善くはたらくための考察

単なるビジネススキルではなく、働くことの本質を深考することが、真の組織成長に繋がると考えます。
ここでは、長年の実務経験と、ドラッカー理論、心理学の知見を融合させた考察を定期的に発信しています。

【連載第1日】なぜ今、リーダーシップを「共有」するのか:一人の限界を超え、全員が主役になるチームの創り方

2025年も残すところあとわずかとなりました。仕事納めを迎え、ホッと一息ついている方も、あるいは来年に向けて静かに闘志を燃やしている方もいらっしゃることでしょう。この1年、皆様のチームはいかがでしたか?「一人のリーダーが必死に牽引し、メンバーがそれに続く」という、かつての理想とされたスタイルに、どこか「限界」を感じた瞬間はなかったでしょうか。

複雑さを増す現代のビジネスシーンにおいて、特定の誰かにすべての判断を委ねるモデルは、今、大きな転換期を迎えています。本連載の初日は、役職に関わらず全員がリーダーシップのバトンを繋ぎ合う「シェアド・リーダーシップ(共有型リーダーシップ)」という考え方について、なぜ今この概念が「善くはたらく」ための救世主となり得るのか、その理由を深く探っていきます。

限界を迎える「カリスマ型」リーダーシップと現代の複雑性

これまでの多くの組織では、一人の強力なリーダーがビジョンを掲げ、メンバーに指示を出す「垂直型」のリーダーシップが機能してきました。しかし、情報が溢れ、正解が刻一刻と変化する現代において、一人の人間の脳で処理できる情報量には物理的な限界があります。ドラッカーが説いた「知識労働者」の時代において、組織のあり方はどのように変化すべきなのでしょうか。

ピーター・ドラッカーが予見した「知識労働者」の台頭と専門性の深化

ピーター・ドラッカーは、20世紀の後半から、現代の労働力の中心が肉体労働者から「知識労働者」へシフトすることを予見していました。知識労働者の最大の特徴は、「自分の仕事については、上司よりも本人の方がよく知っている」という点にあります。高度に専門化された現代の業務において、一人のリーダーがすべての専門領域に対して的確な指示を出し続けることは不可能です。各メンバーがそれぞれの専門性に基づき、自律的に判断し、行動することが組織の成果に直結します。この「専門性の分散」こそが、リーダーシップを共有すべき最も根本的な背景の一つなのです。

正解のないVUCA時代における「一人の判断」の危うさとリスク

変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)の頭文字を取ったVUCA時代。この環境下では、過去の成功体験に基づく「一人の判断」が、時として組織を誤った方向へ導くリスクを孕んでいます。多様な視点や現場の微細な変化を捉える目が欠けたまま下される意思決定は、変化への適応を遅らせます。シェアド・リーダーシップは、メンバー全員の「センサー」を活用し、多角的な視点で状況を判断することで、意思決定の精度を高め、致命的な見落としを防ぐための組織的な防衛策とも言えるのです。

現場の一次情報を活かせない「トップダウン」の構造的限界

意思決定権が一箇所に集中するトップダウン型の組織では、現場で起きている「一次情報」が上層部に届くまでに、情報の劣化やバイアスが生じがちです。顧客の細かな不満や、競合の微かな動きに最も早く気づくのは常に現場のメンバーです。彼らがリーダーシップを発揮し、その場で適切な判断や提案ができない構造は、「機会損失」を増大させます。シェアド・リーダーシップによって、情報の発生源である現場に近いところで意思決定がなされるようになれば、組織のレスポンス速度は劇的に向上し、競争優位性を築くことが可能になります。

過剰な負担によるリーダーのバーンアウトという組織的損失

「リーダーは常に強く、正しく、決断し続けなければならない」という過度な期待は、特定の個人に凄まじいプレッシャーを与えます。その結果生じるのが、リーダーのバーンアウト(燃え尽き症候群)です。優秀な人材が過重な責任感から潰れてしまうことは、組織にとって計り知れない損失です。リーダーシップをチーム全体で分かち合うことは、リスクの分散であると同時に、特定の個人に過剰な負担をかけない「持続可能な組織」を創るための、人間中心のマネジメント手法であると言えるでしょう。

