善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

ゴールデンウィークが明け、若手社員に変化が現れはじめる5月。

「急に元気がなくなった気がする」「最近、話さなくなった」といった“違和感”が、

表面的には元気に見える若手社員の内側で起きている兆候かもしれません。

特に、メンタル不調やモチベーションの低下は“静かに、言葉にならないまま進行する”ことが多く、

本人ですらそれを明確に説明できないケースもあります。

だからこそ、マネジャーやチームの側が、違和感に気づき、言葉にする対話の技術と意識を持つことが重要です。

今回は、国家資格キャリアコンサルタントの視点から、

「五月病を防ぐ1on1と対話設計術」について、理論と実践に基づいてお伝えします。

1章:1on1が「話せない場」になっていないか?

多くの職場で導入が進む1on1ですが、形骸化している例も少なくありません。

よくある悩みとして、以下のような声が聞かれます。

• 「話題が業務報告ばかりになる」

• 「いつもこっちが喋ってしまう」

• 「何を話せばいいか分からない雰囲気になる」

この状態では、“沈黙のサイン”に気づくどころか、むしろ取りこぼしてしまう可能性があります。

1on1の目的は、「評価」ではなく「対話」です。

特に若手社員との1on1では、“話したくなる場”を設計することそのものがマネジメントの一部になります。

2章:違和感に気づくための“対話設計”3つの基本

違和感を察知するには、スキルとしての「傾聴」だけでなく、“話しやすい対話の構造”を意図的につくることが求められます。

ここでは、キャリア面談の現場で有効だった設計原則を3つご紹介します。

① 「今」の気持ちに触れる問いを先に置く

業務の話から始めると、構えが強まりやすく、本音を出しづらくなります。

まずは、心理的に答えやすく、“今の状態”に近い問いから始めましょう。

例:

• 「最近、仕事のどんな場面が印象に残っていますか?」

• 「今日ここに来るまで、どんな気分でしたか?」

• 「ちょっと疲れてるようにも見えるけど、大丈夫?」

“何かがあるかも”と感じたときほど、シンプルな問いで扉を開くことが大切です。

② 共感+沈黙を受け止める技術

話す内容が見つからない、もしくは言葉が詰まる場面は、「出す準備」が整っていないだけです。

焦って埋めようとせず、「待つ」「沈黙を承認する」姿勢が必要です。

例:

• 「うんうん、今言葉を探してくれてるんだね。ゆっくりでいいよ。」

• 「無理に言葉にしなくても大丈夫。感じてることがあるなら、それがヒントだと思うよ。」

“話さない時間”を“話したくない時間”にしないこと。

これが信頼を深める1on1の鍵です。

③ 話題の幅を広げる「生活・感情・キャリア」視点

業務以外の話題を扱えるかどうかは、関係性の柔らかさを示します。

若手社員は、日常の些細なことに気持ちが引っ張られていることも多く、

それを話題にしてもらえるだけで**「気にかけられている」と感じられる**のです。

問いの例:

• 「最近、職場以外でリラックスできてる?」(生活)

• 「今、少ししんどいなと感じることってある?」(感情)

• 「この仕事、どんなふうに将来につながるといいなと思ってる?」(キャリア)

3章:対話をチームと組織で支えるしくみ

違和感を拾える1on1をマネジャー個人の力量に頼るだけでは、組織的な対策になりません。

そこで重要なのが、「チーム全体で“対話の場”を支える文化と仕組み」です。

実践例:対話を仕組みにする3つの工夫

1. OJT担当者による週次サポートシート

 → 感じたこと・変化・相談事項などを軽く記録し、人事と共有する運用を実施。

2. 「最近どう?」のチーム習慣化

 → 朝会や夕礼で「最近、気になっていること」「うれしかったこと」を1人ひと言ずつシェアする仕組み。

3. 人事による“対話の見守り”導線の明示

 → 若手が相談先を把握できるよう、「いつでも相談OK」の人事担当者を顔と名前で周知。

4章:違和感を“声”に変えるチームになるために

若手社員の沈黙や不調の兆しは、

• 知識不足

• 性格の問題

ではありません。

それは、安心して話せる環境が整っていないことの表れです。

1on1を含む日常の対話こそが、その兆しにいち早く気づく“感知センサー”であり、

それを支えるチームの雰囲気こそが、「ここにいていい」と感じられる土壌になります。

まとめ:1on1を“気づきと回復”の場へ

五月病とは、実は「声を出す余裕がない」「話しても変わらない」という無力感の蓄積です。

それを防ぐために、1on1や対話の場を、評価や説教の時間ではなく、「違和感を拾い、寄り添う時間」へと進化させていくことが求められます。

若手が「なんかモヤモヤする」と言えたとき、チームは一歩成長します。

その言葉が出る場を、組織としてデザインしていくことが、善く働く職場づくりの基盤となるのです。

📚おすすめの一冊

『シリコンバレー式 最強の育て方 ― 人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング』 (著:世古詞一/KADOKAWA)

本書は、シリコンバレーの企業文化に学びながら、「1on1」を人材育成の中核に位置づける重要性と、

それを日本の組織にどう応用すべきかを丁寧に解説しています。

単なる雑談や業務報告ではない「本音の対話」を、どのように設計・継続すればよいか。

また、マネジャーと若手が信頼を築きながら、“違和感”をキャッチする感度を育てる方法が豊富な事例とともに紹介されています。

五月病などのメンタル不調予防にも直結する「1on1の本質」を学ぶうえで、信頼できる実践書です。

関連記事一覧