自分を導く技術:セルフ・リーダーシップで2026年を拓く
【連載第3日】自分を律することから始まる:基礎としての「セルフ・リーダーシップ」
2025年も残すところ数時間となりました。除夜の鐘を待つこの静かなひととき、皆様はどのような想いで一年を振り返っていらっしゃるでしょうか。昨日までは、チーム全体の「共有」や「信頼」についてお話ししてきましたが、本日は視点をぐっと内側、つまり「自分自身」に向けてみたいと思います。
「全員がリーダー」であるシェアド・リーダーシップを支えるのは、他ならぬ一人ひとりの自律心です。ピーター・ドラッカーは「自らをマネジメントできない者は、他者をマネジメントすることはできない」と断言しました。誰かに言われて動くのではなく、自らの価値観に従って自分を導く。この「セルフ・リーダーシップ」こそが、プロフェッショナルとしての土台であり、変化の激しい時代を生き抜くための最強の武器となります。一年の締めくくりに、自分という名のリーダーシップをアップデートしていきましょう。
ドラッカーが説いた「セルフマネジメント」:自らを成果をあげる存在にする
ドラッカーは、知識労働者にとっての最大の責任は、自らをマネジメントすることであると説きました。会社や上司があなたのキャリアを保障してくれる時代は終わりました。自分自身を「一つの組織」と見なし、いかに成果を最大化させるか。そのための知恵を紐解きます。
知識労働者にとっての「第一の義務」は自らを導くこと
ドラッカーの思想の核心には、「人間は自らの成長に責任を持たなければならない」という強い信念があります。肉体労働の時代とは異なり、知識労働においては、仕事の質や成果を左右するのは本人の意欲と判断です。組織に依存するのではなく、自分がどのような貢献をなし得るのかを自問自答し、自らを律していくこと。これがドラッカーの言う「第一の義務」です。この義務を果たすことが、結果として組織への貢献に繋がり、自分自身の市場価値を高めることにも直結します。セルフ・リーダーシップは、単なる精神論ではなく、知識社会を生きるための「実学」なのです。
自らの「強み(ストレングス)」を正確に把握し、一点突破する
「何事かを成し遂げるのは、常に強みによってである」とドラッカーは言いました。自分の弱みを並程度にするためにエネルギーを使うのではなく、卓越した強みをさらに磨き上げることに集中すべきです。セルフ・リーダーシップの第一歩は、自分が何を得意とし、どのような方法で成果をあげる人間なのかを知ることです。多くの人は自分の強みを「知っているつもり」でいますが、客観的に把握できている人は稀です。過去の成功体験を振り返り、共通する勝ちパターンを見つけ出すこと。自分の強みを「組織というレバレッジ」にかけて最大化させる意識を持つことが、自律的なキャリア形成の鍵となります。
価値観(バリュー)という名の「内なる羅針盤」を再定義する
どんなに能力が高くても、その仕事が自分の価値観に反していれば、真の成果はあがりません。ドラッカーはこれを「鏡のテスト」と呼びました。「毎朝、鏡に映る自分を見て、誇りを持てるか?」という問いです。組織のビジョンと自分の価値観が重なる部分(オーバーラップ)を見つけること、あるいは重なりを作る努力をすることが、セルフ・リーダーシップの本質です。大晦日の今日、自分が大切にしたい信念は何か、譲れない一線はどこかを静かに見つめ直してみましょう。価値観という羅針盤が明確であれば、どんな荒波の中でも迷わずに進むべき道を選び取ることができます。
知的好奇心を絶やさず「学び続ける習慣」を設計する
知識の賞味期限が短くなっている現代において、学びを止めることはプロフェッショナルとしての死を意味します。ドラッカー自身、数年ごとに新しい分野を深く学ぶことを生涯続けました。セルフ・リーダーシップとは、自分の「学びのサイクル」を自分で設計することでもあります。仕事を通じて何を学ぶかだけでなく、仕事以外からどのような刺激を受けるか。自分を飽きさせず、常にアップデートし続けるための時間を、来年のカレンダーに今すぐ確保してください。継続的な学習こそが、自信の裏付けとなり、周囲に影響を与える源泉となります。