メンバーの「指示待ち化」がもたらす組織の硬直化と成長の停滞

常に指示を待つだけのメンバーは、自分の頭で考える習慣を失っていきます。これは心理学でいう「学習性無力感」に近い状態を引き起こし、組織から活気を奪います。自分の意見が反映されない、あるいは判断の余地がない環境では、モチベーションは低下し、イノベーションは生まれなくなります。シェアド・リーダーシップは、メンバー一人ひとりに「自分が変化を起こせる」という実感を与え、眠っていた創造性を呼び覚まします。主体性が育まれることで、組織は生命力を取り戻し、自己進化を続ける集団へと変貌していきます。

シェアド・リーダーシップの定義:バトンを繋ぎ合う「流動的」な関係性

では、具体的に「シェアド・リーダーシップ」とはどのような状態を指すのでしょうか。それは単なる「役割の分担」ではありません。チームの状況や課題の種類に応じて、最も適した「強み」を持つ人が一時的にリーダーとなり、他のメンバーがそれを支えるという、極めて流動的でダイナミックなプロセスを指します。

権限移譲(デリゲーション)とは異なる「主体性の共有」の本質

よく混同されるのが、上司から部下への「権限移譲」です。権限移譲はあくまで垂直方向の「許可」に基づきますが、シェアド・リーダーシップは水平方向の「相互作用」に基づきます。誰かに言われてやるのではなく、「今、この状況では私がリードすべきだ」と自発的に立ち上がり、周囲もそれを自然に受け入れる状態です。この「自発性」の連鎖こそが本質であり、組織図上の役職に関わらず、全員がチームの成功に対するオーナーシップを共有していることが、成功の絶対条件となります。

状況に応じてリーダーとフォロワーが入れ替わる「ダイナミックな対話」

シェアド・リーダーシップが機能しているチームでは、ある時はAさんが議論をリードし、別の場面ではBさんが専門知見を活かして意思決定を支えるという、「役割のスイッチ」が頻繁に行われます。この切り替えをスムーズにするのは、日々の「対話」です。お互いの状況をリアルタイムで共有し、「今は誰が前に出るべきか」を阿吽の呼吸で判断できるほどにコミュニケーションが成熟している必要があります。この流動性こそが、固定的な組織構造では真似できない圧倒的な柔軟性を生み出します。

形式的な役職を超えた「専門性」に基づく自発的なリーダーシップ

リーダーシップの根拠を「肩書き」ではなく「専門性(エクスパート・パワー)」に置くのがシェアド・リーダーシップの特徴です。例えば、新しいデジタルツールの導入局面では、ITに詳しい若手社員がリーダーシップを発揮し、ベテラン部長がその実行をフォロワーとしてサポートする。こうした「逆転現象」が日常的に起きるチームは、極めて高い学習能力を持ちます。各自が自分の「得意分野」でチームに貢献することを誇りとし、それを周囲が尊重する文化が、このリーダーシップを支える土台となります。

チーム全体の目標(共通善)に対する「集団的責任」の醸成

「それは私の仕事ではありません」という言葉は、シェアド・リーダーシップのあるチームでは聞かれません。全員がリーダーシップのバトンを共有しているということは、結果に対する責任も共有していることを意味します。個人の成果だけでなく、チーム全体の目標達成を自分事として捉える「集団的責任感」が育まれます。誰かが困っていれば自然と手が差し伸べられ、課題が見つかれば誰かが自発的に解決に動く。この高い当事者意識が、チームの結束力をこれまでにない次元へと引き上げます。

ドラッカーが説いた「貢献」の意識をメンバー全員が持つことの意義

ドラッカーは「貢献に焦点を合わせることは、責任を持って成果をあげることである」と説きました。シェアド・リーダーシップは、まさにこの「貢献の哲学」をチーム全員で体現する手法です。各自が「このチームの成果を最大化するために、今、自分はどう貢献できるか?」と問い続けることで、リーダーシップは特別な人の特権ではなく、「成果をあげるための共通の作法」となります。一人ひとりが組織全体の成果に責任を持つという高い視座を持つことが、職業人としての真の自律へと繋がります。

