面はやわらかくても、裏の意図で誤解が広がる

第3章|「すれ違い会話」を防ぐ具体的なアプローチ

では、これらのすれ違いを避け、良質な関係性を育むにはどうしたらいいのでしょうか?

答えは明快です。

「A(成人)モードでやりとりを始める」こと。

Aモードとは、「感情に巻き込まれず、事実と相手の立場を踏まえて話す状態」です。

具体的には…

• 「〇〇について、今こう見えているのですが…どう思いますか?」

• 「確認なのですが、進め方に少し違いがありそうなので、整理してみませんか?」

このように、“自分の主張”ではなく、“事実と問い”を起点に会話を展開すると、

相手もAモードで応じやすくなります。

💡 コツ1|一度、感情を手放す

特に交差交流が起きやすいのは、「イラッとした瞬間」です。

その感情にすぐ反応せず、“一呼吸”おいてから言葉を選ぶことで、Aモードに戻ることができます。

💡 コツ2|“反応”ではなく“応答”する

つい出てしまいがちな反応(例:「は?」「いや、それは違う」)ではなく、

一度咀嚼して返す「応答」(例:「なるほど、でも私の立場から見ると…」)を意識する。

💡 コツ3|相手の“モード”を見極める練習をする

相手がPなのか、Cなのか、Aなのか。

慣れてくると、声のトーン・言葉の選び方・表情からなんとなく見えてきます。

「この人、今Cモードで不安になっているな」と思ったら、

Pモードで叱るのではなく、AまたはCモードで「大丈夫? どこが不安か教えてもらえる?」と寄り添う。

相手に合わせて自分のモードを柔軟に選べるようになると、関係性の質が劇的に変わります。

すれ違いの修正スクリプト(言い換え例)

よくあるすれ違い→“伝わる表現”への変換例

❌ すれ違い例(交差交流)

「このやり方じゃうまくいかないでしょ」

→ 相手がCモードで受け取り、防御的になる

✅ 言い換え例(Aモード)

「今の方法でもいい部分がありそうですが、別の案も考えてみませんか?」

❌ すれ違い例(裏交差)

「さすが〜、今回はちゃんとやったね(笑)」

→ 皮肉っぽく伝わり、相手が不快に感じる可能性

✅ 言い換え例(A↔C/A↔A)

「今回、すごく丁寧にまとめてくれて助かったよ。ありがとう。」

❌ すれ違い例(P↔C)

「こういうときは、こうすべきだったでしょ?」

→ 相手が委縮し、思考停止するリスクあり

✅ 言い換え例(A↔A)

「こういう場合、他にも方法があるかもしれません。どう思います?」

📌 使い方:

研修・面談・日常コミュニケーションのリフレクションに。受け手のモードに合わせた言葉選びを意識する練習になります。

ふりかえりワークシート【言い換え練習+モード確認】

タイトル:会話を整える「交流パターン」ふりかえりシート

【Step 1】今日のやり取りを思い出す

• 相手は誰?(上司/先輩/同僚/後輩/他)

• 話したテーマは?(仕事/報告/確認/雑談 など)

【Step 2】自分と相手のモードをふりかえる

発言自分のモード相手のモード結果はどうだった?
「〜〜〜」(P/A/C)(P/A/C)(スムーズ/すれ違い/緊張)

※ できれば2~3やりとり書き出す

【Step 3】もっと伝わる言い方があるとすれば?

• 自分の言い方で変えられそうなところは?

• Aモードでの言い換え例を考えてみよう:

📌 例)「○○してもらわないと困ります」

→ 「○○の進捗を知りたいので、教えてもらえますか?」

【Step 4】気づき・明日からやってみること

• 会話で大切にしたいことは?

• 明日から実践できる具体的行動は?

第4章|交流パターンを整えることで得られる“信頼”

良好な職場関係に共通しているのは、

「やりとりが安心してできる空気」があることです。

• 話しかけやすい

• 自分の意見を出しても大丈夫だと感じられる

• わからないことを聞ける

この空気は、A↔Aの補完的交流が繰り返される中で自然と生まれます。

つまり、「日々の会話のパターンが、関係性の質を決めている」のです。

すれ違いは一瞬で起こりますが、

修復するには“信頼の積み重ね”が必要です。

まとめ|言葉のやり取りに、心の状態は映し出される

コミュニケーションとは、単に言葉を交わすだけの行為ではありません。

どんな心の状態で発信し、どんな状態で受け取るか。

その“見えない流れ”に気づけるかどうかで、人との関わり方は大きく変わってきます。

相手が変わるのを待つのではなく、

まずは自分がAモードで、穏やかに、意図をもって関わる。

それだけでも、すれ違いは減り、対話が育ち始めます。

関連記事一覧