人間力⑤:自律性を最大化する「目標設定」と「フィードバック」の仕組み
人間力⑤:自律性を最大化する「目標設定」と「フィードバック」の仕組み
こんにちは、坂本です。皆さんのキャリアと組織の成長を応援しています。
昨日の連載第7回では、組織の品性を内部から蝕む「ラケット感情」や「ゲーム」といった不健全な交流の構造を深く解明しましたね。真の貢献(利他性)から逃げるこの感情のエネルギーを、いかに理性(Adult)の力で健全な「活動」へと昇華させるかが、品性あるリーダーシップの喫緊の課題であることを理解いただけたかと思います。
不健全な交流は、多くの場合、「何を貢献と見なされるか」という評価基準の曖昧さや、「自分は組織の中でOKな存在か」という承認の不安定さから生じます。例えば、メンバーが成果ではなく、「忙しいというストローク(同情)」を得るために偽の活動(長時間労働)に走るのは、目標設定と評価の仕組みが不健全であることの裏返しです。感情的な不安が、理性を上回って行動を支配している状態。これでは、いつまでたっても組織の品格は上がりません。
そこで本日は、「不健全な感情のエネルギー」を「自律的な貢献のエネルギー」へと転換させるための具体的な「仕組み」の設計に焦点を当てます。この仕組みは、組織の品性を個人のメンタルに依存させず、持続的な文化として定着させるための核心です。その鍵となるのが、ドラッカーの目標管理の哲学に基づいた、「自律性を最大化する目標設定」と、「継続的なフィードバックシステム」です。これらの仕組みは、メンバー全員がAdultの理性で、品性ある貢献を自ら選択せざるを得ない環境を創り出します。
1. ドラッカーのMBOと「自律性」:内発的動機を引き出す目標設定
(ピーター・ドラッカーが提唱した目標管理(MBO)が、単なる管理手法ではなく、知識労働者の自律と責任を促すための哲学であったことを解説します。この自律的な姿勢が、品性ある行動の基盤となることを強調し、内発的動機づけの理論を加えて深掘りします。)
ドラッカーが提唱した目標管理(MBO:Management by Objectives and Self-Control)の核心は、「上司の指示」ではなく「自己統制と責任」のツールとして目標を活用することにありました。ドラッカーは、「知識労働者には、上から命じるのではなく、目標による管理こそが、自己統制という最高の動機づけを与える」と喝破しました。これは、まさに品性ある自律的な貢献を組織に定着させるための思想です。
1.1. 知識労働者の内発的動機を引き出す目標設定
知識労働者にとって、最も重要なストローク(承認)は「自分の仕事が組織の目標達成にいかに貢献しているかを知ること」です。心理学における自己決定理論(Deci & Ryan)が示す通り、人間は「自律性」「有能感」「関係性」が満たされたときに、最も強い内発的動機を発揮します。
- 目標設定における自律性の担保: 目標設定が支配的な親(CP)からの「ノルマ」として一方的に与えられると、メンバーは自律性を奪われ、モチベーションは外発的動機(罰を避ける、報酬を得る)に限定されます。品性ある目標設定は、必ずメンバー自身が、Adult(成人)として理性的に「私はこの目標を通じて、組織のこの部分に貢献します」と宣言するプロセスを含まなければなりません。
- 品性への影響: メンバーは自分の行動が組織全体の利他性にどう繋がるかを理性的に理解するため、手段が目的化したり、近視眼的な不正に走ったりする非品性的な行動を抑制できるのです。
品性ある目標設定は、組織の倫理的基盤と個人の自律性を同時に高めるための最初の一歩だと言えるでしょう。
1.2. 目標設定におけるAdultの強制稼働:「事実」と「影響」
目標は、感情的な熱意や精神論ではなく、Adultの論理に基づいて設定されなければなりません。曖昧な目標は、後でラケット感情やゲームの温床になるからです。例えば、「顧客満足度を最高にする」といった目標は、測定基準が曖昧なため、「頑張っています」という感情的なラケット感情の言い訳の余地を生みます。
- SMART原則を超えて: 目標の達成度合いがAdultの事実情報(例:KPI、数値、具体的な行動量)で明確に測定できるとき、「成果が出ていないのに、忙しいふりをする」といったラケット感情に基づく自己欺瞞が組織内で通用しなくなります。
- 「影響」の明確化: 目標達成が、組織の最終的な使命と社会への貢献(利他性)に、具体的にどのような影響を与えるかを、Adultの言語で表現することを義務づける必要があります。これにより、メンバーは自分の仕事の意義を理性的に理解し、品性あるコミットメントを強めます。
2. 品性を育む「継続的なフィードバックシステム」の設計
(目標達成のプロセスを支え、メンバーの行動を自律的に修正・強化するためのフィードバックの重要性を論じます。特に、感情論を排し、理性的承認に基づくフィードバックの高頻度化が、いかに組織の品性を高めるかを解説し、フィードバックの技術論を深掘りします。)
目標が設定された後、その達成プロセスを支援し、メンバーの自律的な行動を修正・強化するのがフィードバックシステムです。フィードバックは、単なる評価ではなく、未来の貢献を設計し、個人の成長を支援するための重要な交流の機会だと捉えましょう。「フィードバックは知識労働者の報酬である」というドラッカーの言葉を体現する仕組みが必要です。
2.1. 支配的な批判を防ぐ高頻度な理性的承認