なぜ今、このリーダーシップが「最強」と言えるのか:その心理学的効能

シェアド・リーダーシップは、単に効率的なだけではありません。人間の心理的な欲求を満たし、高いエンゲージメントを引き出す力を持っています。ポジティブ心理学や行動科学の観点から、このスタイルがメンバーの幸福度と生産性をいかに向上させるのかを考察します。

自己決定理論から読み解く「自律性」がもたらす圧倒的な生産性

エドワード・デシらの「自己決定理論」によれば、人間のモチベーションの源泉は「自律性(自分で決めたい)」「有能感(自分はできる)」「関係性(誰かと繋がっていたい)」の3つに集約されます。シェアド・リーダーシップは、メンバーに自律的な判断の機会を与え、その成果を通じて有能感を高め、相互サポートによって関係性を深めます。つまり、モチベーションの3要素すべてを同時に満たす理想的な環境なのです。無理に「動機づけ」をする必要はなく、リーダーシップを発揮する機会そのものが、最高の報酬となります。

メンバーの「有能感」と「関係性」を満たす承認のサイクルの構築

誰かが主導して問題を解決したとき、チーム全体でそれを称え、感謝する。シェアド・リーダーシップの下では、リーダー役が入れ替わるため、「全員が称賛を受ける側にも、送る側にもなる」というポジティブな循環が生まれます。この「承認のシャワー」がメンバーの自己効力感(自分ならできるという確信)を爆発的に高めます。お互いの強みを認め合う関係性は、単なる仕事仲間を超えた深い信頼を築き、それが困難に直面した際のチームレジリエンス(回復力)を劇的に強化することに繋がります。

多様な視点が交差することで生まれる「イノベーション」の創出

一人のリーダーの視界には限界がありますが、全員がリーダーシップを持ち寄り、自由にアイデアを出し合う環境では、「知の再結合」が頻繁に起きます。異なる専門性やバックグラウンドを持つメンバーが主体的に関わることで、思いもよらない解決策が生まれる可能性が高まります。心理学的にも、「認知的多様性」が確保されたチームの方が、複雑な問題解決において高いパフォーマンスを示すことが証明されています。イノベーションは、指示によってではなく、自由な発想の連鎖から生まれるのです。

心理的安全性がベースとなる「失敗を恐れない」チャレンジ精神

シェアド・リーダーシップが機能するには、「何を言っても、どんな挑戦をしても、ここでは拒絶されない」という心理的安全設定が不可欠です。逆に、リーダーシップを共有する経験そのものが、チームの心理的安全性を高める効果もあります。各自がリーダー役を経験することで、「決断の難しさ」を理解し、他者の失敗に対しても寛容になります。失敗を責めるのではなく、学習の機会として捉える文化が醸成されるため、チーム全体でより大胆なチャレンジが可能になり、結果として大きな成果を引き寄せます。

帰属意識を超えた「当事者意識(オーナーシップ)」が育む組織文化

「自分の組織だ」という強いオーナーシップは、単なる帰属意識とは異なります。シェアド・リーダーシップを通じて意思決定に深く関わることで、メンバーは組織のビジョンを自分の内なる目標と重ね合わせるようになります。この状態になると、外発的な管理(アメとムチ)は不要になります。自らの意志で動き、自律的に改善を繰り返す組織文化は、模倣困難な究極の競争力となります。全員が当事者として誇りを持って働く職場は、結果として高い離職率の低下や採用競争力の向上にも寄与します。

導入への第一歩:個々の「強み」を棚卸しし、共通の目的地を描く

シェアド・リーダーシップは、ある日突然、命令によって始まるものではありません。まずは、メンバー一人ひとりが自分の持ち味を知り、チームとしてどこを目指すのかを共有する「土壌づくり」から始まります。年末年始の今こそ、静かな心で取り組める実践的なステップを提案します。

