善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

6日間で養う「気づく力」~自分らしく善く働くための自己発見の旅~

第1回:自己の感情・思考に気づく~心の声に耳を傾ける練習~

皆さん、こんにちは。坂本です。

いよいよ今日から、新しい連載がスタートします。先週の連載では、「事実は一つ、解釈は無限」という視点から、私たちの思考や行動がどのように形成され、変容していくかについて皆さんと一緒に探求してきました。そこで私が強く感じたのは、どんなに素晴らしい知識やスキルを学んでも、その土台となる「気づく力」がなければ、本当の意味での変容は難しい、ということです。

「気づく力」とは、文字通り、自分自身の内側で何が起きているのか、周囲の環境で何が起きているのか、そしてそれらが自分にどう影響しているのかを敏感に察知する能力のことです。特に、キャリアを積む中で、自分の感情や思考のパターンに無自覚になり、同じようなモヤモヤや悩みを抱え続けている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私自身、長年リーダーシップ研修講師やコーチとして多くのビジネスパーソンと向き合う中で、この「気づく力」の重要性を痛感してきました。特に、リーダーシップを発揮するためには、まず自分自身の感情や思考を客観的に認識し、マネジメントする「セルフマネジメント」の力が不可欠だからです。そして、その土台を築く上で、心理学、中でも交流分析(TA)の知識は非常に役立ちました。

この連載では、私が皆さんと一緒に、この「気づく力」を6日間で段階的に養っていく旅に出たいと思います。第1回となる今日は、最も基本的な「自己の感情・思考に気づく」ことに焦点を当てます。心のモヤモヤや漠然とした不安を解消し、自己理解を深める第一歩として、心の声に耳を傾ける練習を始めましょう。

1. あなたを動かす「感情」の正体~なぜ、それに気づく必要があるのか?~

私たちは毎日、喜び、怒り、悲しみ、不安、イライラ、焦りなど、様々な感情を体験しています。これらの感情は、一見すると私たちの行動を妨げる厄介なものに思えるかもしれません。しかし、心理学的には、感情は私たちに重要な情報を伝え、行動を促すためのシグナルであると捉えられます。

  • 不安は、未来への不確かさや準備不足を教えてくれる。
  • 怒りは、自分の価値観が侵害されたり、不公平だと感じたりしていることを示す。
  • イライラは、現状への不満や、物事が思い通りに進まないことへの苛立ちを伝える。

これらの感情に「気づかない」ふりをしたり、無理に抑えつけたりするとどうなるでしょうか?感情は姿を変え、漠然とした不調やストレス、あるいは突然の爆発として現れることがあります。そして、そうした無自覚な感情は、私たちの思考や行動パターンにネガティブな影響を与え、判断を鈍らせ、人間関係を悪化させる可能性すらあります。

1.1. 「感情に気づく」ことで得られるベネフィット

自分の感情に意識的に気づくことは、単に「感情的になる」こととは異なります。これは、自分自身の心の状態を客観的に認識し、適切に対処するための第一歩です。感情に気づくことで、以下のような具体的なベネフィットが得られます。

  • ストレス軽減: 感情の正体がわかることで、漠然とした不安やイライラが減り、心が整理されます。
  • 冷静な判断力: 感情に振り回されることなく、状況を客観的に評価し、合理的な判断を下せるようになります。
  • 行動の選択肢増加: 感情の背後にあるニーズに気づくことで、衝動的な反応ではなく、より建設的な行動を選べるようになります。
  • 自己肯定感向上: 感情を「悪いもの」と決めつけず、受け入れることで、自分自身への理解と受容が深まります。

私が提供しているリーダーシップ研修やコーチングでも、この「感情への気づき」はセルフマネジメントの土台として非常に重要だとお伝えしています。自身の感情を認識し、適切に扱う力は、リーダーとして周囲を導く上でも欠かせないスキルだからです。

2. 思考のパターンに気づく~あなたの「心のOS」を点検する~

感情と同じくらい重要なのが、私たちの「思考のパターン」に気づくことです。私たちは、日々多くのことを考え、決断していますが、その思考の多くは無意識のうちに、特定のパターン(いわば「心のOS」)に沿って行われています。

例えば、「完璧主義の思考」「他人の評価ばかり気にする思考」「常に最悪の事態を想定する思考」など、人それぞれに独自の思考パターンがあります。これらの思考パターンが、私たちの現実の捉え方や、感情の動きに深く影響を与えているのです。

