善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

こんにちは、坂本です。

これまでの連載で、組織文化が「働く」の質と組織の未来を左右する「土壌」であり、その土壌を豊かに耕す上でリーダーが「文化の醸成者」として、そしてメンバーが「文化の共創者」として、それぞれ不可欠な役割を担っていることを深く掘り下げてきました。

リーダーがどんなに素晴らしいビジョンを掲げ、心理的安全性を育もうとしても、メンバーがそれを自分ごととして捉え、積極的に関わらなければ、文化は根付きません。逆に、メンバーがどれほど自律的に行動しようとしても、リーダーの方向性や支援がなければ、その力は分散しがちです。

真に「ブレない強さ」を持ち、「善くはたらく」組織文化を築くためには、リーダーとメンバーがそれぞれの役割を理解し、有機的に連携し合う「共創」の視点が不可欠です。

連載4日目となる今日は、リーダーとメンバーがどのように協力し、組織文化を共創していくのか、その具体的な戦略と実践に焦点を当てていきましょう。

1. リーダーとメンバーの「共創」で文化を深める ~対話と行動の循環~

組織文化の醸成は、一方通行のプロセスではありません。それは、リーダーとメンバーの間で常に起こる「対話と行動の循環」を通じて、深まり、成熟していきます。

組織文化共創の「循環モデル」

組織文化は、リーダーがビジョンを提示し、メンバーがそれを行動に移し、その行動が新たな規範となり、再びリーダーの意思決定やメンバーの認識に影響を与えるという、ダイナミックな循環の中で進化します。

  1. リーダーによる「方向性の提示」: リーダーは、組織のビジョン、ミッション、そして目指すべき価値観(例:「善くはたらく」とは何か)を明確に語り、メンバーにインスピレーションを与えます。
  2. メンバーによる「行動の実践」: メンバーは、リーダーの提示した方向性に基づき、日々の業務の中で具体的な行動に移します。これが文化の種となります。
  3. 相互の「フィードバックと学習」: リーダーはメンバーの行動を観察し、適切なフィードバックを与え、支援します。メンバーもまた、組織の現状やリーダーの行動に対して意見を伝えます。この相互作用を通じて、文化が洗練されます。
  4. 文化の「定着と進化」: 望ましい行動が繰り返され、肯定的に評価されることで、それが組織の「当たり前」となり、文化として定着します。新たな課題や機会に直面するたびに、この循環が繰り返され、文化はさらに進化していきます。

この循環がスムーズに機能することで、組織は外部環境の変化にも「ブレない強さ」を発揮し、内側から「善くはたらく」というポジティブなエネルギーが湧き出るようになります。

「対話」が共創の鍵

この循環を活性化させる上で、最も重要な要素が「対話」です。リーダーとメンバーが、率直に意見を交換し、互いの認識を深め、共有する時間を意識的に持つことが不可欠です。

  • オープンなコミュニケーションチャネルの確保: 物理的、心理的に、いつでも気軽に相談や意見交換ができる環境を整えます。定期的な1on1ミーティング、チーム全体の対話セッション、非公式なコミュニケーションの機会などが有効です。
  • 「なぜ?」を深掘りする文化: 表面的な意見だけでなく、「なぜそう考えるのか」「その背景には何があるのか」と、互いの思考のプロセスや感情にまで踏み込む対話を奨励します。これにより、誤解を防ぎ、深い理解と共感が生まれます。
  • 心理的安全性のアカウンタビリティ: リーダーが心理的安全性を確保するだけでなく、メンバーも「心理的安全性を守る」という意識を持つことが重要です。批判ではなく建設的な意見を出し、他者の発言を尊重するといった、相互のアカウンタビリティ(説明責任)が文化を支えます。

2. 強くて「善くはたらく」組織を育むための具体的な連携戦略

では、リーダーとメンバーが連携し、望ましい組織文化を育むために、具体的にどのような戦略を取れば良いのでしょうか。

共通の目的と価値観を「共に言語化・行動化」する

単にリーダーが一方的にビジョンを示すだけでなく、それをメンバーと共に考え、自分たちの言葉で表現し、具体的な行動に落とし込むプロセスが重要です。

  • ワークショップの開催: チーム全体で「私たちの『善くはたらく』とは何か?」「どのような組織でありたいか?」といったテーマでワークショップを実施します。メンバーそれぞれの「善くはたらく」定義を共有し、チームとしての共通認識を言語化する場を設けることで、主体的な参画を促します。
  • 行動規範の共同設定: 言語化された価値観を、日々の業務における具体的な行動規範(例:「私たちは常に顧客の期待を超える工夫をする」「問題が起きたら隠さず、全員で解決策を探す」など)として、リーダーとメンバーが共に設定します。
  • 「アンラーニング」と「再学習」の機会: 過去の成功体験や慣習が、現在の変化に適応しきれていない場合、それを「アンラーニング(学びほぐし)」し、新たな価値観や行動を「再学習」する場を設けます。これは、心理的安全性が確保された環境で、安心して議論できることが前提です。

