善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

人間関係を育てる力|TAで学ぶ対人理解と関係構築スキル入門:第4回

はじめに|感情がうまく扱えないとき、何が起きているのか?

仕事中にイライラしてしまう。言いたくないのについキツい言葉で返してしまう。上司や同僚の一言に落ち込み、その日ずっと引きずってしまう。こうした経験は、誰にでもあるものです。

社会人として成長していく中で、「感情をコントロールすること」は大切だとわかっていても、感情は“理屈”では動いてくれません。だからこそ、感情とうまく付き合い、「感情に振り回されない自分」を育てていくことが重要です。

本記事では、交流分析(TA)心理学の視点から、感情の仕組みと向き合い方、ビジネスシーンで使える“感情整理スキル”について解説します。

第1章|感情は“扱う”ものであり、“押さえ込む”ものではない

私たちが抱える感情には、「怒り」「不安」「悲しみ」「喜び」「安心」など、さまざまなものがあります。特に職場では、ネガティブな感情を「見せないこと」「感じないようにすること」が“社会人らしさ”として求められがちです。

しかし、感情は抑え込むことで消えるものではありません。むしろ、無視された感情は心の奥にたまり、やがて別の形で噴き出したり、対人関係にひずみを生んだりします。

TA心理学では、「感情=内側からのエネルギー」と捉えます。このエネルギーは、無視したり抑圧したりするのではなく、言葉にして整理し、健全に表現することで人間関係を豊かにしていく力になります。

第2章|TA心理学で感情をとらえる2つの視点

TAには、感情を理解し整理するための明確なフレームがあります。その中でも有効なのが次の2つです。

① 「自我状態(Ego State)」による感情のとらえ方

自分の中には、3つの異なる“心のモード”があると考えられます。

• P(Parent:親)モード:しつけ・教え・ルール。叱責や批判の感情が強い

• A(Adult:大人)モード:冷静・論理的。感情を抑えて判断しようとする

• C(Child:子ども)モード:自由さ・喜び・不安・甘え。感情が豊かに出る領域

感情が大きく揺れるとき、私たちは無意識にこのどれかのモードに偏ってしまいがちです。たとえば、怒りに支配されているときは「P」が強く、過剰に怯えているときは「C」が優位に働いているかもしれません。

「今、どの自我状態で反応しているか?」を意識することで、感情を客観視できるようになります。

② 「ラケット感情」と“本当の感情”を見分ける

TAでは、子どもの頃から身につけた「ラケット感情」という概念があります。これは、本当の気持ちを別の感情に置き換えて表現する習慣のことです。

例えば:

• 本当は悲しい → でも「怒り」として表現する

• 本当は寂しい → でも「ふてくされる」ことで表現する

このように、感情の表現には“クセ”があり、それが職場でのすれ違いやコミュニケーション不全につながることもあります。

感情を正しく理解する第一歩は、「今感じている感情は本当に自分の内側から出てきたものか?」と問い直すことです。 

第3章|感情に流されないための3つの実践ステップ

ここでは、日々の仕事の中で使える「感情と向き合うためのTAスキル」を3つ紹介します。

ステップ1|感じたことを否定せず「言葉にする」

まず大事なのは、「そんなふうに思ってはいけない」と感情を押さえつけず、一旦、言語化してみることです。

「いま、自分は◯◯と感じているな」

「この一言で、自分の中に△△が湧いたな」

と、あくまで“自分の中に起きていること”として記録・認識することで、感情に振り回されるリスクは大きく下がります。

ステップ2|感情を“そのまま”伝えず、Iメッセージに変える

感情を相手に伝えるとき、「お前が悪い」「そんな態度はないだろ」というYouメッセージでは、関係はこじれてしまいます。

代わりに、Iメッセージ(私は~と感じた)で伝える練習をしましょう。

「あの場面で、私はちょっと驚いてしまいました」

「あの言葉に対して、不安を感じました」

Iメッセージは、自分の気持ちを相手に押し付けずに共有する方法です。これは、対話の質を変え、信頼を育てる土台になります。

ステップ3|“あとで冷静に振り返る習慣”をつくる

感情的なやり取りをしたあと、放置してしまうと、同じパターンを繰り返しがちです。TAでは「ふりかえりの習慣」が重視されます。

1日の終わりに、

• 今日、自分の感情が揺れた場面は?