先週の連載でも「認知の歪み」として触れましたが、特にネガティブな思考パターンは、私たちの行動を制限し、ストレスを増大させる原因となります。

2.1. 思考に「名前を付ける」練習

自分の思考パターンに気づくための簡単な方法は、心の中で起きている思考に「名前を付ける」ことです。

  • 「今、私はネガティブな予測をしているな。」
  • 「これは自分を責める思考だ。」
  • 「私は完璧でなければならないと考えているな。」
  • 「これは他人の目を気にしている思考だな。」

このように言語化することで、思考と自分自身を切り離し、客観的に観察できるようになります。思考は、あなた自身ではありません。思考は、あなたの脳が作り出した「情報」であり、それに気づくことで、その情報にどう対処するかを「選択」できるようになるのです。

3. 今日からできる!あなたの「感情・思考」に気づくワーク

それでは、今日の学びを実践に移すための簡単なワークを試してみましょう。これは、皆さんが自身の感情や思考のパターンに意識的に気づくための具体的な訓練となります。

ワーク:あなたの「心の天気」と「思考の雲」を観察する

このワークは、一日の特定の時間や、何か感情が動いた瞬間に、自分の内側に意識を向け、観察する練習です。

  1. STEP 1】「今、どんな感情がここにあるだろう?」と自問する。
    • 漠然とした感情でも構いません。イライラ、不安、焦り、喜び、悲しみ、穏やかさ…何でもOKです。
    • その感情が体のどこに感じられるか(例:胃が重い、肩が凝る、胸がざわざわする)にも意識を向けてみましょう。
    • 心の中で、その感情に「名前」を付けてみましょう。(例:「ああ、今、私は『漠然とした不安』を感じているな」)
  2. 【STEP 2】その感情の背景にある「思考」に意識を向ける。
    • 「私は今、何を考えているだろう?」と自分に問いかけます。
    • (例:
      • 「この仕事、本当に間に合うのかな…(不安)→『失敗したらどうしよう』と考えているな」
      • 「あの人のあの言葉、許せない…(怒り)→『自分は不当に扱われた』と考えているな」
      • 「もっと頑張らなきゃ…(焦り)→『完璧でなければ価値がない』と考えているな」)
    • 心の中で、その思考にも「名前」を付けてみましょう。(例:「これは『最悪の事態予測』の思考だな」)
  3. 【STEP 3】観察した感情と思考を、評価せずに「ただ記録する」。
    • ノートやスマートフォンのメモ機能を使って、気づいたこと(感情とその背景にある思考、体感など)を簡潔に書き留めてみましょう。
    • (例:
      • 「10:00:プレゼン資料作成中。焦り(胸が締め付けられる)。『もっと早く終わらせないと評価が下がる』という思考。」
      • 「15:30:同僚との会話後。少し不満(喉の奥に違和感)。『なぜ私ばかりが…』という被害者意識の思考。」
      • 「19:00:今日の達成リストを見て。達成感(体が軽い)。『よくやったな』という肯定的な思考。」)

このワークを、1日に数回、数分間で構いませんので、意識的に試してみてください。最初は難しいかもしれませんが、続けるうちに、自分の内側で何が起きているのかを客観的に捉える「気づく力」が確実に養われていくはずです。この力が、皆さんの心の安定と、より良い行動選択の土台となるでしょう。

おわりに:心の声は、あなたへのメッセージ

今日の記事では、自分自身の感情や思考に「気づく」ことの重要性とその実践方法についてお伝えしました。私たちが日々体験する感情や思考は、決して「敵」ではありません。むしろ、私たち自身の状態やニーズ、そして私たちがどうすればより良く生きられるかを示す、あなた自身からの大切なメッセージなのです。

この「気づく力」を養うことは、私がお伝えしているリーダーシップやセルフマネジメントの根幹でもあります。自分自身の内面を理解することで、外的状況に振り回されず、主体的に行動を選択し、周囲をポジティブに巻き込んでいく力が育つのです。

さあ、今日から、あなたの「心の声」に耳を傾けてみませんか?その小さな気づきの積み重ねが、皆さんのキャリアと人生を、より豊かで意味のあるものへと変えていく第一歩となることを、私は確信しています。

明日は、「自分の価値観・強みに気づく~人生の羅針盤を見つける~」と題して、自己理解をさらに深掘りし、皆さんの行動の原動力となる「価値観」と「強み」に焦点を当てていきます。どうぞお楽しみに!

私は、皆さんが自分らしく善く働くための「気づく力」を養えるよう、全力で応援いたします。

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