善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

人間力③:「承認のストローク」が他者の品性と組織の信頼を引き出す

こんにちは、坂本です。皆さんのキャリアと組織の成長を応援しています。

この連載のDay 1からDay 5までで、私たちは品性を「利他的な貢献への一貫性」と定義し、それを内面から支えるための「理性(Adult)の安定」と「人生脚本からの解放(謙虚さ)」という土台を築いてきました。皆さんは今、自分自身の品性ある言動を自律的に選択できる段階に立っています。

しかし、真の人間力は「他者との関係性」の中で測られます。あなたの品性が、組織全体の品性と成果に貢献できなければ、それは「自己満足」に終わってしまいます。品性あるリーダーの役割とは、自分の品性を維持するだけでなく、組織全体に品性の輪を広げることです。

では、あなたの品性ある言動を組織の力へと転換し、他者の人間力を引き出すための具体的な技術は何でしょうか?

それが、TA理論の核となる概念の一つ、「ストローク(Stroke)」、すなわち「承認の技術」です。TA理論では、人間が「誰からもストローク(承認)が得られなければ、生きられない」という根源的な欲求を持つと捉えます。この承認欲求を、品性ある形で満たすことが、組織の信頼資本を最大化する鍵となります。

本日は、この「ストローク」の質が、いかに組織の品性と信頼資本を決定づけるのかを深く掘り下げます。そして、他者の自律性を尊重し、品性ある行動を自然と引き出すための、「理性的な承認のストローク」を実践する具体的な方法を解説してまいります。

1. 組織の品性を左右する「ストローク」の科学的理解

TA理論において、ストローク(Stroke)とは、「相手の存在や行為を認めるすべての交流単位」を意味します。挨拶、微笑み、褒め言葉、批判、無視、これら全てがストロークです。組織の品性のレベルは、このストロークの交換の質と量によって決定されます。

1.1. 組織の品性を決定づける「ストロークの質」と「無視」の破壊力

ストロークは、「肯定的ストローク(Positive Stroke)」と「否定的ストローク(Negative Stroke)」に大別されます。

  1. 肯定的ストローク: 安心感自己肯定感を高め、組織への忠誠心利他的行動を促進します。
  2. 否定的ストローク: 不安感自己否定感を高め、自己防衛的非品性的な行動を引き起こします。

最も品性を損なうストロークは、「無視」です。TAでは、「否定的なストローク(叱責など)であっても、存在を無視されるよりはマシ」と考えます。無視は、「あなたの存在は無価値だ」というメッセージを送り、個人のモチベーションの根幹を破壊し、組織の心理的安全性をゼロにします。無視されたメンバーは、「存在するな」という禁止令を再強化され、自らの内発的な貢献意欲を完全に失ってしまいます。

1.2. 否定的ストロークが組織の品性を損なうメカニズム

否定的ストロークが多い環境では、人々は「失敗すると罰せられる」という恐怖から、自らの「適応的な子ども(AC)」の自我状態を強くします。

  • ACの反応: 親(P)からの批判や叱責を恐れ、上司の顔色を窺い自己の意見を抑え指示待ちの姿勢になります。
  • 組織の機能不全: メンバーは自律性創造性が失われ、貢献ではなく安全を最優先するようになります。また、ミスを隠蔽したり、他者に責任を押し付けたりする非品性的な行動が文化として根付いてしまいます。これは、Day 1で定義した「一貫した利他的貢献」とは正反対の組織状態です。

品性ある組織文化とは、肯定的ストロークが豊富に交換され、人々が自律的利他的な貢献を選択できる文化のことです。

2. TA理論に基づく「理性的承認」の技術と実践

品性あるリーダーが使うべきは、単なる感情的な「褒める」行為ではなく、他者の自律性を尊重し、行動を定着させる「理性的な承認のストローク」です。

2.1. 感情的な承認の限界と「理性的な承認」への転換

ストロークは、その性質から「条件付き」と「条件なし」に分類されます。

  1. 条件付きストローク: 「〇〇という行動をしたら、あなたはOK(例:成果を出したから褒める)
  2. 条件なしストローク: 「〇〇という存在であるあなたはOK(例:存在そのものへの感謝)

リーダーが特に意識すべきは、「条件なしの肯定的ストローク」、そして「条件付きの肯定的ストローク」を理性的に行うことです。

  • 感情的な承認の限界: 「すごいね!」「さすがだね!」といった感情的なストロークは、受け手が「親(P)」からの支配的な評価として受け取る可能性があり、自律性を損ないます。特に、内的な「適応的な子ども(AC)」が強いメンバーは、感情的な承認に依存し、常に「親の期待」に応えようとするようになり、自律的な思考が停止します。
  • 理性的な承認の原則: 承認を大人(Adult)から発信し、相手のAdultに届くように工夫します。具体的には、行動と結果、そしてそれが組織に与えた影響を事実ベースで明確に伝えます。この事実ベースの承認こそが、相手の自己客観視(謙虚さ)と自律的な学習を促します。