• どの自我状態で反応した?

• その時、自分は何を守ろうとしていた?

と自分に問い直してみてください。感情は“厄介なもの”ではなく、自分の価値観や境界線を教えてくれるサインなのです。

第4章|感情に敏感な人ほど、人間関係が豊かになる【拡張版】

「職場で感情を表に出すと、面倒な人だと思われるのではないか」

「感情的にならないように、冷静でいることが“正解”だ」

こうした価値観は、日本社会では特に根強く、感情を抑えることが“大人のマナー”とされがちです。しかし、TA心理学の視点では、これは大きな誤解です。

実は、感情に敏感な人ほど、人との関係を深める力を持っているのです。

◎感情は「共感」を生み出す回路

私たちは、他人と深くつながるとき、「理屈」だけで動くわけではありません。たとえば、

• 落ち込んでいる同僚に、そっと声をかけたくなったり

• 怒っている相手に、自分の非を素直に認めたくなったり

• 嬉しそうな笑顔につられて、自分まで明るくなったり

こうした瞬間に働いているのが、“感情をキャッチするセンサー”=共感力です。

これは、論理的な理解とは異なり、相手の感情を感じ取る力に他なりません。

つまり、感情に敏感であることは、人との“間”を繊細に読み、関係を温めるための大切なスキルなのです。

◎感情の「ラベル」を増やすと、表現が豊かになる

TAスキルのひとつに、「感情のラベリング」というアプローチがあります。

これは、自分の感情に対して、より細かく・具体的な言葉で名前をつけることを意味します。

たとえば、「なんかモヤモヤする…」という漠然とした感情を、

• 「期待していたのに、裏切られたように感じた」

• 「分かってもらえない“さみしさ”がある」

• 「不安というより、“無力感”に近い気持ちだった」

と表現できるようになると、自分の感情に向き合う解像度が上がり、相手にもより丁寧に伝えられるようになります。

これはまさに、“感情に強い人”の持つ力です。

◎感情を素直に伝えることは、信頼の一歩になる

感情を上手に伝えられる人は、決して「感情的な人」ではありません。

むしろ、冷静さを保ちながら、正直な気持ちを言葉にする技術を持っている人です。

たとえば、ある新入社員が、業務中のあるミスについて、上司にこう伝えたとします。

「あのとき、本当は“怖い”というより“自分が否定されたようで、悲しかった”です。

でも、今は冷静に見直せば、自分にも改善できる点があったと思います。」

このように、“感情”を通して、自己理解と自己責任の姿勢を示すことができる人は、信頼されやすくなります。

感情は、関係性の妨げではなく、「信頼を橋渡しするツール」になり得るのです。

◎感情に繊細だからこそ、強くなれる

感情に振り回されるのはつらいことかもしれません。

でも、感情に繊細であるということは、“人との関係を丁寧に見つめることができる力”の表れでもあります。

• 小さな違和感に気づく力

• 相手の表情の変化を察知できる力

• 自分の内側の微細な揺れに言葉を与える力

こうした感性は、チームを支える潤滑油となり、マネジメントやリーダーシップの場でも大きな価値を持つようになります。

「感情を味方にできる人」は、これからの時代の強さを持った人です。

おわりに|「感情」は人間関係を育てる“栄養素”

感情は、仕事をするうえでの“障害”ではありません。

むしろ、感情は人と人をつなぎ、理解し合うための栄養素です。

だからこそ、「感情を殺す」のではなく、「感情と向き合う」ことを選びましょう。

TAスキルは、私たちに“感情を扱う力”を与えてくれます。今日から少しずつ、「自分の気持ちを丁寧に見る習慣」を始めてみませんか?

それは、きっとあなた自身の成長にも、人間関係の変化にもつながっていくはずです。

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