善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

ゴールデンウィークが明けるこの時期、多くの職場で聞こえてくるのが「なんとなく元気がない若手が増えてきた」「雰囲気が重い気がする」といった声です。

新入社員や若手社員にとって、春の高揚感が一段落したこの5月は、モチベーションの低下やメンタル面の不調が顕在化しやすい時期でもあります。

一方で、これらの不調は大きな声や態度に現れず、静かに進行することが多くあります。

そこで今回は、キャリアコンサルタント・組織開発コンサルタントとしての現場経験をもとに、

• なぜ5月に不調が起きやすいのか

• 若手の「見えない変化」にどう気づくか

• そしてそれに対し、組織としてどう備えるべきか

について解説していきます。

1章:5月病の背景にある“ギャップの累積疲労”

「5月病」と言うと、何となく気分が落ちる、やる気が出ないという印象がありますが、その背景にはいくつもの心理的要因が重なっています。

① 現実とのギャップ

入社や異動に際し、最初は希望や期待に満ちていた若手社員も、業務が本格化する中で「思っていたのと違う」「自分には向いていないかも」と感じるようになります。

この“理想と現実のギャップ”が、自己効力感を低下させる要因になります。

② 疲れの蓄積

4月は緊張の連続です。新しい人間関係、研修、覚えることの多さ……。

ゴールデンウィークで一度緩んだ心身が、再び日常に戻る中で反応し、「もう無理かも」と感じやすい時期となります。

③ 承認不足と孤独感

「大丈夫?」「困ってることない?」と声をかけられるのは最初のうちだけ。

慣れてきたと思われる頃には周囲の配慮が減り、孤独感や“放っておかれている感”が強まることもあります。

2章:若手の「静かな異変」にはどんな兆候があるか

5月病は、必ずしも目に見えて表れるとは限りません。

むしろ“静かに、でも確実に”進行していくケースがほとんどです。

以下のようなサインに、組織として敏感になることが求められます。

• 表情が乏しくなった

• 昼休みにひとりで過ごすことが増えた

• メモや発言が減った

• 遅刻や欠勤はないが、反応が鈍い

• 「大丈夫です」としか言わなくなった

• 成果が安定していたのに、最近停滞している

これらの変化は、本人も無自覚であることが多く、「何となく違和感がある」が第一のシグナルです。

マネジャーの直感や感度も重要ですが、それ以上に組織として「見える化」「声かけ」の仕組みを整えておくことが予防の第一歩です。

3章:「気づける組織」には仕掛けがある

「マネジャーの気づき」に依存した体制は限界があります。

特にプレイングマネジャーが多忙な現場では、若手の変化を見逃すことも少なくありません。

ではどうするか?

気づきが“属人的”にならないように、組織として仕掛けを整えることが重要です。

① 定期的な振り返りの場を設ける

週1回の「ゆるめのチームMTG」や「雑談1on1」など、自然な対話の中で変化を拾える接点を設けましょう。

② 観察者の分散

マネジャーだけでなく、OJT担当者、年次の近い先輩、人事部など複数の視点からの「見守り体制」を意識的に整えることが大切です。

③ 小さな声も拾う文化

「こんなこと言っていいのかな……」というつぶやきを受け止められる土壌があるかどうか。

心理的安全性が高いチームは、小さな声をスルーせず、きちんと“育てて”いく習慣があります。

4章:大切なのは「構えず、日常に溶け込ませる」こと

「五月病対策」と聞くと、何か特別な制度や施策を導入しなければと考えてしまうかもしれません。

でも実際は、特別なことをするよりも、“日常の中に気遣いを埋め込むこと”の方がはるかに効果的です。

• 朝の「おはよう」の目線や声のトーン

• 「最近どう?」のひと言

• ランチに声をかける習慣

• 雑談の中での共感の相槌

こうした“ふつうの関わり”の質を高めていくことが、実は最も確かな予防策なのです。

まとめ:若手の「沈黙」を組織で支える感度を持とう

若手社員が言葉にできない不安や疲労を抱えている時期。

それが、この5月です。

本人の努力に任せず、マネジャーひとりに押しつけず、

「みんなで見守る」「日常の中で支える」文化を根づかせることが何よりも重要です。

そして、不調のサインはいつも“沈黙”の中にあります。

その沈黙に耳を澄ませる、そんな感度のある組織が、善く働くチームへの第一歩を踏み出せるのです。

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五月病のようなメンタルの沈み込みを防ぐために、組織として備えるべき感度・行動・仕組みについて、

非常に示唆に富んだ一冊です。

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