従来の年1回の評価面談は、しばしば支配的な親(CP)と適応的な子ども(AC)の不健全な交流になりがちでした。これでは、連載第5回で論じた理性的承認が機能せず、メンバーの自律性と品性ある学習意欲が損なわれます。
- フィードバックの頻度と目的: 1on1ミーティングを最低2週間に一度義務化し、Adultの冷静な状態で継続的に交流する。この高頻度な交流が、連載第7回で解説した切手収集(不満の蓄積)を防ぎます。切手が溜まる前に、Adultの理性で課題を処理する習慣を定着させるのです。
- フィードバックの型:SBIモデルの活用: 感情論を排し、フィードバックを以下の要素で構成することを徹底します。
- S (Situation / 状況): 「先週の火曜日の会議で、あなたが…」
- B (Behavior / 行動): 「…〇〇という発言をした(Adultの事実)」
- I (Impact / 影響): 「…その結果、チームの議論が△△(目標達成)から逸れた影響があった」
この「状況と行動と影響」というAdultの言語の徹底が、不健全な感情の爆発による品性の崩壊を防ぎます。
2.2. 「Adultの質問技術」で自律性を引き出す
フィードバックの受け手の自律性を最大限に引き出し、ラケット感情から真の感情(問題解決)へと意識を導くためには、リーダーの質問技術が鍵となります。リーダーは一方的に教えるのではなく、質問を通じてメンバー自身に解決策を見つけさせます。
- 具体的で挑戦的な問いかけ: 失敗や課題に対して、リーダーは「もしもう一度あの状況に戻れるとしたら、あなたはAdultとして、どのような代替行動(Rational Alternative)を選択しますか?」と質問し、メンバー自身の自律的な解決策を引き出すことに注力します。
- 目的: この質問は、「上司の評価を聞く時間」から「自律的な問題解決能力を高める訓練の時間」へとミーティングを転換させ、メンバーの品性ある貢献の姿勢を強力に強化します。

3. 「ラケット感情」を建設的なエネルギーに変える方法論
(この章では、連載第7回で扱ったラケット感情に対し、目標設定とフィードバックのプロセスをどのように活用して対処するか、実務的な方法論を深掘りします。感情的なサインを、Adultが取り組むべきタスクに変換する具体的な技術を提示します。)
目標設定とフィードバックの仕組みは、単に成果を追うだけでなく、メンバーのラケット感情という不健全なエネルギーを、建設的な Adult の活動へと転換させるための治療的な機能も持ちます。品性あるリーダーは、メンバーの不満や疲労感の裏に隠された「真の課題」を理性的に見抜く力が必要です。
3.1. 「忙しい」というサインをAdultタスクに変換する
多くの組織で聞かれる「忙しい」「疲れた」という言葉は、しばしば「承認を求めるラケット感情」のサインです。リーダーは、これを感情的に受け取らず、Adultの言語で返すことを徹底します。
- リーダーのAdult対応: メンバーが「忙しすぎてプロジェクトが終わりません」と言った場合、「『忙しい』というのは、どのタスクに現在40時間以上を要し、それが納期に何日間の遅延をもたらしているという事実ですか?」と問います。
- 目的: 感情的な言葉を、時間管理やリソース配分といった具体的なAdultのタスクへと強制的に翻訳することで、「忙しいふり」によるストローク(同情)の獲得を防ぎ、真の課題解決にエネルギーを向けさせます。
3.2. 「禁止令」を「自律的な目標」に書き換える
メンバーの非品性的な行動(例:完璧主義、過剰な残業)は、しばしば幼少期に受けた「禁止令」(例:「完璧であれ」「人より努力せよ」)に支配されています。リーダーは、フィードバックの場で、その禁止令の非合理性をAdultの理性で示し、自律的な目標に書き換えることを促します。
- リーダーの誘導(Adult): 「あなたが完璧な資料を作成するために費やした追加の20時間は、その資料がもたらした成果の増加と釣り合っていますか?合理的なAdultの計算で、その費用対効果を検証しましょう。」
- 自律性の再構築: メンバーに、感情(Child)ではなく理性(Adult)に基づいて、「このタスクは80%の完成度で十分である」という自律的な目標を再設定させます。これにより、禁止令に支配された行動から解放され、品性ある貢献へとエネルギーを向けられるようになります。
4. まとめ:品性ある貢献のための「仕組み」の役割
(最終的なまとめです。これまでの議論を整理し、知識労働者の品性と成長を促すための制度的な設計の重要性を再強調し、ポジティブなメッセージで締めくくります。)
本日は、不健全な交流のエネルギーを、品性ある貢献へと転換させるための目標設定とフィードバックの具体的な仕組みを解説しました。
- 目標設定は、自律性を確保するためのAdultのツールとして設計され、SMART原則を超え、「影響」の明確化を義務づけるべきです。
- 継続的なフィードバックシステムは、高頻度かつ理性的に行われ、SBIモデルとAdultの質問技術を活用し、切手収集による品性の崩壊を防ぎます。
- ラケット感情は、「忙しい」といった感情的な言葉をAdultタスクに翻訳することで、問題解決の信号へと昇華させることが可能です。
この目標設定とフィードバックの仕組みこそが、品性ある行動を個人の善意に依存させず、組織の仕組みとして組み込むための核心的な柱となります。あなたの組織を、感情に左右されない理性的で品性ある貢献の集合体に進化させましょう!
お読みいただきありがとうございました。皆さんのキャリアと組織の成長にお役に立てれば幸いです。








