善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

ロイヤルティの最終設計:顧客を「重要なパートナー」にする成果定着CX

こんにちは、坂本です。皆さんのキャリアと組織の成長を応援しています。

いよいよ連載最終回です。これまでの5日間で、私たちは顧客の不安クレーム、そして価格交渉といったネガティブな場面を、いかにポジティブな信頼へと転換するストローク設計を学んできました。あなたの対話スキルは、顧客の心を動かし、ロイヤルティ(愛着)を築くための強力な武器となったはずです。

さて、CX(顧客体験価値)の設計図において、最も見落とされがちな、しかし最も重要なフェーズがあります。それが、「サービスの提供が完了した時点」、すなわち「成果定着フェーズのCXです。

例えば、長期コンサルティング・プロジェクトの完了後や、システム会社であれば、システムが完全に稼働した後。この「一区切り」の瞬間こそ、顧客のロイヤルティの真価が問われます。本当にロイヤルティの高い顧客は、静かに去るのではなく、「他者に推奨したい」という行動(伝道)を起こします。

本日の記事では、この「推奨行動」を意図的に引き出すための、「感謝」と「期待」を組み合わせた最終のストローク設計を解説します。顧客を単なる利用者ではなく、「私たちのパーパス実現を応援してくれる重要なパートナー」へと昇華させるための、プロのCX術を学んでいきましょう。

ロイヤルティとは何か?:推奨行動を引き出す心理

ロイヤルティ(顧客愛着)とは、単なる「満足」や「リピート」ではありません。それは、顧客が「自分の貴重な社会的信用(評判)を賭して、あなたの会社を他者に推奨する」という「利他的な行動」です。この行動を支える顧客の心理を、行動経済学とTA(交流分析)の視点から分析します。

顧客が推奨する理由:「利得」から「貢献」へ

行動経済学では、人間は金銭的なインセンティブ(報酬)だけでなく、「社会的利得」や「貢献感」といった非金銭的な動機に強く反応することが知られています。

顧客が他者にあなたの会社を推奨する心理は、次の2つのストローク要求に集約されます。

  1. 自己肯定感(I’m OK)の獲得: 「良いものを選んだ私」は賢いという肯定的ストロークを、推奨を通じて獲得したい。
  2. 貢献感(You’re OK)の追求: 「大切な人に良いものを紹介した私」は価値ある存在であるという、利他的な肯定ストロークを追求したい。

プロのCXデザイナーは、この顧客の「貢献欲求」を刺激し、「推奨」という行動のハードルを下げてあげることが必要です。

「期待」を込めたストロークが行動を促す

TA(交流分析)では、人に行動を促す強力なストロークとして「メッセージ(許可証)」があります。これは、「あなたは、〇〇をしてもいい(あるいは、〇〇をするべきだ)」という、未来への期待を込めた言葉です。

サービス提供完了の節目に、顧客に対し「私たちは、あなたの成功を期待している」というストロークを与えることで、顧客は「期待に応えよう」という強い内発的動機を得ます。

  • 単なる感謝: 「ご利用ありがとうございました。」
  • 期待のストローク: 「〇〇様がこの経験を活かして、未来にどのような活躍をされるか、心から期待しています。」

この「期待」のメッセージが、顧客をあなたの会社の単なる利用者ではなく、「成功を約束された、将来の成功者」というポジティブな存在へと位置づけるのです。

「損失回避」を「社会的な利得」へと転換する

顧客が他者に推奨する際、彼らは「紹介した相手に迷惑をかけたら、自分の信用が失われる」という社会的な損失回避の心理が強く働きます。

この損失回避を打ち破るには、「あなたの推奨は、相手の未来に巨大な利得をもたらす」という確信を与える必要があります。

  • ストローク: 「〇〇様がもし大切なご友人やご家族このサービスご紹介いただけたら、それは『その方々の未来の安全と成功』という最高のプレゼントになります。」

このように、推奨行動を「社会的な責任」や「利他性」という大きな利得に結びつけることで、顧客は自身の損失リスクよりも、貢献の喜びを選択しやすくなるのです。

顧客を「重要なパートナー」にするロイヤルティ・ストローク設計図

ロイヤルティ・ストロークとは、単なる「一区切りの挨拶」ではなく、「今後も関係を継続する」という未来への招待状です。それは、感謝と期待を組み合わせた、プロの「成果定着CXの設計図です。

ステップ1:節目での「無条件の感謝と誇り」を伝える

まず、サービス利用の完了という事実に対して、無条件の肯定的ストロークを最大限に伝えます。この時、「あなただからこそ」という特別な承認を込めます。

実践例文(長期プロジェクト完了時):

「〇〇部長、この度はおめでとうございます!最後までチームを率いて、私たちの厳しい提案に真剣に向き合ってくださり、本当にありがとうございました。(無条件の承認)私たちは、今日、『御社の持続的な成長という未来』をあなたというパートナーと一緒に創造できたと感じています。」

「パートナーと一緒に創造した」という言葉は、顧客を仲間として位置づけ、強い一体感を醸成します。

ステップ2:「期待と約束」で長期的な関係をデザインする

顧客との関係が「途切れる」ことを前提とするのではなく、「さらに成功する」ことを前提とした未来志向のストロークを伝えます。

実践例文(システム導入完了時):