2.2. 「影響力」を伝える承認の具体例:貢献の定着

品性ある承認は、単に「褒める」だけでなく、相手の行動が組織の利他性にどう貢献したかを伝えることに焦点を当てます。これにより、相手の「貢献したい」という内発的動機(内的なChild)を、Adultの理性で定着させることができます。

承認のNG例(感情的・支配的P承認のOK例(理性的・貢献志向A影響力と効果
「君は本当に優秀だね!」「君が昨日、顧客の懸念を速やかに上層部に報告したおかげで、納期遅延という【100万円相当の損失】を未然に防げた。【その先見性】に感謝する」自己肯定感と同時に「貢献の具体的な事実」を認識させ、自律性と再現性を育む。
「いつも残業して頑張ってるね」「君の残業という【自己犠牲】はチームの【目標達成】に不可欠だった。今後は、このプロセスを改善し、【君の時間を守る】ことを約束する」努力を認めつつ、利他的貢献を組織の責任へと繋げ、信頼を深める。
「ありがとう、助かったよ。」「君が提出前の資料の【データ整合性】を再チェックしてくれたことで、役員会議で【信頼性の高い報告】ができた。君の【細部へのこだわり】が組織の品格を守った」行動の細部と品性への貢献を結びつけ、内発的な品質基準を高める。

このように、承認のストロークに「事実情報」と「組織への影響」というAdultの要素を付加することで、他者の自律的かつ品性ある行動を意図的に引き出すことができます。

3. 品性ある組織文化を築く「ストロークの法則」の応用

組織全体で品性ある行動を定着させるには、個人レベルの承認に加えて、文化レベルでストロークの交換量を増やし、「健康なストロークの経済」を確立することが重要です。

3.1. 「ストロークの倹約令」が組織の品性を蝕む構造

TA理論には、人々が無意識に従ってしまう「ストロークの倹約令(Stroke Economy)」という概念があります。これは、「承認の流通を制限する」ネガティブなルールです。この倹約令が組織内に蔓延すると、「成果を上げても褒められない」「ミスは隠蔽される」といった品性を損なう文化が生まれます。

特に危険なのが、「不快な承認を拒否してはいけない」というルールです。これにより、組織内でハラスメントや不当な批判があっても、メンバーはAdultの冷静な状態に戻って「それは事実ではない」と理性的に拒否できず、黙って受け入れてしまいます。その結果、不健全な親子関係(P-C)の交流が固定化され、品性の回復力が失われます。

品性あるリーダーは、これらの無意識のルールを意識化し、組織内での承認の流通量を意図的に増やし、同時に不健全なストロークをAdultとして拒否できる「許可」を与える必要があります。

3.2. 「自律性の尊重」が真の品性を育むリーダーシップ

品性ある組織文化において最も重要なのは、他者の自律性を尊重することです。リーダーの承認は、支配的な親(CP)からではなく、養育的な親(NP)と大人(Adult)が協力した「親愛なる大人」の状態から発せられるべきです。

  • NG例(支配的P): 「君がこれをやれば、私が君を評価してあげる。」(相手の行動を自分の支配下に置き、依存を促す)
  • OK例(親愛なるA): 「君がこのプロセスを改善したことは、君の自律的な成長の証だ。その事実を私は心から尊敬する。」(相手の自律的な努力に焦点を当て、内発的動機を強化する)

この自律性を尊重した承認こそが、相手の内発的動機に働きかけ、品性ある貢献を永続的に促します。それは、他者に自己責任と誇りを持たせるという、最高の利他性です。

4. まとめ:承認の技術が信頼資本を最大化する

本日は、TA理論に基づく「承認(ストローク)の技術」が、いかに他者の人間力を引き出し、品性ある組織文化を築くかを解説しました。

  • ストローク(承認)は、人間の根源的な欲求を満たし、組織の行動パターンと品性の質を決定づけます。
  • 否定的ストローク無視は、自己防衛的で非品性的な行動(隠蔽、責任転嫁)を引き起こします。
  • 品性あるリーダーは、感情的な承認ではなく、行動と結果、そして組織への影響を伝える理性的な承認を用います。
  • 承認のストロークに「事実情報」と「貢献への影響」というAdultの要素を付加することで、自律的かつ品性ある貢献を意図的に引き出します。
  • ストロークの倹約令を破棄し、自律性を尊重した承認を組織全体に流通させることで、信頼資本を最大化する品性ある文化が生まれます。

自己の内面を解放し、真の謙虚さを身につけた皆さんには、この「承認の技術」を駆使して、他者の人間力を引き出し、組織の品性を高めるという、利他的な使命が残されています。

来週は、これまでの知識を集約し、品性あるリーダーが組織全体に「倫理的な行動様式」を定着させる具体的な「制度設計」について深く論じます。品性を仕組みとして組織に組み込む方法を学びましょう。

お読みいただきありがとうございました。皆さんのキャリアと組織の成長にお役に立てれば幸いです。

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