「貢献」の問いから逆算する、自分自身の働き方改革
ドラッカーは「組織の成果に貢献するために、私は何ができるか?」という問いを重視しました。これを個人レベルに落とし込めば、「私は何をもって覚えられたいか?」という問いになります。一日の大半を費やす「仕事」を通じて、どのような価値を社会や仲間に届けたいのか。その目的(パーパス)から逆算して、日々のタスクや時間配分を自らコントロールする。これこそが真の働き方改革です。誰かに管理されるのではなく、目的の達成のために自らを管理する。この視座の転換が、あなたを「雇われている人」から「価値を創造する人」へと変貌させます。
セルフ・リーダーシップの心理学:自己効力感と内発的動機づけ
心理学の観点から見れば、セルフ・リーダーシップは「自分ならできる」という確信と、内側から湧き上がる「やりたい」というエネルギーをいかに制御し、持続させるかという技術です。自分という複雑なシステムを動かすための心理学的アプローチを解説します。
アルバート・バンデューラの「自己効力感(セルフ・エフィカシー)」
心理学者バンデューラが提唱した「自己効力感」は、ある状況下で必要な行動をうまく遂行できるという自信のことです。これが高い人は、困難に直面しても「自分には乗り越える力がある」と信じ、粘り強く取り組むことができます。自己効力感を高めるには、小さな成功体験(達成体験)を積み重ねること、他者の成功をモデルにすること(代理経験)、そして自分へのポジティブな語りかけ(言語的説得)が有効です。今年の小さな一歩を「成功」として認め、自分を褒めることから、来年の強いセルフ・リーダーシップが作られていきます。
「自己充足的予言」を活用し、ポジティブな未来を引き寄せる
心理学には、自分が期待した通りの結果が起こる「自己充足的予言」という現象があります。「来年はきっと素晴らしい年になる」「自分はこのプロジェクトを成功させるリーダーシップがある」と強く信じることで、無意識のうちに行動がその期待に沿うものに変わっていきます。大晦日にポジティブなアファメーション(肯定的な断言)を行うことは、単なるおまじないではありません。脳の網様体賦活系(RAS)を刺激し、目標達成に必要な情報を自動的にキャッチしやすくするための、理にかなった脳のハック術なのです。
「マインドフルネス」による自己認識と感情のセルフコントロール
自分を導くためには、今、自分がどのような状態にあるかを客観的に知る必要があります。怒り、不安、焦り……。これらの感情に飲み込まれている間は、的確なリーダーシップは発揮できません。マインドフルネス(今、ここへの集中)の習慣は、感情と行動の間に「スペース」を作ってくれます。何かが起きたとき、反射的に反応するのではなく、一呼吸置いて「自分はどうありたいか」を選択する。この一瞬の選択の自由こそが、セルフ・リーダーシップの極意です。一年の終わり、静かに呼吸を整え、心の波を鎮める時間を持ってみてください。
キャロル・ドゥエックの「グロース・マインドセット(成長思考)」
才能や能力は固定的なものではなく、努力次第で伸ばせると信じる「成長思考」。このマインドセットを持っている人は、失敗を「能力の限界」ではなく「成長のプロセス」と捉えます。セルフ・リーダーシップにおいては、自分自身に対する「教育者」としての視点が必要です。今の自分にできないことがあっても、「まだ(Not Yet)」できないだけだと捉え、次の一手を考える。このしなやかな思考回路が、停滞を打破し、絶え間ない自己変革を可能にします。あなたの可能性を、あなた自身が決してあきらめないこと。それが自分への最高のリードです。
内発的動機づけ:自分の「ワクワク」を仕事のエネルギーに変える
