挫折を乗り越え、自己肯定感を再構築するリーダーの役割
挫折を乗り越え、自己肯定感を再構築するリーダーの役割:TAの「人生脚本」とドラッカーの「強み」
こんにちは、坂本です。皆さんのキャリアと組織の成長を応援しています。
連載を通して、私たちはストローク、自我状態、そしてゲーム分析といったTAの主要な理論を学びました。これら全ての行動パターンの根底にあるのが、今日のテーマである「人生脚本(Life Script)」です。
人生脚本とは、幼少期に親や周囲との関わりの中で形成され、「自分はこういう人間だ」「人生はこういうものだ」という無意識の行動計画です。この脚本には、しばしば「禁止令」という形で、「成功してはいけない」「考えるな」「感情を感じるな」といったネガティブなメッセージが組み込まれています。
リーダーは、部下がこの脚本によって無意識にブレーキをかけている瞬間を見抜き、「許可(Permission)」という最強のストロークを与える必要があります。これは、ドラッカーが繰り返し説いた「人の強みに焦点を当て、弱みに目をつぶる」というマネジメント哲学の実践そのものです。本日は、部下の「隠れた可能性」を解放するための、リーダーの深い役割を学んでいきましょう。
リーダーシップの盲点:「人生脚本」と「禁止令」の影
部下が、能力や意欲があるにもかかわらず、ある一定のラインを超えられない、あるいは必ず同じパターンで失敗を繰り返す場合、それは「人生脚本」の作用かもしれません。
人生脚本とは何か?キャリアを制限する無意識のプログラム
人生脚本は、TAにおいて「ある人が、幼少期に下した、人生の重要な出来事についての無意識の決断」と定義されます。これは、大人になってからのキャリアの選択、人間関係、そして成功や失敗のパターンを、まるで脚本の通りに演じさせてしまいます。
組織でよく見られる人生脚本のパターン
- 「成功するな」脚本: 昇進や大きな成果を目前にすると、無意識にミスを犯したり、体調を崩したりして、成功を回避してしまう。
- 「重要な人物になるな」脚本: チーム内で最も優秀な才能を持ちながら、決してリーダーや目立つポジションに立とうとしない。
- 「楽しむな」脚本: 常に仕事に追われ、休息やプライベートを犠牲にし、過度な努力を続ける。
これらの脚本の根底には、親(または影響力のあった大人)から受け取った「禁止令」が存在しています。
禁止令:「〇〇してはいけない」という心の鎖
禁止令とは、親の不安や価値観から、無意識のうちに子どもに与えられた「〇〇してはいけない」という強力なネガティブメッセージです。
職場の非生産性に繋がる代表的な禁止令
- 「成功するな」: 成功すると、妬まれたり、責任が増えたりして、危険だという親の不安が背景にある。
- 「考えるな」: 疑問を持つこと、反論することが無駄だ、あるいは許されないという親のメッセージが背景にある。
- 「親密になるな」: チームで深く協力したり、感情を分かち合ったりすることを回避する。
リーダーは、部下がこれらの禁止令によってブレーキを踏んでいることに気づき、その禁止令を打ち破る「許可」を与える役割があります。

「強み」への焦点が人生脚本を書き換える
ドラッカーは、マネジメントの基本姿勢として「人の強みに焦点を当て、弱みには目をつぶれ」と説きました。この哲学は、TAの「禁止令を許可で書き換える」というプロセスと完全に一致します。
ドラッカーの「強み」論と「存在の承認」のリンク
部下が持っている強みとは、その部下が最も主体的に貢献でき、承認を得やすい分野です。リーダーがこの強みに焦点を当て、条件付き肯定的ストロークを与え続けることは、以下の効果を生みます。
強みへの焦点がもたらす効果
- 成功体験の蓄積: 強みを通じて成果を出すことで、「自分は価値がある」という自己肯定感が強化される。
- 禁止令の無効化: 成功体験が積み重なることで、「成功するな」といった禁止令が、現実のデータ(Adult)によって無効化される。
- 役割の拡張: 強みを生かして挑戦の機会を得ることで、人生脚本の「脇役」から「主人公」へと役割を書き換え始める。
リーダーは、部下の弱みを指導する時間よりも、強みを拡大する機会を与える時間を倍増させるべきです。これが、ドラッカーの教えであり、TAの成長戦略でもあります。
リーダーからの「許可(Permission)」:脚本を打ち破る最強のストローク
「許可」とは、部下が無意識に課している禁止令を、リーダーが無条件の肯定的ストロークをベースに解除してあげる行為です。
禁止令とリーダーからの許可の具体例
- 禁止令: 「成功するな」
- 許可: 「君は素晴らしい才能を持っている。遠慮せずに、もっと目立ってくれていい。」
- 禁止令: 「考えるな」
- 許可: 「この問題について、君の率直な意見が聞きたい。間違っていても構わない。」
- 禁止令: 「親密になるな」
- 許可: 「仕事のことから離れて、プライベートな感情を信頼できる仲間と共有していいんだよ。」
許可を与えることで、部下は「自分の人生は、自分で書き換えても良い」というメッセージを受け取ります。
実践:挫折と失敗を「再決断」の機会に変える
部下が人生脚本を書き換える(TAでは「再決断」と呼びます)最も大きな機会は、挫折や大きな失敗に直面した時です。リーダーは、この瞬間を転機として活用する役割を担います。
挫折時の「自己否定」をアダルトで分析する
部下が失敗した時、人生脚本が強化されている場合、「やはり自分はダメだ」という自己否定(再強化された禁止令)に陥ります。
再決断を促すための対話の技術
- 無条件の承認で包む: まずは「今回の失敗は残念だったが、あなたの存在は揺るがない」という無条件の肯定的ストロークを与える。
- 感情の受容: 部下の失望や怒りといったフューリング(Child 自我状態の感情)を、養育的な親(NP)の姿勢で受け止め、傾聴する。
- 禁止令の特定: 「この失敗によって、あなたは何を感じ、何を決断しようとしているか?」と問いかけ、背後にある禁止令や脚本のパターンを特定する。
- 強みで再定義: 「今回の失敗は、強みである〇〇を過剰に使った(使い方を間違えた)結果だ」と、強みを軸に失敗を再定義する。
ドラッカーの「知識労働者への敬意」と許可
ドラッカーは、知識労働者に対して「彼らが知識という武器を持っている限り、彼らを対等に扱い、敬意を払わなければならない」と強調しました。
この「敬意」とは、「あなたの思考と判断を信頼している」という許可に他なりません。リーダーが、部下の知識と判断を尊重し、弱みではなく強みに焦点を当てて挑戦の機会を与え続けることが、部下の人生脚本を「主人公」のものへと書き換える、最高のマネジメントなのです。
まとめ:リーダーシップとは「人生脚本の編集者」
リーダーシップとは、部下の弱点を直すことではなく、彼らが無意識に抱える「禁止令」という心の鎖を外し、強みを最大限に発揮できるように「許可」を与え続けることです。
ドラッカーの教えに従い、部下の強みを信じ、彼らが挫折した瞬間にこそ無条件の承認を与え、人生脚本の再決断を促す。この役割こそが、現代の知識社会における最高のリーダーの姿です。