ドラッカー流「フィードバック分析」で各々の強みを可視化する

まずは、自分たちがどのような「武器」を持っているのかを知ることから始めましょう。ドラッカーが推奨した「フィードバック分析」(期待した結果と実際の結果を比較する)をチームで共有するワークショップは非常に効果的です。「〇〇さんは、土壇場での交渉力がすごい」「××さんは、複雑な事象を構造化するのが得意だ」といった具合に、本人が当たり前だと思っている「無意識の強み」を言葉にしていきます。この強みの可視化が、「どの場面で誰がリーダーシップを発揮すべきか」という共通の地図になります。

弱点克服ではなく「強みの組み合わせ」による相乗効果の設計

個人の弱点を埋めることに時間を費やすのは、知識労働の時代においては効率的ではありません。それよりも、強みと強みをどう組み合わせるかに知恵を絞りましょう。シェアド・リーダーシップは、いわば「強みのジグソーパズル」です。一人の欠落を他者の卓越性で補完し、全体として完璧な円を描く。この「相互補完」の設計図をメンバー全員で描くことで、「自分もこのチームに必要不可欠な存在だ」という自己信頼が各々に芽生え、主体的な行動のトリガーとなります。

チームが向かうべき「北極星」となるビジョンを共有する重要性

リーダーシップが分散すればするほど、バラバラな方向に力が分散する危険性があります。それを防ぐのが、全員が共有する「北極星(ビジョン)」です。「私たちは何のためにこの仕事をしているのか?」「誰を幸せにしたいのか?」という本質的な目的を徹底的に語り合い、肚落ちさせることが不可欠です。目的が一つに定まってさえいれば、各メンバーが独自の判断で動いたとしても、そのベクトルは自然と同じ方向を向きます。この「自律的な同調」こそが、シェアド・リーダーシップの真骨頂です。

小さな役割から始める「マイクロ・リーダーシップ」の推奨

いきなりプロジェクト全体の主導権を渡す必要はありません。まずは「定例会議の進行」「社内勉強会の企画」「今週のトピック収集」など、小さな範囲(マイクロ)でのリーダーシップから始めてもらうのが効果的です。小さな成功体験を積み重ねることで、リーダーシップに対する心理的ハードルが下がり、徐々に大きなバトンを受け取れるようになっていきます。大切なのは「自分でも状況をコントロールできた」という手応えを、すべてのメンバーに味わってもらうことです。

年末年始の今こそ行いたい「理想のチーム」への内省と対話

仕事の手が止まる年末年始は、自分たちのチームのあり方を見つめ直す絶好の機会です。自分一人で、あるいは親しい同僚と、「来年はどんな風にバトンを繋ぎ合いたいか?」「自分のどの強みをチームに捧げたいか?」を静かに問いかけてみてください。この時期に行う「質の高い内省」は、1月の始動時のエネルギーを大きく変えます。休み明けの最初のミーティングで、自分の「貢献への決意」を語る準備をしておくこと。それが、シェアド・リーダーシップという新しい冒険の始まりとなります。

まとめ

本日は連載の第1日目として、なぜ今、リーダーシップを共有し、全員が主役になる必要があるのか、その背景と本質について深く掘り下げてまいりました。

一人のカリスマに頼る時代の終焉は、決して不安なことではありません。それは、私たち一人ひとりが持つ「強み」や「専門性」が、かつてないほど組織にとって価値あるものになったという、希望のメッセージでもあります。ドラッカーが提唱した「貢献」の意識を持ち、心理的安全性を土台にバトンを繋ぎ合うことで、チームは個人の能力の足し算を超え、掛け算の成果を生み出すことができます。

明日は、このシェアド・リーダーシップを育むために最も重要な土壌である「心理的安全性」と「信頼」について、より詳しくお伝えします。

よりよい職場づくりへ、そして善くはたらく未来へ。あなたが今持っているその強みは、必ず誰かの助けとなり、チームの光となります。新しい時代のリーダーシップを共に創っていく勇気を、私は心から応援しています。

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