善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

人間関係の質を高め、自律を育む秘訣

皆さん、こんにちは。坂本です。

連載もいよいよ5日目となりました。これまでの学びを通じて、私たちは人間関係の複雑な心理メカニズムを深く掘り下げてきました。「人生態度」で自分と他者への向き合い方を理解し、「自我状態」と「やりとり分析」でコミュニケーションのパターンを可視化し、そして「人生脚本」で無意識の行動原理に光を当ててきました。これらの洞察は、私たちが人間関係で直面する「なぜ?」の多くに明確な答えを与えてくれたはずです。

今日は、これらの知識を具体的な実践へと繋げる、人間関係において最も温かく、そして強力な心の栄養となる概念、「ストローク(Stroke」について深く掘り下げていきます。交流分析(TA)の概念であるストロークは、「相手の存在を認める行為」全般を指し、私たちの誰もが持つ「認められたい」という根源的な欲求を満たすものです。私は研修などでは「心の食べもの」と表現をしています。

職場内外で信頼される関係性や親密な関係性を築くためには、このストロークを意識的に、そして効果的に与えることが不可欠です。今日のテーマを通じて、皆さんが日々の人間関係の中で、より多くのポジティブなエネルギーを生み出し、それが最終的に皆さん自身の自律性(Autonomyを高める力となることを願っています。

1. なぜ「承認」が私たちの心を動かすのか?ストロークの正体

私たちは、物理的な接触だけでなく、言葉、視線、表情、あるいはSNSでの「いいね」やチャットでの短い返信など、あらゆる形で互いに「存在を認め合う」行為を無意識のうちに行っています。この「存在承認の働きかけ」こそがストロークです。

交流分析の創始者エリック・バーン博士は、人間には「ストローク飢餓(Stroke Hunger」という、ストロークを求める根源的な欲求があると提唱しました。赤ちゃんが触れられることで安心感を得るように、私たちは大人になっても、他者からの承認や関わりを常に求めているのです。この欲求が満たされないと、人は不安や孤独を感じ、精神的に不安定になることがあります。

1.1. ストロークの種類と人間関係への影響

ストロークは、その性質によって大きく以下の種類に分類されます。

肯定的ストローク(Positive Stroke)

  • 無条件の肯定的ストローク: 相手が「そこにいる」こと自体を肯定するストロークです。例えば、「君がいると、チームの雰囲気が明るくなるね」「会えて嬉しいよ」「いつもありがとう」といった言葉です。相手の存在そのものへの感謝や、労いを伝えることで、深い安心感と絆を育みます。
  • 条件付きの肯定的ストローク: 相手の特定の行動や成果に対して肯定するストロークです。例えば、「このプレゼン資料、本当に分かりやすかったよ!」「今日の顧客対応、素晴らしかったね」「企画書の改善提案、的確だったよ」といった、具体的な努力や成果を褒める言葉です。これは、相手のモチベーションを高め、次への行動を促す効果があります。

否定的ストローク(Negative Stroke)

相手の存在や行動を否定的に認め、価値を下げたり、傷つけたりするストロークです。

  • 無条件の否定的ストローク: 相手が「そこにいる」こと自体を否定するストロークです。「お前がいると気分が悪い」「本当に使えないやつだ」といった、人格否定や存在否定に繋がるような言葉です。これは、相手の自尊心を深く傷つけ、人間関係を破壊する最も危険なストロークです。
  • 条件付きの否定的ストローク: 相手の特定の行動や成果に対して否定するストロークです。「こんなミスをするなんて」「また締め切りに間に合わないのか」といった、行動に対する批判です。建設的なフィードバックであれば成長に繋がることもありますが、多くの場合、相手を委縮させたり、反発させたりします。

重要な真実:

バーン博士は、人間は肯定的ストロークが得られない場合、否定的ストロークであっても、「ないよりはまし」として求めてしまうことがあると指摘しています。なぜなら、完全に無視され、誰からも存在を認められないこと(ストローク欠乏)が、最も辛いと感じるからです。しかし、否定的ストロークは、長期的に見れば関係性を悪化させ、個人の心身に悪影響を及ぼします。

職場において、特に上司と部下の関係では、肯定的ストロークが不足し、不満や不信感が募ることが少なくありません。部下は「どうせ頑張っても認めてもらえない」と感じ、モチベーションを失ってしまうこともあります。

2. 親密な関係性を築くための「ストローク」活用術

では、どのようにすれば、肯定的ストロークを効果的に活用し、職場内外で信頼され、親密な関係性を築くことができるのでしょうか?