報酬や罰といった外的な要因ではなく、好奇心や関心といった内面的な欲求から生じる「内発的動機づけ」。これが高い状態は、心理学者チクセントミハイの言う「フロー(没頭)」状態に入りやすくなります。自分の仕事の中に、どこに面白さを感じるか、何に夢中になれるかを見つけ出す。あるいは、今の仕事を自分の興味関心に引き寄せて再定義する(ジョブ・クラフティング)。セルフ・リーダーシップとは、自分を飽きさせず、エネルギーに満ちた状態に保つための「自分専用の取扱説明書」を運用することに他なりません。
大晦日の特別ワーク:2025年の棚卸しと2026年の設計
一年の最後の日、私たちはどのように「セルフ・リフレクション(内省)」を行うべきでしょうか。単なる反省で終わらせず、次の一歩に繋げるための、具体的で前向きな棚卸しのステップを提案します。
ドラッカー流「フィードバック分析」による一年の総括
一年前の今日、あるいは年度の始めに、自分に何を期待したかを思い出してみてください。そして、実際の結果はどうだったでしょうか。この「期待と結果のギャップ」にこそ、あなたの成長のヒントが隠されています。期待以上の成果が出たところには、あなたの「強み」があります。逆に、振るわなかったところは、単に知識が足りなかったのか、それとも自分の強みが活きない領域だったのか。冷徹に、しかし温かく自分自身を分析してください。この分析結果が、来年の自分をどこに配置すべきかの指針となります。
自分が最も「フロー」に入った瞬間を特定し、その要因を解明する
この一年で、時間が経つのも忘れて没頭した瞬間はいつでしたか?その時、あなたは誰と、どのような課題に取り組んでいましたか?心理学的に見て、その「フロー」の瞬間は、あなたの強みと課題の難易度が完璧に調和していた瞬間です。その環境や条件を来年は意図的に増やすことができないか、考えてみてください。自分の「ご機嫌な時間」をデザインすることは、セルフ・リーダーシップの重要な戦略です。最高のパフォーマンスは、最高の心理状態からしか生まれないからです。
自分への「死亡診断書」ならぬ「貢献の履歴書」を書いてみる
ドラッカーは「何をもって覚えられたいか」を自問することを勧めました。もし今日、プロフェッショナルとしての自分の歴史が一旦幕を閉じるとしたら、周囲の人々はあなたのことをどう語るでしょうか。「あの人がいてくれて助かった」「あの人のあの仕事が素晴らしかった」。そう言ってもらいたい「理想の貢献」を、履歴書の形にしてみてください。それは、あなたがこれから目指すべき姿そのものです。未来の自分から今の自分へ、どのような一歩を求めているか。その声に耳を傾けるのが、大晦日の夜にふさわしい内省です。
エネルギーを奪うものに「No」を言う勇気を準備する
セルフ・リーダーシップとは、何を「する」かと同じくらい、何を「しない」かを決めることです。あなたの集中力を削ぎ、価値観に合わず、ただエネルギーを浪費させるだけのタスクや関係性はなかったでしょうか。来年、より大きな貢献をするためには、それらにきっぱりと「No」を言う勇気が必要です。余白を作らなければ、新しいリーダーシップは芽生えません。捨てるものを決めることは、自分自身の魂を守り、最も大切なことに全力を注ぐための聖なる決断です。
1月1日の朝に、自分自身とどのような「契約」を交わすか
最後に、新しい年を迎える自分自身への「コミットメント」を一つだけ決めてください。あまりに高い目標ではなく、「これだけは守る」という自分との約束です。例えば「週に一度はキャリアについて考える時間を持つ」「毎朝、今日の貢献を一つ決める」といった、具体的で継続可能な行動が望ましいです。自分との約束を守り続けることで、心理学で言う「自己信頼感」が育まれます。誰が見ていなくても自分を導き続ける。その誇り高い意志が、あなたの2026年を決定づけます。
セルフからチームへ:自律がシェアド・リーダーシップを加速させる
自分を導く力(セルフ・リーダーシップ)は、決して自分勝手に振る舞うことではありません。むしろ、個々の自律が極まることで、チーム全体のシェアド・リーダーシップは、より次元の高いものへと進化します。