フィードバックと承認の「文化」を根付かせる

ポジティブな行動を強化し、改善点を建設的に伝える文化は、組織の学習能力を高め、「善くはたらく」行動を促進します。

  • 多面的なフィードバックシステム: リーダーからメンバーへ、メンバーからリーダーへ、そしてメンバー同士でのフィードバックが日常的に行われる仕組みを作ります。これは、定期的な1on1、ピアレビュー、360度評価(簡易的なものから)など、形式・非形式を問いません。
  • 「承認」の日常化: 相手の存在、努力、貢献を具体的に認め、感謝を伝えることを日常の習慣にします。これは、心理的な報酬となり、メンバーのモチベーションとエンゲージメントを飛躍的に高めます。「いいね!」「助かったよ、ありがとう」「〇〇さんのあの工夫、素晴らしいね」といった、具体的な言葉で伝えることが重要です。
    • 経営学者のグレン・パーセルは、ポジティブなフィードバックがチームのパフォーマンス向上に大きく寄与すると述べています。

失敗から学ぶ「レジリエントな」文化の醸成

「ブレない強さ」を持つ組織は、失敗を恐れず、そこから学び、次へと活かす文化を持っています。

  • 「失敗会議」の導入: 失敗や課題が発生した際に、個人を糾弾するのではなく、「何が起きたか」「なぜ起きたか」「どうすれば改善できるか」をチーム全員で冷静に分析し、学習する場を設けます。リーダーが率先して自身の失敗を共有することも有効です。
  • 実験と試行錯誤の奨励: 新しいアイデアやアプローチを、小さな規模で試す「実験」を奨励します。成功しなくても、そこから得られた知見が価値として認められる文化であれば、メンバーは積極的に挑戦するようになります。
  • 「失敗から学ぶ」ための心理的安全性: メンバーが失敗を隠さず報告できるのは、リーダーが「失敗は学びの機会」と捉え、再挑戦を支援する姿勢があるからです。この心理的安全性が、組織全体のレジリエンスを高める鍵となります。

3. リーダーとメンバーの共創がもたらす組織効果のエビデンス

リーダーとメンバーの共創が組織文化に与える影響は、多くの学術研究によって裏付けられています。

例えば、ペンシルベニア大学ウォートン校教授のアダム・グラントは、著書『ギブ・アンド・テイク』で、組織内の「ギバー」(与える人)の存在が、チーム全体の生産性と幸福度を高めることを示しています。これは、リーダーがメンバーにギブするだけでなく、メンバー同士が互いに知識や支援を「ギブ」し合う文化が、組織の「善くはたらく」基盤となることを示唆しています。

また、社会心理学の分野では、「集団効力感(Collective Efficacy)」という概念があります。これは、チーム全体が「自分たちなら目標を達成できる」と信じる集合的な自信を指します。リーダーがメンバーの意見を尊重し、権限を委譲し、メンバーが主体的に貢献することで、この集団効力感が高まり、チームのパフォーマンスが向上することが多くの研究で示されています。

さらに、近年注目されている「学習する組織」の概念(ピーター・センゲらが提唱)は、組織全体が継続的に学習し、変化に適応していく能力の重要性を説いています。この学習能力は、リーダーが学習を奨励し、メンバーが積極的に知識を共有し、共に問題を解決する「共創」の文化が根付いている組織において最も強く発揮されます。これは、組織が時代に「ブレない強さ」を持つための重要な要素です。

これらのエビデンスは、リーダーとメンバーがそれぞれの役割を果たしつつ、協力し合うことで、単なる個人の能力の総和を超えた、強力な組織文化が構築されることを明確に示しています。

4. まとめ:共に耕し、共に実らせる「善くはたらく」未来

今日の記事では、リーダーとメンバーが協力し、「強くて善い」組織文化を共創するための具体的な戦略と実践についてお話ししました。

組織文化は、リーダーが耕し、メンバーが共に水をやり、肥料を与えることで育つ「生きた畑」です。共通の目的と価値観を「共に言語化・行動化」し、フィードバックと承認の「文化」を根付かせ、失敗から学ぶ「レジリエントな」文化を醸成する。これらの実践は、リーダーとメンバーがそれぞれの強みを持ち寄り、相互に作用することで可能になります。

「ブレない強さ」を持ち、「善くはたらく」という豊かな実を結ぶ組織の未来は、あなたとあなたのチームメンバーの「共創」にかかっています。

さあ、今日から、リーダーとして、あるいはメンバーとして、あなたのチームにおける「善くはたらく」文化を、積極的に共創していく一歩を踏み出してみませんか?

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