2.1. 実践のヒント:効果的な肯定的ストロークの与え方

具体的に承認する

漠然と「よく頑張ったね」と言うだけでなく、「あの時の〇〇(具体的な行動)があったから、△△(具体的な結果)に繋がったね。本当に助かったよ!」のように、具体的に何を評価しているのかを伝えます。これにより、相手は何をすれば認められるのかが明確になり、再現性が高まります。

タイムリーに承認する

良い行動や成果があったら、その場ですぐに伝えることが最も効果的です。時間が経ってしまうと、承認の価値は半減してしまいます。メールやチャットでの短い一言でも、即座に送ることで相手に届きやすくなります。

相手の「OK」を見つける視点を持つ

どんな人にも必ず良い点、成長した点があります。意識的に相手の行動や存在の良い側面、努力している点を見つける練習をすることで、自然と肯定的ストロークを与えることができるようになります。特に、「当たり前」と感じることの中に、実は相手の努力や工夫が隠れていることに気づく視点が重要です。

無条件の肯定的ストロークを意識する

成果に関わらず、相手の存在そのものへの感謝や、労いの言葉をかけることも大切です。例えば、会議室の準備を手伝ってくれた同僚に「ありがとう、助かるよ」と、その行為そのものへの感謝を伝えるだけでも、相手は「自分の存在が役に立っている」と感じることができます。

言語と非言語を一致させ

言葉で褒めても、表情が硬かったり、目が笑っていなかったりすると、相手には伝わりません。心からの承認が、言葉、表情、声のトーン、ジェスチャーといった非言語情報と一致していることが、効果的なストロークの鍵です。

図:効果的なストロークの与え方チェックリスト

2.2. 自律性を高めるためのストロークの受け取り方

ストロークは与えるだけでなく、適切に受け取ることも、個人の自律性を高める上で非常に重要です。自己肯定感が低い人は、肯定的ストロークを素直に受け取ることが苦手な場合があります。「私なんて…」と謙遜しすぎたり、相手の言葉を疑ってしまったりすることで、せっかくの心の栄養を受け入れられず、損をしてしまうのです。

ストロークを素直に受け取るためのヒント:

  • 感謝の気持ちを素直に伝える: 「ありがとうございます」「嬉しいです」とシンプルに伝えるだけで十分です。
  • 謙遜しすぎない: 相手の好意をそのまま受け取る練習をしましょう。「いやいや、そんなことないです」ではなく、「ありがとうございます!」と受け入れることで、相手も「褒めてよかった」と感じ、より良い関係性が築けます。
  • ストローク貯金: 褒められた言葉や、感謝された経験を心の中に「貯金」しておきましょう。落ち込んだ時にそれらを思い出すことで、自己肯定感を維持することができます。

研修:ストロークを「活かす」力

PROGRESS Labでは、このストロークの概念を深く理解し、日々の人間関係に活かすための実践的な研修プログラムを提供しています。

若手ビジネスパーソン向けTA活用研修:自己肯定感の向上と自信の醸成

「自分の存在価値が分からない」「もっと自信を持ちたい」と感じる若手の方々に、まず自分自身に肯定的ストロークを与える方法を学びます。そして、他者からの肯定的ストロークを素直に受け取ることで自己肯定感を高め、人間関係のストレスを軽減し、より前向きに仕事に取り組むスキルを習得します。相手に「心地よい」と感じさせるストロークの与え方も身につけ、信頼される存在へと成長することを後押しします。

管理者向けTA活用研修:部下のモチベーションを引き出す承認力

部下のモチベーションを引き出し、エンゲージメントを高めるための「承認と励まし」に焦点を当てたストロークの与え方を実践的に学びます。部下一人ひとりの特性を見極め、彼らが最も喜ぶストロークの種類や伝え方を習得。心理的安全性の高いチームを築き、部下の自律性とパフォーマンスを最大化するためのリーダーシップスキルを磨きます。具体的なロールプレイングを通じて、実践で使えるストロークの技術を習得します。

どちらの研修も、単なる知識の伝達に留まらず、ワークショップやロールプレイングを豊富に取り入れ、参加者自身が「気づき」を得て、「行動」に繋がるよう設計されています。あなた自身の人間関係における「なぜ?」を解明し、よりスムーズで、より深い信頼関係を築くための具体的なヒントが得られるでしょう。

おわりに:承認の連鎖が、人間関係の未来を創る

今日のテーマである「ストローク」の理解は、人間関係において最もシンプルでありながら、最もパワフルなツールの活用法を教えてくれました。肯定的ストロークを惜しみなく与え、そして素直に受け取ることで、私たちの心は満たされ、人間関係は温かく、親密なものへと変わっていきます。

職場においては、この肯定的ストロークの連鎖が、チームの活性化、エンゲージメントの向上、そして最終的な組織の生産性向上に直結します。そして、自分自身がストロークを適切に活用できるようになることは、他者に依存することなく、自身の心のエネルギーを自律的に満たし、周囲に良い影響を与える存在となることでもあります。

私たちは、あなたの「make progress」を全力で応援します。この学びが、皆さんの人間関係とキャリアをさらに豊かなものにするきっかけとなることを願っています。

さあ、今日から、あなた自身の、そして周囲の人々との関係性を「進化」させていきませんか?

ご興味をお持ちいただけましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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