「弱さを見せる自律」がチームの心理的安全性を強化する
自律したプロフェッショナルは、自分の限界を知っています。だからこそ、必要な時に「ここからは助けてほしい」と素直に言えるのです。これは依存ではなく、「相互補完のためのリーダーシップ」です。自分を導けている人は、他者に対しても謙虚になれます。あなたが自分の弱さを開示し、他者の強みを頼る姿を見せることで、チーム内に「自分も強みを活かして貢献しよう」という波紋が広がります。自律は、孤立を生むのではなく、より深い繋がりを生むためのパスポートなのです。
個人の「パーパス」とチームの「ミッション」を接続する
セルフ・リーダーシップを発揮しているメンバーは、自分自身の仕事の意味(パーパス)を明確に持っています。その個人の想いがチームのミッションと共鳴したとき、組織には爆発的なエネルギーが生まれます。上司から与えられた目標をこなすだけの集団から、「自分たちの理想を実現するために集まったプロ集団」へと脱皮するのです。自分のために働くことが、結果としてチームのためになる。この「私利と公益の合致」を自分の中で作り出せる人こそが、シェアド・リーダーシップの中心人物となります。
権限がなくても影響力を発揮する「オーセンティック・リーダーシップ」
自分を偽らず、自分の価値観に基づいて行動するリーダーシップを「オーセンティック(本物)」と呼びます。役職などの外的な権限に頼らず、その人の生き方や仕事への姿勢そのものが周囲を動かす状態です。自分を導くことに真摯な人は、言葉に重みが宿ります。特別な指示を出さなくても、あなたの背中がチームの規律となり、勇気となります。セルフ・リーダーシップを磨くことは、あなた自身を「周囲から信頼される磁石」に変えていくプロセスでもあるのです。
フォロワーシップとしてのセルフ・リーダーシップの側面
リーダーシップを共有するということは、時には誰かのフォロワーに回ることを意味します。この「フォロワーシップ」を全うするためにも、自律の力は欠かせません。優れたフォロワーは、リーダーの指示を待つのではなく、「リーダーが最高の意思決定をできるように、自分はどう動くべきか」を自ら考えて行動します。自分が今、どの役割を演じるべきかを冷静に判断し、その役割に徹する。このメタ認知能力こそが、セルフ・リーダーシップの高度な発現形態です。
1月4日の「Day 1」に向けて、自分自身のエンジンを暖める
連載の後半では、いよいよ具体的なコミュニケーションやマネジメントの手法に踏み込んでいきます。そのすべての技術を使いこなすための「エンジン」は、今日、あなたが手に入れたセルフ・リーダーシップの決意です。休み期間中、心身をリフレッシュさせながらも、内なる炎を絶やさないでください。プロフェッショナルとして、新しい時代にどのような足跡を残したいのか。その情熱を燃料にして、明日からの新しい年を共に歩み始めましょう。

まとめ
連載第3日の本日は、すべてのリーダーシップの源泉である「セルフ・リーダーシップ」について深く掘り下げてまいりました。
一人の英雄に依存するのではなく、全員が自らをマネジメントし、自らの強みで貢献する。そんな「自律した個の集合体」こそが、シェアド・リーダーシップの理想像です。ドラッカーが説いた真摯さと、心理学が教える自己効力感を胸に、まずは自分という名の最も身近で、最も大切な存在を、最高の未来へと導いてあげてください。
明日は、新しい年の幕開け。具体的なスキルとして、役割を繋ぐための「対話(ダイアログ)」についてお話しします。
一年の終わりに。今日まで走り抜いてきた自分を、まずは心から労ってあげてください。そして、明日から始まる新しい物語の主役として、あなた自身が最高の監督であり、リーダーであることを忘れないでください。職業人として誇りを持って生きる道は、常にあなたの「内なる決意」から始まります。2026年、あなたが自らの手で最高の景色を切り拓いていくことを、私は心から信じ、応援し続けます。
皆さま、よい年をお迎えください。