「〇〇部長、このシステムの導入は終わりではなく、『御社の新たな成長の始まり』です。(未来への期待)私たちは、『導入後の継続的な成果』にこそ最大の責任を持っています。何かあれば、私に直接ご連絡ください。(A-Aの関係継続の約束)

「私に直接ご連絡ください」というメッセージは、「担当者が変わっても、あなたとの関係は特別だ」という強い無条件の肯定的ストロークとなり、顧客のロイヤルティを深めます。

推奨を自然に促す「紹介のプロンプト」

推奨行動は、「誰か紹介してくれませんか?」という露骨な依頼では生まれません。顧客の「貢献欲求」を刺激する「紹介のプロンプト(きっかけ)」を、感謝のストロークとセットで提示します。

実践例文:

「〇〇部長、もし、あなたが『あの頃の御社のように、組織変革に踏み出したいと悩んでいる経営者』を思い浮かべたら、ぜひ私たちのことを思い出してください。(状況を限定)あなたの『成功事例という一言』が、その方の未来を大きく変えることがあります。(貢献欲求の刺激)

これにより、顧客は「お願いされた」のではなく、「大切な人を助ける機会を与えられた」という利他的な喜びを感じ、自発的に推奨行動を起こしやすくなります。

LTVを最大化するドラッカーの教え:顧客との継続学習

経営者やマネジメント層は、この「成果定着CX」を、単なるアフターフォローではなく、「顧客との継続的な学習」の場と捉えるべきです。ドラッカーの思想は、顧客との関係性を「学びの共同体」と見なすことにあります。

「顧客の未来の成果」を組織学習に活かす

ドラッカーは、「知識労働者の最大の課題は、自己管理である」と同時に、「組織は、知識を活用するために、学習する組織でなければならない」と説きました。

サービス提供後の顧客が、あなたのサービスをどのように活用し、どのような成果を上げたか?あるいは、どのような課題に直面したか?この「定着後の成果と課題」こそが、あなたの組織の次なる知識の資産となります。

  • プロの質問: 「プロジェクト完了後、最も役に立ったと感じる当社の支援(または機能)はどれでしたか?」「逆に、『今、最も難しく感じている業務の点』は、何でしょうか?」

顧客の自己管理の状況その成果を問うことで、組織は次期商品の開発サービスの改善に繋がる、貴重な「知識のストローク」を受け取ることができるのです。

顧客を「フィードバックのパートナー」にする

顧客を「パートナー」にするとは、「私たちの組織の成長に、あなたのフィードバックは不可欠である」という最大の承認ストロークを与えることです。

メッセージ:

「〇〇部長、私たちは、〇〇様のようなプロフェッショナルなユーザー様からの率直なご意見なしには、このサービスをより良くすることはできませんどうぞ、遠慮なく、私たちの改善点をお聞かせください。私たちの進化は、あなたのフィードバックにかかっています。」

このメッセージは、顧客に「私はこの会社の未来に影響力を持っている」という誇りを与え、継続的な貢献(フィードバック)を動機づけるのです。

パーパス実現に向けた「行動への決意」を促す

顧客との関係を強化する最終段階では、プロとして、顧客自身の「将来に向けた行動への決意」を促すことが重要になります。このロイヤルティ・ストロークを最大限に活用しましょう。

顧客との対話の最終段階で、「あなたの未来をサポートする」という約束と共に、顧客自身の「行動」を静かに促します。

  • コンサルタント: 「〇〇部長、あなたはもう組織変革の成功事例です。あなたの今後の持続的な成果が、私たちのパーパスできるを増やす未来をつくる最高の証明**になります。私たちは、あなたの誇りある行動を、心から応援しています。」

顧客の「成功」と、あなたの組織の「パーパス」を完全に結びつけることで、ロイヤルティは「人生の目標を共有する関係」へと昇華し、LTV(顧客生涯価値)は最大化されるのです。

【まとめ】CXは永遠に続く「線」の物語

全6回の連載を通じて、私たちはCXが単なる「点の接客」ではなく、「顧客の感情と行動を意図的にデザインする、永遠に続く『線』の物語」であることを学びました。

  • 一区切りは新たな関係の始まり: サービスの提供完了は、「推奨行動」という新たな関係性の始まりである。
  • ロイヤルティ・ストローク: 「感謝」と「期待」を組み合わせ、顧客の「貢献欲求」を刺激する。
  • パートナーシップ: 顧客を「フィードバックのパートナー」、「パーパス実現のパートナー」として位置づけ、生涯価値を最大化する。

あなたの一言、あなたのストロークは、顧客の不安安心に変え、失望信頼に変え、そして最終的には、顧客をあなたの会社の熱狂的な伝道者へと創造します。

この連載で得た知識と誇りを胸に、プロフェッショナルとして、顧客とのすべての接点で最高のCXを創造し続けてください。

お読みいただきありがとうございました。皆さんのキャリアと組織の成長にお役に立てれば幸いです。

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